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29話 魔女様はくつろぐ

ようやく技練祭初日が終わり、つかの間の休息が訪れます。

中でも、魔導連合の大浴場はシリアプロデュースらしく・・・・・。

 転移して戻ってきた私達を迎えたのは、アーデルハイトさん達に対する大ブーイングと、負けたとはいえ大健闘した私達への熱い声援でした。総長であるアーデルハイトさんが優勝者へ送るトロフィーを副総長のヘルガさんに渡してさらにブーイングが起こるなど色々とありましたが、初日の模擬戦トーナメントは無事に終わり、私達は明日もあるからと魔導連合の客室で宿泊することになりました。


「はぁ~、疲れた! もうクッタクタだわ、動きたくなぁ~い……」


 ぼふんと音を立てて、レナさんが魔女服のままベッドに飛び込みました。それに倣うようにエミリも「ベッド~!」と飛び込んでしまったため、私は苦笑しながらエミリを抱き上げます。


「ダメですよエミリ。ベッドはお風呂に入ってからです」


「でもレナちゃんだってやってるよ、お姉ちゃん!」


「レナさんはこれから大変なので。ほら」


 私が指さした先には、顔を緩ませながら走ってくるフローリア様の姿があります。フローリア様はその勢いのままジャンプし、レナさんの元へと飛び込みました。


「レ~ナ~ちゃぁぁぁぁぁん!!」


「はぶぅあっ!?」


「はぁぁぁん! クタクタなレナちゃん可愛い! もう動けなぁいとか言いながらお風呂まで運んでもらえるのを期待してたのよね!? 任せて、私が運んであげるわ! なんならそのまま、体の隅々まで洗ってあげるわね!!」


「期待してない! してないから! やめて待ってやだやだやだ、シルヴィ~!!」


 フローリア様に激しく頬擦りされながら連れ出されるレナさんに手を振って見送り、私もエミリと自分の着替えを用意していると、それを見ていたシリア様が首を振りながら嘆息しました。


『ほんに騒がしい奴じゃのぅ。出先くらい静かにできんものか……』


「まぁ、フローリア様らしいと言えばらしいですし。出掛けること自体ないので、たまには羽目を外すのも大目に見てあげてください」


『それもそうじゃな。ほれ、妾達も風呂へ向かうとするかの。この二千年で変わってなければ、ここの風呂を見たら口が塞がらなくなるぞ?』


 楽しそうなシリア様の先導で、十四階にあるという大浴場へと向かいます。ちなみに、私達が宿泊する部屋は三階なので、昇降機での移動になります。

 昇降機は全面ガラス張りになっていて、移動中もお城周辺の景色が楽しめる造りでした。エミリはこうした高いところは好きなようで、だんだんと小さくなっていく景色にはしゃいでいます。


 一方、私はと言いますと。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


『シルヴィよ……。なぜメイナードの背は乗れて、あの光景がダメなのじゃ』


「すみ、すみません……。でも、足元も透明だと落ちそうと言いますか、割れたらどうしようと不安になると言いますか」


 ゆっくりであったとはいえ、足元もクリアに見えてしまう景色が怖くなってしまい、エミリとシリア様に抱き付きながら目を瞑り、到着を震えながら待つという失態をしてしまいました。


『お主の高所恐怖症には困ったものじゃな。ほれ、あの扉の奥が脱衣所じゃ』


 扉を引いて中へ足を踏み入れると、うちの脱衣所なんて比べ物にならないくらいの広さを持つ部屋に出ました。これだけ広いのなら他の利用者もいそうなものですが、棚の中の着替え置きを見渡してもどこも空で、微妙にフローリア様の服がはみ出ているくらいしかありませんでした。


 服を脱いでエミリの髪もまとめた私達がお風呂場へ向かうと、そこには目を疑う光景が広がっていました。


「うわぁ~……! 見て見てお姉ちゃん、お風呂がいっぱい!」


「これは……凄いですね」


 うちにあるような広さの湯船が複数個置いてあり、それぞれお湯の色が違います。中には沸騰しているかのように泡立つものや、真っ白に濁っている物もあります。


『どうじゃ、驚いたか? 魔導連合の湯は妾が創設したものでな、世界各地にある湯を再現してあるのじゃ』


「世界各地と言うことは、昔シリア様が生きていらっしゃった頃に体験して回ったものと言うことでしょうか?」


『うむ。妾もその昔、世界を渡り歩いていたことがあってな。その頃から大の風呂好きだったが故、あちこちで名湯の噂を聞いては入って楽しんでいたものじゃ』


「あ~! エミリちゃ~ん、こっちよ~!」


「レナちゃんとフローリアさんだ!」


「あっ、ダメですよエミリ! 体を洗ってからでないと!」


 ぬいぐるみのようにレナさんを抱いているフローリア様の元へ駆けだそうとするエミリを捕まえて、しっかりと体を洗ってあげます。自分の体も洗い終え、私達はフローリア様の浸かっているお湯へ足を踏み入れ――二人で悲鳴を上げました。


「にゃああぁあぁあぁあぁ!?」


「はうぅ!?」


「あっははは! 二人とも凄い顔!」


 レナさんの笑い声を聞きながら、慌てて足を抜いてしゃがみ込み、恐る恐る手を入れると、微弱な刺激が指先に伝わってきます。


「こ、これは、雷魔法ですか?」


「そう! でも人体に影響がないくらい微弱なのだから、ぐっと我慢しながら入ると気持ちいいわよ~」


「あたしのいたとこでは“電気風呂”って言うんだけどね。肩こりとか腰痛に効くし、血流も良くなるのよ」


 異世界ではお風呂に雷魔法を用いるのですか……。ですが、シリア様が造られたということは、当時にも異世界の文化を知っている方がいらっしゃったのでしょうか。


 気になって尋ねようとしたところ、尋ね先の姿を見て思わず声を上げてしまいました。


「し、シリア様!?」


『しび、しびびびび……』


 同じように湯船に浸かろうとしたらしく、小さな白猫の体がビクビクしながら転がっていました。


「あっははははは!! シリアも初めてだったのね!」


『なんじゃこの風呂は!! 妾はこんなもの造った覚えは無いぞ!?』


 酷くご立腹ながらも、入り方を覚えたらしくそろりそろりと体を沈めると、ふにゃっと顔を緩めるシリア様。しかし、微弱な刺激で体が小刻みに揺れているのがなんとも可愛らしいです。


 少し冷えてきてしまったので、私もゆっくりと体を湯船へと沈めます。すると、足先から体全身を巡るように、心地よい刺激が内側から伝わってきました。


「あぁ~……。これは、気持ちがいいですね……」


「でしょ~? あたしも昔は銭湯行って、こうやって電気風呂とかジャグジーとか楽しんでたのよ~」


 昔という発言にレナさんの顔を見つめてしまい、きょとんと首を傾げられました。

 そうでした。つい忘れそうになりますが、レナさんはこう見えて私よりも年上の方でしたっけ……。


 私は笑って誤魔化し、少し痺れで痛く感じてきた体を持ち上げて湯船から出ることにします。


「あ、シルヴィちゃん。出るなら私も行くわ~! 外のお風呂も気になってたから、そっち行ってみましょ!」


 勢いよく立ち上がったフローリア様の胸が、水面下から音が聞こえてきそうなほど大きく揺れながら現れ、思わず凝視してしまいます。普段から薄着とはいえ服に隠れているそれですが、こうして裸の状態で見ると、改めてその大きさに驚かされます。


「ん? …………あらぁ~、シルヴィちゃんどこ見てるのぉ?」


「い、いえ! そんなつもりでは!」


「このこのぉ! 私ほどじゃないとはいえ、シルヴィちゃんだって大きいじゃない~!」


「ひゃあぁ!? や、やめてくださいフローリア様ぁ!」


「そんな子はこうしちゃうんだから!」


「えっ、あのフローリア様待ってください! そんな私を抱きながら走ったら危な」


「え~い☆」


「いって、いやあああああああ!?」


 フローリア様に放り投げられた私は、室外にあるお風呂へ大きな水しぶきを上げながら入水しました。水面に顔を出して息継ぎをすると、目の前にフローリア様が飛び込んできます。


「シ~ルヴィ~、ちゃああああん!!」


「きゃああああああああああ!!」


 再びお湯の中へ沈められ、抱き付いて全身を揉んでくる魔の手から逃れようともがくも、凄まじい力で抱きしめられているせいで逃げ出すことが出来ません。


「っぷは! ダメですってフローリア様! そこは、んんっ!」


「やぁ~ん、シルヴィちゃんのお肌もっちもち~! レナちゃんとはまた違った良さがあって、ずっと触っていたくなるわ~!」


『この万年春女神! 妾のシルヴィに触れるでないわぁ!!』


「あぁん!」


 私達の騒ぎを聞いて駆け付けたシリア様によって、フローリア様の体がもの凄い勢いで水面を跳ねながら飛んでいきました。相変わらず、フローリア様への攻撃に容赦がありません。


 そのまま二人でバシャバシャとじゃれ合い始めてしまったため、今の内に別のお風呂へ移動することにしましょう……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 電気風呂! 猫ってそもそも肩こりとかあるのかしら…(笑) [一言] 百合風呂なのに! 細かい描写が(´;ω;`)! 小説の悲しいところです! 
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