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674話 魔女様は敵対される・後編

 やはりこうなってしまうのですね。

 各々の立場からして、逃れられないかもしれませんとは覚悟していましたが、こうして敵対されてしまうと、かなり心に来るものがあります。


「ごめんね…! 私だって戦いたくないの!! でも! 私も冒険者なの!! みんなの仲間なの!!」


「……分かっています」


「本当に嫌なのに! こんなことしたくないのに!! 何で私達、仲間割れしないといけないの!?」


 泣き叫びながらも、彼女は得意の土魔法で攻撃を仕掛けてきます。

 岩石の礫、鋭く削られた岩塊のトゲ、即席の土の拳。

 そのいずれもが、私に届くことはありません。


「ルミナちゃんが私達を騙すために来たわけないじゃない!! 何でみんな分かってくれないの!?」


 テオドラさんの悲痛な想いが込められた攻撃は、全てディヴァイン・シールドに弾かれて砕けていきます。

 それでもなお、彼女は攻撃を止めようとはしません。


「こんなのおかしいよ……!! 何でルミナちゃんは何も答えてくれないの!? 何でアーノルドはルミナちゃんのことを信じてあげられないの!?」


「そんなの、コイツらが俺達のことを暇潰しのオモチャ程度にしか考えてねぇからだろ!!」


「何でそうやって決めつけるの!? 全員が全員、そう考えてるってアーノルドは知ってるの!?」


「知らねぇよ!! だけど、そこにいる魔女がそう言ったんだ! それが答えだろうが!!」


 そこにいる魔女として、シリア様によって端っこへ転がされていたリィンさんへ視線が向けられます。

 彼女は我関せずと言った様子で、ツーンと壁の方へと寝返りを打ちました。


『あの阿呆のせいで話がややこしくなっておるのじゃがなぁ。やはり殺しておくか? どうせ死なんじゃろうし』


 シリア様。ここで争いをしたくないと言っている方の前で、そう言った発言は控えていただきたいです。


「本気で私達を殺したいと思ってたのなら、私達はもうとっくに死んでるわよ!! わざわざダンジョンを整備して、お宝まで用意して、そんなまどろっこしいことしてまで殺したいだなんて、本気で思ってると思うの!?」


「何が言いたいんだよお前は!? お前はどっちの味方なんだよ!?」


「どっちの味方にも着きたくない!! どっちも間違ってるんだもん!!」


 テオドラさんの叫びに応じて、土の拳が威力を増した気がしました。

 先ほどまでより少し重い衝撃を感じながらも、彼女の訴えに耳を傾け続けます。


「だいたい、アーノルドは短絡的過ぎるのよ!! 何でルミナちゃんの正体が魔女だったからって、リィンちゃんの仲間だって決めつけるの!? じゃあ何!? 私達とエンダービビットのバカ達は仲間って思われてもいいってこと!?」


「な、何でそうなるんだよ!? あのバカ共と一緒にされたくねぇって言うか、話が飛躍しすぎだろ!!」


「それと一緒ってこと!! ただ同じ冒険者だからって同列に見られたくない人がいるように、ルミナちゃんだってリィンちゃんと同じだとは限らないでしょ!?」


 ほんの少しずつですが、テオドラさんが放つ魔法の威力が上がり続けています。

 先ほどまではほとんど力む必要もありませんでしたが、徐々に押されてきているのが分かります。


「それはそうかもしれないが! じゃあ何でルミナ――いや、シルヴィは黙ってたんだよ!?」


「あなたみたなバカがいるからに決まってるじゃない!! バーーーーカ!!!」


「んだと!?」


 ド直球に暴言を吐かれたアーノルドさんが、怒りの矛先をテオドラさんへ向けようとしたため、脳内で猫達に指示を出して無理やり意識を反らさせます。


「ルミナちゃんはね!? フェティルアを守ってくれた大魔女なの!! 私の故郷を、訳の分からない化け物から守ってくれたの!! そんな優しい人が、人殺しの手伝いをすると思う!?」


「待てよテオドラ! まさかお前、ソイツがあの銀髪の魔女だって――」


 そう言いかけたアーノルドさんは、何かに気が付いたように言葉を止めると、そのまま体の動きも止めました。

 そんな彼に、テオドラさんは叫びます。


「そうだって言ってるじゃない!! ルミナちゃんはフェティルアを救った英雄で、街にポーションを売ってくれてる魔女、シルヴィなの!! 私達の敵じゃないの!!」


 そうは言いながらも、彼女は一向に私を攻撃する手は緩めないどころか、さらに激しさを増していきます。

 それを見つめていたシリア様は、『もしやあ奴……』と何かを考えていらっしゃるようでした。


「おい、シルヴィ。お前、本当にあのシルヴィなのか……?」


「どう伝わっているかは分かりませんが、フェティルアとポーションの件は間違いありません」


「なら何でそれを早く言わねぇんだよ!?」


「まだ言わせる気!? あなたみたいなバカに言っても信じてもらえないどころか、怖がられるからに決まってるでしょ!? このバカ!!」


 涙声ながらも怒鳴りつけてくるテオドラさんに、初めてアーノルドさんが怯みました。

 気が付けば、ユニカさんとシュウさんも戦闘を止めていて、テオドラさんの話を聞いているようです。


 あとは彼女が落ち着けば……と考えていると、テオドラさんは私をキッと睨むような鋭い目つきを向けてきました。


「ルミナちゃんもルミナちゃんだよ!! 何で何も答えなかったの!? そんなに私達のことを信じられなかったの!?」


「そうではなく、私が説明することで皆さんを何かの形で巻き込んでしまうのかと思って」


「そんなのいらない心配だよ!! 何でルミナちゃんに心配されないといけないの!? 私達のこと、そんなに情けなくて弱い冒険者だって思ってる!?」


「そ、そんなことは……」


「そんなことは無くても、そう思わせてるの!!」


「うっ……!!」


 また一段と、威力のある拳が打ち付けられました。

 そろそろしっかりと防がないと、力づくで盾を破られかねません。


「確かに私達は、魔女に比べたら話にならないくらい弱いかもしれない! でもね!? それでも私達は、皆でいろんなことを乗り越えてきたの!! ルミナちゃんには想像もできないくらい、いろんな苦難も乗り越えてきたからAランクを名乗ってるの!!」


 ……やはり彼女の土の拳が、先ほどまでとは比べ物にならないほど大きくなっています。

 まもなくドラゴンを倒す時に用いたそれと、同じくらいになるのではないでしょうか。


『これは面白い逸材を目覚めさせたやもしれんのぅ』


 どこか感心しているシリア様に詳細を聞きたいところですが、彼女の話を聞きながら攻撃を受け続けるだけで、私は手一杯になってしまっていました。


「魔女と関わったから危ない目に遭うかもしれない? 街を救った英雄とパーティを組んだから白い目で見られるかもしれない? そんなの上等よ!! 私達は“ドリームチェイサー”! 夢を追い続ける冒険者なの!! 危険や周りからの評価なんて覚悟の上よ!! バカにしないで!!!」


 遂に、ドラゴンを倒した時の腕になり、ゴーレム本体も姿を現しました。

 彼女はそれに気づいていないらしく、一心不乱に杖を振り続けています。


「今はまだ、魔女には遠く及ばないほどちっぽけな存在かもしれないけど! それでも!! 私達は絶対に夢を諦めないし、夢の邪魔をする人は魔女であろうとも倒して見せる!! それが夢追い人! ドリームチェイサーなんだからぁ!!!」


 テオドラさんが全身を使ってそう叫ぶと同時に、彼女が召喚したゴーレムが私を圧し潰さんと拳を振り下ろしてきました。

 それを真っ向から受け止めながら、彼女達を信じ切れなかった自分自身を恥じます。


 私はずっと、彼女達を巻き込みたくないと思っていました。

 私のせいで、魔術師の方々に目を付けられて欲しくないと言う思いから、アーノルドさんからの問いかけに答えられずにいたつもりでした。


 でも、それは違ったのかもしれません。

 私は心のどこかで、彼女達は私よりも弱いのだから守らなければいけない存在なのだと、そう決めつけていたのだと思います。


 なんと身勝手で、傲慢な思い上がりなのでしょう。

 テオドラさん達を尊重するフリをしながら、彼女達を拒絶し、距離を置こうとしていたのは他でもない私だったのですから。


 彼女達に打ち明けることができなかった本当の心境を知った私は、取り繕わない言葉を述べることができました。


「ありがとうございます、テオドラさん。そして、すみませんでした」


 ゴーレムの拳を強く弾き返し、体勢が崩れたところを神力を用いた拘束魔法で捕えます。

 天井に拳を打ち付けた状態で身動きが取れなくなったゴーレムの下で、肩で息をしていたテオドラさんは、自分に大きな影が掛かっていることに気が付いたらしく、ゆっくりと顔を上げると。


「うええええええええええっ!? な、何これ!? えぇ!? 何!? 何このゴーレム!? 怖っ! ってか近っ!! でっか!!」


 やはり自分で召喚したものだとは気づいていなかったようで、その大きさにパニックを引き起こしてしまいました。

 そんな彼女を、シリア様はおかしそうに笑います。


『くふふ! やれやれ、力の制御はまだまだこれからじゃのう! ほれ、お主もボーっとしとる場合では無いぞ。言うべきことがあるのじゃろう?』


「はい」


 私はディヴァイン・シールドを解き、ゆっくりとテオドラさんの元へと向かいます。

 彼女は近づいてくる私に一瞬体を強張らせましたが、私の表情が穏やかなものであると確認すると、にへっと笑いながら言いました。


「ルミナちゃんのお話、お茶でも飲みながら聞かせてよ。ちょっと叫びすぎて喉痛いんだ」


「はい。喜んで」


 腰が抜けてしまっていた彼女へそっと手を差し伸べ、私は笑顔を向けるのでした。

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