665話 異世界人達は満喫する 【レナ視点】
拝啓、シルヴィへ。
「ん~……! ピザ最高ぉ!!」
「このポテトもすっごく美味しい~!!」
「レナ様レナ様! こちらのナゲットという物も、とっても美味しいです!」
「そ、そう。それは良かったわ」
あたしの料理特訓は、悲しくも一日で終わりを迎えました。
というのも、あたしだけじゃ栄養バランスも考えて三食きっちり時間通りに作ってってやるには無理があったのだった。
『おい小娘。我にナゲットをよこせ』
「あんたさっきも食べてたじゃない。ほら」
テーブルに広げられている料理からナゲットを適当に取り、メイナードに差し出す。
するとメイナードは、器用にケチャップを付けながら食べ始めた。
『……ふん。こういった飯もたまには悪くない』
「ね~! シルヴィちゃんが作る栄養満点のご飯も大好きだけど、こういうジャンクフードも食べたくなるのよ~!」
そんなこんなで、シルヴィとシリアが出かけてから二日目の夜になる訳だけど、今日はフローリアに地球へお忍びで出かけてもらい、マ〇クとピ〇ーラで大量に注文して帰って来てもらった。
こんなに豪勢に買う事なんて中々ないから圧巻の光景だけど、これだけ買ってもなんと金貨三枚にも届かなかったって聞かされて、改めて地球の食事は安上がりだと痛感した。
「にしても、よく大神様が見逃してくれたわね。こんなに買ってきたらバレそうな気がするけど」
「バレたわよ?」
「バレてんじゃん!」
「当ったり前よ~! 今、ホントに持ち込み厳しくなってるんだから! 食べ物の持ち込みはすぐバレちゃうのよ!」
この世界はどっかのカラオケかな?
「じゃあどうやったのよ」
「ふっふっふ~、それはね……」
フローリアはマ〇クが入ってた紙袋をごそごそと漁ると、「じゃじゃーん!」と口で効果音を言いながら一枚のチラシを見せてきた。
「あ、ハッ〇ーセットのチラシじゃない。今週はグラ〇ルがオモチャになってるんだ」
「そうなの! それのね、これを渡したら許してくれたのよ~!」
フローリアが紙袋から取り出したのは、あたしもたまにCMで見かける青色のパーカーを着た男の子のオモチャだった。
背中のボタンを押すと、「ライジングソード!!」と喋る良くあるオモチャだけど……。
「え、これで許してくれたの? 大神様優しくない?」
「もちろんハッ〇ーセットもひとつ渡すよう言われたわよ? だから本当ならティファニーちゃんにもパンケーキあげられるはずだったのに……」
「全然大丈夫ですフローリア様! ティファニーはいっぱい食べられませんので!」
「あぁ~ん! ティファニーちゃんいい子過ぎて食べちゃいたくなるわ!!」
「やめなさいバカフローリア」
「ぁ痛っ!」
スコーン、とさっきのオモチャを投げつけると、ちょうどおでこに当たった時に「ライジングソード!!」って喋ったから笑っちゃった。
「わたしのも喋るんだよレナちゃん!」
そう言いながらエミリが見せてきたのは、何かよく分からないムキムキの赤いトカゲのキャラクターだった。
エミリが背中のボタンを押すと、「オイラに勝てると思ってんのか? 笑わせるぜ」と可愛いのに頑張って低い声を出してる感で喋るトカゲ。何でこんな挑発的なんだろう。
『小娘の世界では、こんな生き物がイキがっているのか』
「いや、これはゲームのキャラクターよ。あたしもよく分からないけど、元々はこんなキャラじゃなかった気がする」
『ゲーム、とは何だ』
「あ、そこからなのね……」
ピザやハンバーガーを食べながらメイナードに説明していると、途中からエミリ達も興味を持ったみたいで、あたしの話に目を輝かせて聞いていた。
「……って感じで、自分でキャラクターを動かしてボスを倒したりして遊ぶのよ」
「すごーい! 面白そう!」
「レナ様! ティファニーもやってみたいです!」
「とは言ってもこっちには無いし、持ってこれたとしても電気がないから充電もできないと思うわ」
「ふっふっふ! 私を誰だと思ってるのかしらレナちゃん!?」
あ、これまた出かけていくパターンだ。
「やめときなさいよ。大神様に怒られるわよ?」
「大丈夫! 大神様もこのキャラが出てきたゲームかオモチャを渡せば見逃してくれるはずだから! という訳で、さくっと行ってくるわね!」
「あ、ちょっとフローリア!!」
フローリアはそのままくるりと回り、姿を消してしまった。
ホント、落ち着きが無いんだから……とは思いつつも、その時の気分で全てを決めるフローリアなんて今に始まったことじゃないし、今さら咎めたところで変える気は全く無いのも分かってる。
あたしは溜息を吐きながら、突然いなくなったフローリアにポカンと呆けていたエミリ達に話しかける。
「さて、あのバカもすぐに帰ってくると思うし、あたし達はシルヴィ達が何を食べてるのか当てっこでもしましょうか」
「わぁ! やるやるー!」
「はい! ではティファニーから参ります! お母様のことですから、きっとお野菜たっぷりのスープを作られています!」
「あはは! 確かにシルヴィは野菜スープ好きよね!」
「でもティファニー、お姉ちゃんは冒険者さん達と一緒なんだよ? きっとお肉だよ!」
「ふむふむ、確かに一理あるかもしれません! では、お肉と野菜スープです!」
『ふん。どうせ貧乏な冒険者を憐れんで、備蓄の肉でも振舞っているのだろう』
「いや言い方最低よ、あんた」
そんな話をして食事を楽しむあたし達の夜は、あっという間に更けていった。
……補足する必要も無いとは思うけど、その五分後くらいにフローリアが全身を鎖でぐるぐる巻きにされて帰って来たってだけ、一応写真に撮っておこうかな。




