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663話 魔女様達は推測する

 その後も何者かの悪意を感じるトラップが各所に用意されていて、それらを解除する度に、“ドリームチェイサー”の女性陣からの殺意が高まっていました。

 かくいう私も、『この先に道が欲しければこれを着用すること。ただし人狼種限定』という解除条件を担当することになり、つい先ほどまでフローリア様の神衣よりも品の無い下着で歩かされたりしていたので、私個人としてもここを支配している人物を見つけて問い詰めたいところではあります。


『やれやれ……。ここを支配しておる輩は性欲しかないのぅ』


「低層はマシな造りだったとは思ったのですが」


『一層、二層まではそれなりに手が込んでおったが、三層から先がかなり雑じゃな。概ね、ここまで来んだろうと踏んで遊び始めたか飽きたかの二択じゃろう』


 何ともはた迷惑な話です。

 元々は自然の産物であるダンジョンを改造するならば、もっとダンジョンらしい形にしてくだされば良かったのに……と考えていると、ようやく階下へと進める階段が見えてきました。


「やっと終わった……。もううんざりなんだけど」


「何一つ力になれなくてすまない」


「シュウは仕方ねぇだろ。全部“女性限定”だったんだから」


「これでアーノルドも、れっきとした女の子」


「マジでやめてくれ」


 男性でありながら、女性としての辱めを受けさせられるという奇妙な体験をしたアーノルドさんは、ダンジョンに入る前よりやつれているようにも見えます。

 そんな彼を皆さんで疲れ気味に笑い、階段を進んでいくと、一際大きな扉が現れました。


『む……。気を付けよ、この先に何かいるぞ』


「何か、と言いますとダンジョンの支配者でしょうか?」


『いや、人では無い……。この気配、もしやドラゴンか?』


「ドラゴン!?」


 思わず大きな声を出してしまった私へ、皆さんから視線が集まります。


「な、何だルミナ!? どうした!?」


「今、ドラゴンって言った!?」


「え、えぇ。シリア様が、あの部屋の奥にドラゴンのような気配がすると」


 シリア様の言葉をそのまま伝えると、皆さんの表情が徐々に青ざめていきました。


「ど、ドラゴンって、なぁ?」


「いくらダンジョンだからって、そんな神話上の生き物出てくるわけないじゃない!」


「きっと勘違い」


「だが、シリアの探知能力は間違いが無かったのも事実だ」


「い、いやいやいやいや!! 待てよシュウ! 流石に何かの間違いだって! 仮に事実だったとしたら、シリアはドラゴンと戦ったことがあるってことになるぞ!?」


『あるぞ?』


「……シリア様は昔、ダンジョン内でドラゴンと遭遇して討伐したことがあります」


「「はっ!?」」


 綺麗に声を揃わせたテオドラさんとアーノルドさん。

 彼らのように口にはしなかったものの、ユニカさんとシュウさんも目を見開いてシリア様を凝視していました。


「マジで何者なんだよシリア……」


「猫ちゃんのまま戦った訳が無いもんね……? 実は、ものすんごい人だったりして……?」


 かつての勇者一行だった。とは言えませんし、ましてや【魔の女神】だとは口が裂けても言えません。

 ここは彼らの推測にお任せすることにしましょうかと考えていると、突然ダンジョン全体を揺らすような地響きが私達を襲いました!


「な、何だ!? 地震か!?」


「ダンジョンの中でも地震ってあるの!?」


「知らねぇよ!」


「あっち!」


 かなり揺れが大きくなりつつある中、ユニカさんは扉とは別の方向にあった空間を指さして駈け出しました。

 その後に続いて通路へと駆けこむと、通路の先にこじんまりとした部屋のような場所に出ました。

 洞窟の中にあるようなその小部屋の隅には、ボロボロの荷物と手帳があり、その隣には持ち主と思われる白骨体が壁を背に座り込んでいました。


「ひっ!?」


「ルミナちゃんは見ないでおこうね」


 そっとテオドラさんに視界を塞がれ、そのまま抱き寄せられます。

 そんな私へ、足元からシリア様の声が向けられました。


『妾達で調べてくるが故、お主はそこで待っておれ』


「は、はい……」


 それから間もなくして、白骨体の方からアーノルドさん達の声も聞こえてきました。


「死体が骨になった跡、か……?」


「俺達以外にも、ここに来た冒険者がいたんだな」


「骨格的に、女性」


「でも何で一人分だけなんだ?」


「その手帳に答えがあるかもしれないな」


「そうだな……ちょっと借りますよっと」


 視界は手で塞がれていて見えませんが、薄っすらとページを捲る音や、何かを漁る音が聞こえてきます。

 恐らく、ここで亡くなってしまった方の荷物から情報を得ようとしているのでしょう。


「えー……。“潜入三回目。また内部構造が変わっている。やはりここは特殊なダンジョンだ”? どういうことだ?」


「このダンジョンへ来る度に、中のフロアが変わっていたと言う事か?」


「さぁ? “同行してくれた内の一人が目の前で殺された。彼の断末魔が耳から離れない。どうか、無力な私達を許してほしい”」


「私達は、運良く全員生きてここまで来られたんだね」


「実際、ルミナがいなかったら二層で全員死んでたからな。それに、あのフロアも入る度に場所が変わってたとなると、ここまでの踏破で疲弊させられた後に待ち受けられてたりしたのかもな」


「まるで、ダンジョンそのものが生きているようだな」


「だな。……ん、何だこれ」


 疑問の声を上げたアーノルドさんは、また一枚ページを捲って読み上げ始めました。


「“このダンジョンは異常だ。死んだはずの仲間がモンスターになって襲って来た。まさか、ここで死ぬとモンスターにさせられるのか?” なぁ、これってまさか……」


『あのスカルプリースト達は、元々は凄腕の冒険者だった可能性が高いな』


 シリア様の言葉を伝えると、アーノルドさんは「やっぱりそうか」と呟きました。


「あの二層、何かおかしいとは思ってたんだよ。あれだけのトラップがあったのに、何で血痕も無ければ人がいた形跡すら無いんだって」


「つまり、あそこで死んだ人達は」


「あぁ。どんな形かは分からないが、モンスターにさせられていたんだ。だから、人がいた形跡が無かったんだよ」


 アーノルドさんの推測が現実味を帯び、私達全員に重くのしかかります。

 そこへ、荷物を物色していたと思われるユニカさんの声が聞こえてきました。


「これを見て」


「……これって!?」


「な、何があったのですか?」


「あ、ごめんね。ちょっと場所ずれるね」


 テオドラさんは私の視界に白骨体が入らないようにずれてから、私の目を塞いでいた手を外しました。

 そこには、見覚えのある服の切れ端を手のひらに乗せたユニカさんがいました。


「この布切れ……もしかして、スカルプリーストの服と同じではありませんか?」


「俺もそう思う。ってことは、アイツらは元々、この人と同じパーティだったんだ」


「それが、何らかの原因で死んじゃってモンスターになったってことなんだね……」


「あぁ。なっちまったもんは仕方がないが、俺達の手でこの人達の元へ送れたってことにしておこう」


 アーノルドさんの言葉に皆さんが頷き、白骨体に向けて手を合わせ、黙祷を送ります。

 私もそれに倣って祈りを捧げていましたが、ふと目を開いた隅で、シリア様がかなり険しい顔をされていたことに気が付きました。


「どうかされましたか、シリア様?」


『……いや、数多ある可能性の中から、最悪のケースを考えていただけじゃ』


「と、言いますと?」


 シリア様は私を見上げながら、静かに答えます。


『妾も奇妙だとは感じておった。禁忌魔法を扱うスカルプリーストに、死者を別の生き物へと転じさせる魔法。そして、妾達の失態を見て楽しむかの如きトラップの数々。そのいずれをも持ち合わせる人物がいたような気がしてな』


「まさか、二千年前の方が?」


『まだ断定はできんが、可能性が強まって来ておる。ルミナよ、いざという時は妾に体を明け渡す用意はしておけ。お主達では対処ができんやも知れぬ』


「……分かりました」


『ともあれ、今日のところはここで休むのが良かろう。その骨は妾が片付けてやるが故、お主から提言しておいてくれんかの』


 私はシリア様へ頷き、皆さんへ休息の提案をすることにしました。

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