658話 魔女様は身バレする
「いやぁ~! ルミナの飯は最高だ!! なぁ、ここの攻略が終わってもうちに残ってくれないか!?」
「ルミナがいてくれたら、旅の飯も楽しみに変わるな」
「ルミナ、おかわり」
「あ、はい。ですがその、やはりどこかに残ると言うのはまだ……」
「そんなこと言わずに頼む! なっ!?」
両手を合わせ、頭を下げてくるアーノルドさんに、同じように期待の籠った顔でこちらを見てくるシュウさん。
彼らの気持ちは大変嬉しいのですが、私にも魔女としての立場や仕事があるので……と、どう断ろうか考えていると。
「ほら、ルミナちゃん困ってるでしょ~? こういう勧誘は無理やり迫らないもんだって、あなた常々言ってたじゃない」
「いや、だけどテオドラ! 今回ばかりは話しが違うだろ!? あれだけすげー魔法が使えて、死んでもおかしくないユニカですら治せて、こんなに料理上手で気配りができる子だぞ!? 手放す選択肢が無いだろ!?」
「俺も同意見だ。アイツが抜けた穴埋めになれば程度に考えていたが、想像の遥か斜め上を行く逸材だ。戦力としても申し分が無い」
「だよな!? ユニカも、テオドラの飯よりルミナの飯の方がいいだろ!?」
話を振られたユニカさんは、何も言わずに親指をグッと立てて見せました。
「はぁ!? わ、私だってこれくらい作れるわよ!! それに、その口ぶりじゃ私の料理はマズイって言ってるような気がするんだけど!?」
「ちっちっちっち、甘いなテオドラさんや。世の中には、比べたらいけないものってもんがあるんだよ」
「どういうことよー!!」
「うわっ! やめろ痴女! この体じゃまじでお前に勝てないから!!」
「上等よ! 誰にケンカ売ったのか、その小さなぷにぷにボディにみっちり刻み込んであげるわ!!」
「痴女だー!! 痴女が出たぞー!! 助けてー!!」
「痴女痴女言わないでくれる!? 私はどこからどう見ても健全なエルふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
……またしても、無言の銃弾がテオドラさんを襲いました。
しかし麻痺毒とは言え、どう撃ち込めば腰だけ突き出すように倒れることになるのでしょうか。
「こんなうるさいパーティだが、気が向いたら言ってくれ。俺達は歓迎する」
「ん。ルミナなら大歓迎」
「よっと……。あぁ、できればこのまま残ってもらいたいが、お前にもお前の事情ってもんがあるだろうしな。でも、前向きに考えてくれると助かるよ」
「皆さん……」
「さーて! 明日もあるんだ、今日はしっかり食べておかないとな!」
「ルミナ、おかわり」
「お前食いすぎじゃねぇか!?」
「なら俺も頼もう」
「お前もいつの間に食ってたんだよ!? あぁ、俺も俺もー!!」
「ふふっ。まだまだありますので、沢山食べてくださいね」
『くふふ! ルミナよ、妾にもよそってくれ』
「はい」
かつてのシリア様のようにとは言いませんが、森を出た後も特にやりたいことがなく、魔法の研究だけに専念していた世界があれば、彼らとの出会いをきっかけに冒険者になっていたのかもしれません。
それほどまでに、彼らと過ごす時間はとても賑やかで、楽しいものだと感じてしまう自分がいたのでした。
その日の夜中。
ダンジョン内での野宿と言う事になり、時間制で見張りを交代することになった私達は、スカルプリースト達を倒してから薄暗くなってしまったフロアの一角で、焚火をしながら夜を過ごしていました。
私も先ほどまでは寝ていたのですが、今はシュウさんと交代で私が見張り番となっています。
パチパチと燃える木をぼんやりと眺めながら、今日の出来事を振り返ります。
川で遊び、楽しく食卓を囲み、笑いの絶えない温かな雰囲気を持つ、Aランク冒険者パーティのドリームチェイサー。
そんな彼らでも手も足も出ないほど、強大な力を持っていたスカルナイトとスカルプリースト。
本来ならば、ダンジョンの最下層にいるレベルのボス級モンスターとのことでしたが、それが何故、こんな浅い階層で待ち構えていたのでしょうか。
シリア様曰く、『低階層でも出現するほど危険な場所』とのことでしたが、あれほどの力を持つモンスターがこの先も続くと考えると、私達の体がいくつあっても足りない気がしてしまいます。
それに、たまたま私の神力や魔法が刺さった局面だったから良かったものの、マガミさんのように神力を無効化してくる敵が出てきた場合、私だけでは彼らを守れないと言う事も十分に考えられます。
そもそも、このダンジョンに入った時も相当深くに潜ってからのスタートでしたが、この先はどれほどのフロアが広がっているのでしょうか。
……考えれば考えるほど、不安になってきました。
纏っていた毛布をキュッと掴み、三角座りをしている膝に顔を埋めていると。
「隣、いいかな?」
「テオドラさん?」
音も無く、私の隣にテオドラさんが腰を下ろしてきました。
彼女は私にピッタリと体を押し当てながら、燃え続けている焚火へと視線を向けます。
「火って凄いよね。こうして安らぎを与えてくれる時もあれば、命を奪う凶器にもなるんだもん」
「そう、ですね。必ずしも安全とは言えないかもしれません」
「ふふ、そうよね。でもそれも、使う人次第なのかなって思ったりもするの」
彼女の言葉の意図がよく分からず、隣へと顔を向けた私へ、テオドラさんは優しく微笑みながら言いました。
「ルミナちゃんって、フェティルアを守ってくれた魔女なんでしょ?」




