27話 魔導連合の長は容赦をしない
苦戦を強いられる二人。
レナも大技を繰り出して決着へ持ち込もうとしますが、かえって魔導連合の長たるアーデルハイトらの奥の手を引き出してしまうことになり……。
「確かに俺はさっきも言ったように後方支援寄りだし、シルヴィちゃんが防御寄りだから、二対一でレナちゃんを苛めるのもどうかなって思って手を出さなかったけど、そうやってアイツの邪魔をされると逆にアイツが不利だからね。俺からもそろそろ仕掛けさせてもらうよ」
何かが来る。そう直感で感じて結界を多重に展開すると同時に、フローリア様を相手にしているかのような雷撃の雨が私に向けて放たれ、その中をヘルガさんが突き進んできます。
「くっ、うぅ!」
「いいねぇ! この程度じゃ倒せないとは思ってたけど、まさか全部防いでくれるとは! シルヴィちゃんが普段、どんな鍛錬を積んでるのか知りたくなっちゃうなぁ」
「ヘルガさんのように、雷魔法を得意とする方に、相手をしていただいていますので! これくらい防げないと笑われてしまいます!」
「ほぉ~、言ってくれるじゃん? んじゃ、もっと激しく行くぜ!」
まるでフローリア様とレナさんを、二人同時に相手にしているかのような錯覚に襲われるほどです。ですが、あの無茶苦茶な軌道に比べればヘルガさんの雷撃は素直で見やすいですし、レナさんほどの速度も無いので何とか対処ができます。
捌きながら彼の動きを観察し、結界ではなく躱す方ができそうな時を必死に探し、合間を縫ってレナさんの支援をする。正直目が回りそうですが、ヘルガさんもまだ本気ではないように見えて、それを許してくれている印象を受けます。
「なかなか器用だねぇシルヴィちゃん! でもよそ見は危ない……ぜっ!」
「くっ! ……ヘルガさんこそ、わざと隙を作ってくださっているではないですか。私に支援させたくないのではないのですか?」
「あっはは! まぁ支援されちゃあアイツが不利になって困るんだけどさ、それよりも試合前に言っただろ? 俺達は大型新人のお前達に興味があるんだって。だから、どこまで食らいついてくるか見たいんだよ」
いたずらっ子のように笑うヘルガさんに少し驚きましたが、目の前に舞い散った桜の花びらを見て、私はレナさんの準備が整ったことを悟りました。
「期待していただけるのは嬉しいですが、もうレナさんは勝負を決めるつもりのようですよ」
「何っ!?」
ヘルガさんの意識がレナさんへと向けられ、私はその一瞬を逃さずに再びアーデルハイトさんの足元を凍らせます。同時にレナさんの姿が桜吹雪と共に掻き消え、転びそうになる彼に向けてとどめの一撃が繰り出されます。
「降り注げ桜吹雪!!」
「ちっ……!!」
アーデルハイトさんは咄嗟に炎の鞭の出力を上げ、眼前に盾のようにまとめ上げて防ごうとしますが、レナさんの勢いに押し負け始め、じりじりと後退させられています。さすがにまずいと判断したらしいヘルガさんは私から距離を置き、レナさんに向けて雷撃を飛ばし始めました。
「させません!!」
「シルヴィ!」
「妨害は防ぎます! レナさんはそのまま押し切ってください!!」
「オッケー!! さぁて総長さん、頼みの綱は途絶えたわよ! 降参するなら痛くないように飛ばしてあげるけど!?」
「ふっ、威勢のいいことだ。……だが、魔導連合の長を舐めてもらっては困るな。ヘルガ、アレを使うぞ」
「えぇ~! アレ使うのかよ! しんどいの俺なんだけど!!」
「無駄口を叩くな、早くしろ!」
「ったく、人使い荒すぎだぜ……」
ヘルガさんは後ろ頭を掻くと、雷撃を止めてアーデルハイトさんに向けて詠唱し始めました。それに合わせて、アーデルハイトさんも詠唱を始めます。
『我、かの勇ましきものへ力を託さん。我が力を糧に、かの者の行く道を拒む全てを打ち払え!』
『我、我が道を拒む全てを打ち払う力を求めん。託されし力よ、我に従いあまねく障害を打ち払え!』
アーデルハイトさんを中心に、莫大な魔力の渦が出来上がり始めるのを感じます。
あれをまともに受けたらただでは済まないと頭の中で警鐘が鳴り響き、可能な限りレナさんへの被害が減らせるように、彼女の周囲に結界を多重に展開させます。
『『炸裂せよ、束ねられし魔力の奔流!!』』
詠唱が完了すると同時に、彼の盾となっていた鞭の色が蒼く染まり、周囲に稲妻が迸り始めました。それはまるで竜巻のような形を作り上げ、レナさんの攻撃ごと彼女を飲みこもうと襲い掛かります。
展開が間に合った結界で多少は勢いを削げてはいますが、それもかなり早いペースで砕かれてしまいます。
「シルヴィ! 離脱するから頑丈な結界ちょうだい!!」
「はいっ!」
レナさんの指示に従って、彼女の足元に幾重にも重ねた結界を展開すると、レナさんは攻撃を中断して結界を足場に竜巻から逃れようとしました。しかし、彼女の攻撃が収まってしまった結果、竜巻の勢いが増すこととなり、離脱すると同時に結界が割られ、レナさんの体を竜巻の端が掠めます。
「く、ああああっ!!」
「レナさん!」
場外へと飛ばされてしまいそうなレナさんの勢いを止めようと、大きめの結界を展開して彼女を無理やり静止させ、落下する体を受け止めようとしましたが。
「わだっ!?」
「むぐっ!!」
顔からレナさんの背中を受け止める形となり、二人揃って地面に転がる形になりました。顔を擦りながら身を起こしてアーデルハイトさん達の方へ向き直すと、彼らはそのまま私達に向けて手をかざしています。
まさか、この状況でもう一度撃ってくるつもりでは……!?
「予想以上に善戦してくれたな、【森組】。だがこれで終わりだ」
「カッコよく言ってるけどさ、俺もう疲れたんだけど。できれば撃ちたくないんだけど」
「黙ってろヘルガ。次で終わらせるから付き合え」
「へいへい……。そういうことだ、悪いな二人とも。楽しかったぜ」
そして再び始まる詠唱に、私は持てる限りの魔力で結界を編み上げます。さっきよりも膨大に膨れ上がる魔力に、周囲の空気もパチパチと小さな静電気のような音を立て始めました。
流石は魔導連合を率いるお二人です。エルフォニアさんの時もとてつもない魔力に当てられましたが、それよりも遥かに上回る圧を感じ、肌がヒリ付く感触すら感じます。
結界を編み上げながら集中していると、私の腰をがしっと掴まれました。振り向くと、レナさんが笑っています。
「シルヴィ、これを防いでもう一回攻めに転じられればあたし達の勝ちよ。副総長さんはたぶん使い物にならないから、実質総長さん一人だし勝ち目しかないわ。あたしも魔力貸してあげるから、二人で絶対防ぎきるわよ!」
「はい! ここを乗り越えて優勝しましょう!」
レナさんから魔力を移譲され、自身の魔力の高まりを感じます。
優勝は目前。私達二人ならきっと、あれを防ぎきれます!
私の結界の完成を見計らったかのように、アーデルハイトさん達が詠唱を完了させ、莫大な威力を誇る渦を撃ち込んできました。
『『炸裂せよ、束ねられし魔力の奔流!!』』
結界と渦がぶつかり、体が吹き飛ばされそうな衝撃波が私達を襲います。初撃となる衝突は防ぎきりました。あとは魔力勝負です……!
「「う、おおおおおおおおおおおッ!!!」」
「「やああああああああああああッ!!!」」
魔導連合を率いるアーデルハイトさん達。それに挑み、認めてもらいたい私達。絶対に負けられないお互いの想いが、魔力を通してぶつかります。
結界に生じる綻びが生れる度に鋭い痛みが私を襲いますが、痛みなど感じさせないくらいにさらに声を張り上げ、結界に力を込めます。
お互いに膠着状態が続き、魔力の底が見えてきそうな時でした。




