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656話 魔女様達は決着をつける・後編

 ですが、あと二つと言った所で後衛であるテオドラさん達が狙われてしまいます。


「きゃああああああああ!!」


「うあっ!!」


「テオドラさん! ユニカさん!!」


 無数の斬撃に襲われた彼女達は、全身を切り刻まれて吹き飛ばされてしまいます。


「だい、じょうぶ……! 大丈夫、だから……!!」


 とても大丈夫とは言えない出血をしながらも、ヨロヨロとテオドラさんは立ち上がり、私へ強がりの笑みを見せます。

 そこへ、追い討ちをかけるようにスカルナイトの大剣が振り下ろされようとしていました。


「あっ……」


「……っ!!」


『やめよシルヴィ!!』


 印を刻み終えることが最優先。

 それは頭では理解していても、目の前で命を奪われようとしている人を見逃すことはできません!


 ですが――。


「来るなあああああああああああああっ!!!!」


 部屋全体に響き渡る、幼い少女の叫び声が、私に冷静さを取り戻させました。

 振り下ろされる凶刃を、アーノルドさんが真っ向から受け止めたのです!


「うぐっ! ぐ、うおおおおおおおおおおおっ!!!」


 見た目は私よりも幼い少女と、部屋の天井に余裕で頭が届いている霊体の騎士。

 その質量差は見るまでもなく、即座に押し潰されてもおかしくないものですが、それに抗うように全力を込めて踏ん張っています。


「おおおおおおおおおおおおっ!!!」


「早くしろルミナ!!! 長くは持たねぇぞ!!!」


 加勢したシュウさんと共に、剣を押し返しているアーノルドさんの表情は、焦りと怒りが浮かんでいました。


「ルミナちゃん!! お願い!!」


 そんな彼らを、必死に支援魔法で援護するテオドラさんの声を受け、私は大きく頷いて駆け出しました。

 彼らが持ち堪えてくださっている間に、早く終わらせなければなりません!


 残り二つの印を刻み終え、急いで詠唱に取り掛かります。


 いつものように、魔法の効果を増幅してくれる杖はありません。

 ですが、ここで成功させなければ確実に彼らは殺されてしまいます。


 そんなことは、絶対にあってはなりません!!


「発動せよ!! 万象を捕らえる(アーレスト・ジ)戒めの槍(・オール)!!!」


 神力を発動させ、持てる魔力を全て使う勢いで魔法を発動させます。

 その想いに答えるように、鮮やかな赤い螺旋状の輝きを纏った光の柱が、部屋の四隅から出現しました。

 それは即座に、スカルナイトの巨体を捕えんと鎖を伸ばし始め、さらにスカルプリーストをも捕えます。


 ですがその直後、スカルナイトとスカルプリーストの激しい咆哮が部屋全体に響き渡り、とてつもない反抗が私に襲い掛かってきます。


「ぐ、ぅ……っ!!」


『耐えよシルヴィ!! ここが正念場じゃ!!』


「分かっています……! 絶対に、逃がしません!! はああああああああああああっ!!!」


 抗ってくる力を抑え込むように神力を注ぎ込み、スカルナイト達の抵抗をねじ伏せます。

 それでもなお、戒めから逃れようと決死の抵抗を続けるスカルナイト達ですが、あと一、二分くらいならこのまま押さえつけられそうです!


「シリア様! この後はどうしたら!?」


『妾の言う通りに、奴らに指示を出せ!!』


 シリア様に頷き、ドリームチェイサーの皆さんへ指示を飛ばします。


「皆さんにお願いがあります!! スカルプリーストのローブの下に魔力のコアがあるはずなので、それを破壊してください!!」


「コア!? 分かった!!」


 アーノルドさんは剣を構えなおし、スカルプリーストのローブを切り裂きました。

 すると、骨しかない体の中央付近に、青白く燃えているコアが姿を現しました。


「これだな!? うおおおおおおおおおおっ!!」


 咆哮と共に、彼は大剣を思いっきりコアへ突き刺しました。

 しかし、その切っ先はコアには届かず、何かに阻まれてしまっているようです。


「何だ、これ!?」


「魔力障壁だわ!! アース・バレット!!」


 テオドラさんがコアに向けて石のつぶてを打ち込むと、それはカンッと甲高い音を奏でながら弾かれてしまいましたが、一瞬だけ弾いた障壁が揺らいだように見えました。


「シリア様! あれはどうしたら!?」


『障壁の耐久値を上回る火力で破壊するのがセオリーじゃ! じゃが、テオドラの実力ではそれは適わん!!』


「では――!?」


 成す術無し。

 その言葉が脳裏をよぎりそうになりましたが、私の視界の端で、唯一それを可能とする人物が動いたのが見えました。


「げほっ!! こほっ! はぁ、はぁ……! どいて……!」


「ユニカ動くな! 死ぬぞ!?」


「いい……。ここで、みんなが死ぬより、ずっとマシ……!!」


 彼女はうつ伏せながらも上体だけ起こし、おぼつかない動作で銃弾を装填し始めます。


「シュウ」


「何だ!」


「私が撃ったら……げっほ!! テオドラを抱いて、ルミナのとこまで走って……」


「走る!? お前、まさか」


「その、まさか……」


 口から血を吐き出しながらも、僅かに口角を釣り上げたユニカさんは、小刻みに震える銃口で狙いを定めようとします。

 そんな彼女の支えとなろうと、テオドラさんが寄り添うように同じ体勢を取り、銃身を優しく支えました。


「あなただけ置いていく訳ないでしょ、ユニカ」


「でも」


「でもじゃない。だいたい、シュウの腕が一本使えないからって、女の子二人を抱いて逃げられないほど軟弱だと思う?」


「ははっ、その通りだユニカ! シュウの腕の太さなら、お前達二人抱いて逃げるくらい楽勝に決まってんだろ!!」


「……あぁ。テオドラが女の子かどうかはともかく、ユニカは軽すぎて心配になるくらいだからな」


「ちょっと!? いい雰囲気だったのに何でそういうこと言うの!?」


 こんな危機的状況だというのに、いつも通り笑いあえている彼らを、心の底から強い方々だと思わされてしまいます。

 それはシリア様も同感だったらしく、彼らを微笑ましく見ながらくふふと笑っていらっしゃいました。


『……さて、シルヴィよ。ユニカがあの“プラネット・エンド”を撃ち込んでから、起爆までの猶予は僅か三秒じゃ。その間に、お主は“万象を捕らえる(アーレスト・ジ)戒めの槍(・オール)”を維持しつつ、逃げてくるあ奴らのためにも“ディヴァイン・シールド”を使用する必要がある。これがどういう事か、理解できるな?』


「多重詠唱、と言う事ですね」


『うむ。前々から、機会があれば教えようとタイミングを見計らっておったが、今こそ最適じゃろう。一時凌ぎの使い方ではあるが、妾の言う通りに試してみよ』


「分かりました」


『では、始めるぞ。まずは、お主が妾の実体を作り出す時の要領で、お主の中にもう一人のお主を作り出すのじゃ』


「…………できました」


『うむ。次に、お主が普段から使う防護結界――今はディヴァイン・シールドじゃな。あれを使う動作をもう一人のお主にさせよ』


 頭の中で言われた通りに思い描き、いつもの私がディヴァイン・シールドを展開させました。

 すると、心なしか体内の魔力が“万象を捕らえる(アーレスト・ジ)戒めの槍(・オール)”で消費している分とは違う量を消費した感覚がありました。


「魔力が減った気がします」


『それでよい。先も言ったが、一時的に多重詠唱をする手順じゃからな。今回はお主の中で魔法を一つストックさせた、と言ったところじゃ。ほれ、そうこうしている内に向こうは準備が整ったようじゃぞ』


 シリア様の言葉の通り、アーノルドさん達の方では行動に移す段階に入っていたようです。

 シュウさんはいつでも走れるようにテオドラさん達の真横に構え、アーノルドさんがギリギリまで剣を押し込み、ユニカさんとテオドラさんがその切っ先から奥を狙っている状態です。


「行くよルミナちゃん! 三秒カウントで始めるから!!」


「分かりました!!」


「三! 二! 一……!」


「――プラネット・エンド!!」


 ユニカさんとテオドラさんの体が僅かに後方に揺れたと同時に、シュウさんが二人を抱えて駆けだしました。それに続くように、アーノルドさんも最後のおまけにと大剣を大きく切り払い、後ろを追いかけます。


『今じゃ!!』


「はい!! ディヴァイン・シールド!!」


 ストックさせていたディヴァイン・シールドを最大出力で展開し、“万象を捕らえる(アーレスト・ジ)戒めの槍(・オール)”と同時に効力を維持させます。


 なるほど。感覚としては魔導石での詠唱ストックと似た感じです。

 これなら私への負担はほとんど無いまま魔法の行使ができます!


 そんなことを考えている内に、皆さんが駆け込んできて三秒が経過しました。


『来るぞ!!』


 そう短く警戒を促したシリア様の言葉を最後に、私達の世界からは音と光が消えていきました。

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