654話 魔女様達は慄く
二回戦が始まってから先は、見事としか言いようのない連携を見せてくださいました。
先程までのようにシュウさんが攻め続け、追い込めそうな時でも敢えて胴体や足を狙って隙を生み出す一方で、スカルナイトと切り結んでいるアーノルドさん側がそれに合わせるように畳み掛けようとしています。
それを管理しているのがユニカさんで、ちょっと先走って攻め込み過ぎだった方に対し。
「シュウ!」
「悪い!」
と、今のように名前を呼ぶだけという短い指摘なのですが、皆さんはそれだけで理解したように攻撃を緩めたり、フェイントを掛けたりするようになるのです。
また、そんな彼女も的確に攻撃を行っていて、シュウさんの攻撃が弱点と思われる頭以外に当たると予測すると、彼女もスカルナイトへ弾を撃ち込み、着弾した部分を爆発させたり凍結させたりしていました。
『くふふ! なかなかに優れた連携じゃな! お主も手を抜くでないぞ?』
「もちろんです!」
シリア様に頷き、シュウさんの斜め右後ろに盾を展開します。
それからほんの僅かに遅れて、闇魔法で作られた大鎌が盾に弾かれました。
二回戦が始まってからというもの、直接的な攻撃は全て防がれると理解したらしく、こうした死角を狙った攻撃が多くなっています。
幸い、スカルプリーストの魔力は独特なので読みやすく、魔法が行使される前の対処が可能ですが、仮に私の捌き方を学習されると少し面倒なことになりそうです。
かく言う私も、なるべく読まれないように意図的にずらしてみたり、ギリギリだった雰囲気を演出したりしてはいるので、そう簡単に読まれることはないとは思うのですが、警戒するに越したことはありません。
そんなことを考えながら攻撃を防ぎ続けていると、私達とは反対側から、アーノルドさんの可愛らしい声で悲鳴が上がりました。
「ぐあっ!!!」
「アーノルド!!」
一瞬だけ視線を外してそちらを見ると、彼は剣を高く弾かれていたらしく、隙だらけとなってしまった体を蹴り上げられてしまっていました。
そのまま追撃にと剣を構えているスカルナイトを見て、彼の支援をと盾を展開しようとしましたが。
「きゃっ!?」
私の足元に、ユニカさんが放った弾丸が着弾し、小さく爆発を引き起こしました!
「こっちは気にしないで」
「……分かりました!」
ユニカさんとテオドラさんを信じて、再びシュウさんの援護に戻ります。
足元からせり上ってくる影の槍、死角を狙った氷塊。詰め過ぎた距離を無理やり離そうと自分ごと炎で包むなど、様々な手段で防衛してくるスカルプリーストは、私なんかよりも遥かに戦い慣れています。
こう言ってしまうのは失礼にあたるのかもしれませんが、私がこれまで戦った中でも強敵と感じた、エルフォニアさんに匹敵するようにも思えます。
彼女との最大の相違点は、転移を使わないことと、近接戦闘を仕掛けてこないことでしょうか。
そんなことを考えながらも、逃がさず深追いせずの攻撃を続けていると、再びスカルプリーストが大きく距離を取るように飛び下がりました。
すかさず追い詰めようと地面を蹴ったシュウさんでしたが、そうはさせまいとスカルナイトが割って入ってきます。
「私が防ぎます!!」
威力よりも速さを取った剣閃を盾で防ぐと、今度はスカルナイトまでその場から大きく飛び下がりました。
「何だ!?」
今のは深追いし過ぎたための身代わりではなかったのでしょうか?
警戒を緩めず盾を構えているところへ、アーノルドさん達が合流します。
「悪い! タイミングがズレたか!?」
「ズレてない」
「あぁ。むしろ、スカルプリーストが唐突に逃げたように見える」
「でも、逃げるって言ってもどこに」
テオドラさんがそう口にした直後、スカルナイト達から爆発的な魔力の膨張を感じ取りました。
『何じゃ!?』
「みんな、構えろ!! 何か仕掛けてくるぞ!!」
「皆さん、私の後ろへ!!」
盾の大きさをふた回りほど大きくし、何があっても防げるように身構えます。
それに合わせるように、スカルナイト達から黒紫色の魔力の柱が立ち上り、彼らの体を覆い尽くしました。
それはやがて、ゆっくりと混ざり合うように渦巻き始め、ひとつの大渦へと変わっていきます。
魔力の暴風に吹き飛ばされないように踏ん張る私の視界の先では、信じられない光景が広がっていきます。
「スカルナイトが、巨大化してるのですか……!?」
『いや、あれはまさか……!?』
スカルナイトの物と思われるシルエットがどんどん大きくなり、上半身だけとは言え、部屋の天井に届く勢いになっていました。
その中心では、スカルプリーストが天を仰ぎながら両腕を広げています。
「なんかヤバそうだ! ユニカ! テオドラ! 今の内に叩け!!」
「了解!! グランド・フィスト!!」
「パラライズ・ショット!」
ユニカさんが放った弾丸はスカルプリーストに着弾し、その全身を縛り上げるかのような電撃を浴びせました。
その上から、粗雑ながらも岩で作られた巨大な握り拳が振り下ろされ、スカルプリーストを押し潰さんとします。
しかし――。
「嘘っ!?」
その握り拳は瞬時に切り刻まれ、空中で瓦解してしまいました。
バラバラと崩れ落ちていく細かな石片が、まるでカーテンのようにスカルプリーストを覆っていましたが、その数秒後に全てが弾き飛ばされました。
盾があるとは言え、砂埃のせいで視認性が悪くなっている中、何とかスカルプリーストの動きを見逃さないようにと注視していると、骸骨の頭がグリンとこちらへ向けられました。
それはまるで、準備が整ったと言わんばかりの笑みを浮かべているかのような――。
そう感じてしまった直後、一際強烈な突風と共に、無数の剣閃が私の盾を襲いました!!
「くっ!? うぅぅぅぅぅぅ!!」
「大丈夫かルミナ!?」
「だい、じょうぶです!! 驚いただけです!」
かなり威力は高いものの、この前のフローリア様を模した願いの具現ほどのダメージはありません。
しかし、少しでも気を抜けば盾が剥がされてしまいそうなほどではあることには変わりません。
時間としてはほんの数秒なのだとは思いますが、体感ではもっと長く感じたその猛攻を防ぎきると、上半身のみ巨体となったスカルナイトから、獰猛でお腹の底に響く雄叫びが発せられました。
その強烈な音波に砂埃も全て吹き飛ばされ、視界がクリアになった私達の前に、ようやくスカルナイト達の全貌が現れました。
「な、何だよあれ……!?」
「でっか……!!」
私達を天井から見下ろすほどに大きくなったスカルナイトは、その体が青く透けています。
そして、それに護られているように中央に立っているスカルプリーストからも、同じ色のオーラのようなものが立ち昇っているのがわかりました。
『……よもや、この魔法をここで見ることになろうとはな』
忌々しそうに呟いたシリア様へ、私達の視線が集まります。
「ルミナちゃん。シリアちゃんは何て言ってたの?」
テオドラさんに答えるよりも先に、シリア様が険しい顔を浮かべながら言葉を続けました。
『あれは終の演目という、他者と己の命を使った禁忌魔法じゃ。捧げた生命の数だけ世の理を超越し、擬似的に魔神が如き力を得ることができる呪われた魔法じゃよ』
あのスカルナイト達が使用したとんでもない魔法に言葉を失いそうになりますが、シリア様の説明をそのまま皆さんに伝えます。
案の定、皆さんは驚愕と畏怖に顔を染め上げ、戦意を喪失しそうになってしまいました。
「嘘だろ……? 魔神って、神様と同じくらい強いって言われる存在だろ……?」
「ど、どうするのこれ? 私達なんかじゃ手に負えないわよ!?」
「だが、既に退路は無い……」
シュウさんの言う通り、いつの間にか廊下への道は閉ざされてしまっていて、この場から移動するには奥の扉を進むしか残されていない現状です。
「テオドラ、アレは?」
「……ダメ。魔力を込めようとすると力が抜けていっちゃう」
「クソ、どうする……?」
既に絶望の空気が漂い始め、皆さんの顔が下を向いてしまいます。
そんな彼らを見た私は、もう選択肢が無いと判断するしかありませんでした。
『シリア様』
『……この際、やむを得まい。話なら妾がいくらでも作ってやるが故、好きなように戦ってみよ』
念話で尋ねようとしましたが、既にシリア様も同じ考えでいらっしゃったようです。
ありがとうございます、シリア様。と内心でお礼を言いつつ微笑み、改めて彼らへ提案することにしました。
「皆さん。私に考えがあります」




