653話 魔女様は看破する
アーノルドさんが先行し、不利な身長差を埋めるように高く飛び上がりました。
彼はそのまま空中でくるりと一回転を加えて、さらに一撃の重さを加算させます。
「ぅおらあああああああああああああああっ!!!」
振り下ろされた大剣に対し、スカルナイトは頭上に剣を構えて受け止めました。
鈍い激突音と衝撃波が発生し、スカルナイトの少し後ろに控えていたスカルプリーストのローブが強くはためきました。
その瞬間にローブの内側がちらりと見えましたが、やはりローブの下も骨しか無い模様です。
「シュウ!!」
「おう!!」
全力で叩き切ろうと体重を掛け続けていたアーノルドさんに短く応じたシュウさんは、彼の真下へと潜り込みました。
「閃砕拳ッ!!」
低い体勢から繰り出された右の拳が、鎧の胴体部分を抉るように打ち込まれました。
先程の剣戟音よりも鈍く音が響き、シュウさんの一撃に耐えられなかったらしいスカルナイトが大きく吹き飛ばされます。
「手応えは!?」
「無いな。物理は通りにくそうだ」
「なら、俺がスカルナイトの攻撃を惹き付ける。お前はスカルプリーストを頼む」
「あぁ」
「テオドラ! ユニカ! お前らは俺とスカルナイトをやるぞ! ルミナはシュウの援護を!!」
「はい!」「任せて!」「ん」
『くふふ! 即座に作戦の立案ができるのは、有能の証じゃのぅ!』
各々が散開して行動を開始する中、肩のシリア様が楽しそうに笑います。
そんなシリア様に小さく笑い返し、私はシュウさんの援護に集中します。
「むぅん!!!」
顔を狙った拳がかわされ、即座に体を捻って回し蹴りへと移行するも、スカルプリーストは大きく距離を取ってシュウさんの間合いから逃れていきます。
さらに、カウンターと言わんばかりに闇魔法で生み出した弓を出現させると、それを彼に向けて一斉に放ちました。
「させません! ディヴァイン・シールド!!」
腕を交差して防御の構えを取っていたシュウさんの前に、聖なる盾を出現させます。
甲高い衝突音を奏でた私の盾は全ての矢を防ぎ、その内の数本をスカルプリーストへと反射させました。
まさか自分の攻撃が跳ね返されるとは予想していなかったのか、スカルプリーストから焦りのような様子が見て取れましたが、スカルプリーストは自身にバリアを付与してそれを防ぎました。
どうやらこちらは、魔法攻撃が通らない相手のようです。
「すまない、ルミナ!」
「飛来する攻撃は全て防ぎます! シュウさんは攻撃に専念してください!!」
「ふっ。頼もしい――なっ!!」
彼はニッと笑みを浮かべると、私のことを信じて、防御を捨てた連撃を繰り出し始めました。
スカルプリーストは距離を取ろうと逃げながら魔法を放ちますが、私がその全てを防ぐせいで有効打にならず、即座に距離を詰め直されてしまっていました。
やがて、追い詰められたスカルプリーストの顔を目掛けて、シュウさんの渾身の一撃が繰り出されようとしています。
「おおおおおおっ!! 金剛破砕撃ッ!!」
シュウさんの拳が金色に輝き、凄まじい威力を伴ったそれがスカルプリーストに放たれる――そう思った瞬間でした。
『……!! いかん、シュウの左に盾を構えよ!!』
「はい!!」
言われるがままに盾を出現させると、直後に重い一撃が私の盾に激突しました。
「なっ!?」
驚愕に目を剥くシュウさんの眼前には、たった今、彼に向けて振り下ろされた剣を防がれているスカルナイトがいたのです!
直前まではいなかったはずなのに……と考える間もなく、シュウさんの拳がスカルナイトの顔を殴りつけ、その頭を綺麗に吹き飛ばしました。
よく分かりませんが、スカルナイトは倒せたのでしょうか。
そう思った瞬間、スカルナイトに庇われたスカルプリーストがニヤリと笑みを浮かべたような気がしました。
――違います、これは罠です!!
「シュウさん!!」
慌てて盾を移動させて、シュウさんを護ります。
その直後に、彼の拳を切り落とそうとしていた大鉈が私の盾に阻まれて鈍い激突音を奏でました。
あと一瞬でも判断が遅れていたら。
最悪の展開を防げたことに安堵しつつも、冷や汗がこめかみを伝います。
「助かった!!」
シュウさんはスカルナイトを強く蹴りつけ、一旦距離を置こうと飛び下がってきました。
そこへ、それなりに離れた位置で戦っていたアーノルドさん達が駆けつけてきます。
「シュウ! ルミナ! 大丈夫か!?」
「あぁ……。何がどうなっている? アイツはお前らと戦っていたはずだろう?」
シュウさんの当然の疑問に、テオドラさんが答えます。
「それが、目の前から一瞬でいなくなったのよ! で、気が付いたらそっちに割り込んでたって感じ!」
「なんだと?」
シュウさんではありませんが、私も同じように声を上げそうになりました。
ひとまず、今までの状況を振り返ってみることにしましょう。
まず、私とシュウさんでスカルプリーストの相手を。
アーノルドさんとテオドラさん、そしてユニカさんでスカルナイトの相手をしていたことは間違いありません。
それは今の今まで変わらなかったはずでしたが、シュウさんがスカルプリーストの頭部を狙った一撃を繰り出した瞬間に、何故かスカルナイトが割り込んで庇うような動きを見せていました。
さらに言えば、スカルプリーストはそれが分かっていた前提で、シュウさんの拳を切り落とすために魔法を用意していました。
という事は、まさか……。
「あの二体は片方が致命的な状況に追い込まれると、ダメージが通りづらいもう片方で防ごうとするのでしょうか」
私の予想に、シリア様が頷きました。
『悪くない推察じゃな。付け足すとすれば、あ奴らは二対の存在じゃ。故に、同時にトドメを刺せる状況にならんと倒せん』
「同時にですか!?」
「な、なんだ? シリアは何て言ってるんだ?」
困惑する私へ、余計に状況が読めていない皆さんを代表してアーノルドさんが問いかけてきます。
「あのスカルナイトとスカルプリーストは、二体でひとつの存在らしいです。さらに、片方だけが劣勢になるともう片方が庇ってしまうのです」
「って言うことは……」
今の説明で理解したらしいユニカさんが、銃に弾を込め直しながら答えました。
「同時にトドメを刺すしかない」
「はい。ユニカさんの言う通りです」
「ははっ……無茶苦茶言ってくれるなぁ!」
ヤケ気味に笑ったアーノルドさんでしたが、その表情は絶望などではなく、むしろ楽しもうとしているように見えました。
「なら、連携していくぞ。目の数が多い分、俺達がシュウ達に合わせる。ユニカはタイミングを測って打ち込める準備をしてくれ」
「ん」
作戦会議を終えた私達を待っていたかのように、スカルナイト達は改めて武器を構え直しました。
「へへっ、待ってくれるとは律儀な奴らだぜ。そんじゃ、二回戦と行きますか!!」
「今度こそ倒すわよ!!」
「はい!」「当然だ!」
『何層あるかも分からぬダンジョンの二層目じゃ! こんなところでもたついてはおれんぞ!』
シリア様の仰る通りです。
どんどん先に進むためにも、皆さんの支援に専念することにしましょう!




