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646話 魔女様は空を駆ける

 川遊びを満喫し終えた私達が、目的地である湖に到着した頃には、既に午後の十四時を回ってしまっていました。


「いやぁ、すっかり遊んじゃったわね! どうする? こっちでも遊んでいく?」


「バカ言ってないで、早くダンジョンの入口を探すぞ」


「はーい」


『くふふ。ルミナよ、今の内にレナに連絡を入れておけ。これでは到底、今日中に帰るなど叶わんからな』


「分かりました」


 他の皆さんに見られないよう、さり気なく最後尾に移動してからレナさんへメッセージを送ります。


「やはり今日中に帰るのは難しそうです。今晩はペルラさん達のところで食事を取ってください、と」


「ペルラって誰?」


「ペルラさんと言うのは、兎人族でアイドルをやっている可愛い方の事です。酒場を切り盛りしようと頑張ってるリーダーで――」


 そこまで説明してから、ハッとしました。

 嫌な予感がしつつも振り返ると、ユニカさんが私の肩越しにウィズナビを覗き込んでいるではありませんか!


「それは何?」


「あ、こ、これはですね……」


「おーい! ルミナちゃーん! ユニカー! こっちに何かあるよー!」


 ナイスタイミングです、テオドラさん!!


「ほ、ほら、ユニカさん! 呼ばれてますよ! 急いで行きましょう!」


「逃げた」


『くふふ! 気配が無いと言うのも厄介じゃのぅ!』


 楽しそうに笑うシリア様に内心で同意しつつ、テオドラさんの下へと急ぎます。

 彼女が声を上げた場所に辿り着くと、そこにはついさっき沈んでしまったと思われる足場がありました。


 やはり、潮の満ち干きでのみ現れる時限式の足場なのですね。と確証を得ていると、同じくそれを見ていたアーノルドさんが腰に手を当てながら溜め息を吐きました。


「おいおい、どうすんだこれ。泳いで行くにはかなり距離があるぞ?」


「テオドラ、いつものように足場を作れないか?」


「うーん、この距離だと何がいいかな……とりあえずやってみるね」


 テオドラさんは杖を構えると、水の中級魔法――アイシクルスパイクを唱えました。

 宙に出現した三角錐のような氷塊は、重力に引かれるように水面へ落下して湖底に突き刺さります。


「おぉ! ……お?」


 歓声が上がったのも束の間。

 突き刺さったはずのその氷塊は、ぐらりと左右に倒れて沈んでいってしまいました。


「あらー」


「あらー、じゃねぇよ! もうちょいしっかり打ち込めなかったのか!?」


「いやいや、そもそも魔法で渡るのが無理っぽいのよ。着弾した時に干渉されちゃった」


「ふむ。となると、魔法で足場を作るのは無理か。泳ぐしかないか?」


 シュウさんがそう言った直後。

 湖面を一匹の魚が飛び跳ねたのが見えました。

 あれは、私の見間違えでなければ……。


「ぴ、ピラニアがいるぞこの湖!?」


「殺意たっか!!」


 良く見なくても、先程のピラニア以外にも水面下で泳いでいる姿が散見されます。

 泳いで渡ろうとしたが最後、彼らの食事となってしまうのでしょう。


「力技は認めない、か。流石は危険地域にあるダンジョンだな」


「飛べば?」


「バカ言えお前、ここから何メートルあると思ってんだ」


 アーノルドさんの言う通り、ここから中心の小島まではざっくり十五メートル以上はあります。

 とても跳躍して移動するには無理が――と思った瞬間、私はある手段があることを思いつきました。


「飛べる、かもしれません」


「はぁ!?」


「えっ、ルミナちゃん正気!? ジャンプするの!? この距離で!?」


「あ、いえ。ジャンプする意味での飛ぶではなく、飛行する意味で飛べるかも、と」


「あー、なるほど……ってなるか!!」


「飛行魔法は上級魔法なのよ!? そんなの私、使えない――え、待って? まさかルミナちゃん」


 何かを察したテオドラさんに頷き、私は足元に魔力を集中させます。

 つい先日、ソラリア様に教えていただいた風の加護の魔法。これなら足場など無くとも渡れるはずです。


 そう判断して魔法を発動させると、私の靴に可愛らしい天使の羽のようなものが生えました。

 こんなもの、前には生えなかったはずですが……。神力ではなく、私の魔力で発動した結果、形が変わってしまったのでしょうか?


 何はともあれ、まずは移動ができるかの確認です。

 皆さんから数歩離れて、まずは垂直に飛び上がります。そのまま空中に着地し、風の足場がしっかりできていることを確かめてから移動を開始します。


 万が一、途中で無効化されても嫌なので、大きく跳ねながら目的地へと向かいます。

 すると、特に問題なく小島の上まで移動することができました。

 この方法なら、時間は掛かりますが皆さんを連れてくることができそうです!


 確証を得た私は、同じように対岸へと飛んで移動し、皆さんの前に着地します。


「大丈夫そうです。空中には影響がありませんでした」


「お、おう……」


 イマイチ反応が薄い彼らに疑問を感じる私へ、肩に飛び乗ってきたシリア様が笑いました。


『くふふ! よもや、風の上級魔法“フェアリーブーツ”を会得しておったとはの! やるではないか!』


 そんな名前の魔法なのですか? と言いそうになりましたが、寸でのところでソラリア様が仰っていた言葉を思い出しました。


『あたし達はそう呼んでたけど、人間がどう呼んでるかは知らないわ』


 という事は、シリア様が魔女となった頃から既に、フェアリーブーツと呼ばれるようになっていたのでしょう。

 シリア様へ微笑み返し、改めて皆さんへ向き直ります。


「一気には運べないので、一人ずつ抱き上げて運びたいと思います。どなたから行きますか?」


 私の問いかけに対し、真っ先に反応したのはテオドラさんでした。


「ルミナちゃんに抱かれるなら、後がいいな……心の準備がまだ……」


 ただし、悪い意味でです。


「お前なぁ……」


「アイツは無視してくれ。それと、俺から運んでもらえるか?」


「なんでシュウからなの!? レディファーストでしょ!?」


「お前が後がいいと言ったんだろうが」


「それはそれ、これはこれ!」


「意味が分からん」


「なら俺が行こう。見た目はレディだからな!」


「はぁー!? あれだけ男アピールしてたのに、いきなり何!? あ、分かった! アーノルドあなた、ロリコンなのね!? ルミナちゃんのような可愛い女の子に抱かれたいんでしょ!? そうでしょ!?」


 もう話が飛躍し過ぎて頭が痛くなってきた私ですが、アーノルドさんは全く気にする様子もなく、私の前まで躍り出ると。


「残念だな! 可愛さなら俺の方が上だっていう自覚はある!」


 自身の胸を張りながら、得意げにそんなことを言い始めました。

 男性であるアーノルドさんにこう思うのは失礼に当たるかもしれませんが、彼の言うとおり、今の見た目は大変可愛らしいと思います。


 だからと言って、それを誇るのもまた何かが違うような気もしてしまいますが……。


「お前みたいな年増より、俺やルミナみたいな若い女の子の方が需要は高い! 悪いなテオドラ!」


「年増!? 今、エルフにとって最大の地雷を踏み抜いたわよあなた!!」


 そんな彼の挑発にあっさり乗ってしまったテオドラさんは、怒りに顔を染めあげながら杖を取り出しました。


「きゃあ~、お姉ちゃん助けてぇ~」


「えぇ……?」


「どいてルミナちゃん! ソイツ殺せない!!」


 私を挟んで喧嘩をし始めるお二人。

 まだダンジョンにも足を踏み入れてないにも関わらず、既に疲れてきた私へ、シリア様は溜息混じりに言います。


『ほれ、さっさとアーノルドを運んでしまえ。こ奴等を固めておくと面倒じゃ』


「分かりました。ではアーノルドさん、失礼しますね」


「おう!」


「待ちなさいこら! 逃げるなぁ!!」


 可愛らしい鎧に身を包んでいるアーノルドさんを抱き上げ、再びフェアリーブーツを発動させて空を駆けます。

 小島まで飛翔し終え、彼を地面に降ろすと、何故か満足気な表情でこう言われました。


「ご苦労様でした! 褒めてつかわします!」


「ふふ。お褒めに預かり光栄です、お姫様」


 そういうごっこ遊びなのでしょう、と乗ってあげたのですが、アーノルドさんはほんのりと頬を染めると、気恥ずかしそうにそっぽを向きながら髪を弄り始めました。


「あー……その、なんだ。今のナシで。やっぱり恥ずかしい……」


「意外と気に入っているのかと思ってしまいました」


「新鮮だし、気に入ってなくもないけど、いざ意識すると色々と恥ずかしいんだよ……」


 後半、尻すぼみになっていく彼の言葉に小さく笑っていると、早く行けと怒られてしまいました。

 彼に背中を向けてフェアリーブーツを起動させると。


「……やべぇ、めっちゃいい匂いした」


「何か言いましたか?」


「な、何でもねぇ! 早くアイツらを連れて来いよって言っただけだ!」


「……? では、行ってきますね」


 そんなに怒らなくても……と思いながらも、私は再び空を駆けるのでした。

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