645話 魔女様達は休憩する
「あの、ユニカさん」
「何?」
「少し、動きづらいのですが」
「お構いなく」
構うのは私なのですが……。
「ユニカ、そんなにルミナちゃんのことが気に入っちゃったの?」
『くふふ! 随分と気に入られたのぅ! ルミナ?』
足元のシリア様にまで笑われ、半ば諦めそうになります。
というのも、あの魔力圧での一件以来、どういう訳かユニカさんが私にべったりとくっ付いてくるようになってしまったのです。
最初は手を握る程度だったのですが、次第に腕にしがみつくようになり、今では私の肩に顎を乗せて体重を預けるようにしながらも、しっかり両腕で私の体を抱きしめてきている状況です。
夏も真っ盛りと言う事もあり、かなり暑苦しさを感じてしまいますが、ユニカさんはそれすらも気にならないようでした。
「しかし、ユニカがこんなに誰かに懐くって初めてだよな」
「同性のテオドラでもあんな邪険に扱うのに、珍しいな」
「テオドラは変態だから」
「えぇ!? そんなことないって! 私は健全なエルフよ!!」
「「は?」」
「うわーん! ルミナちゃぁーん! 性欲猿共がいじめてくるー!!」
そういう物言いなのでは無いのでしょうか。とは流石に言えず、私とユニカさんを抱きしめてくるテオドラさんに、苦笑を返すことしかできませんでした。
そんな他愛もない会話を交えつつ森を進んでいると、湖へとつながる川を見つけました。
位置的には、私達の家がある場所よりはだいぶ上流だと思われるので、誰かに遭遇するという危険性は無さそうです。
「わぁー! これ、あの山から流れてきてるのかしら!? 綺麗な水の色をしてる!」
「この川の付近は涼しいな。ちょっと休んでいくか?」
「さんせー!!」
「ほら、ルミナも」
「はい、分かりました」
いつの間にか体ではなく、尻尾をもふもふし始めていたユニカさんに促され、私も川の方へと向かうことにしました。
「ひゃあ! 冷たーい! ユニカー! ルミナちゃーん! 気持ちいいわよー!!」
「うへぇ~、鎧で蒸れた体に沁みる~」
水着に着替えたテオドラさんが、川の中から大きく手を振ってきます。
その隣では、浮き輪に体を浮かべて幸せそうに顔を緩めているアーノルドさんもいらっしゃいました。
同じく水着に着替えたユニカさんが、そちらに向けて真っ白い肌に日を照らしながら近づいていき、静かに足を水の中へと沈めると。
「気持ちいい……」
と、気持ちよさそうに笑みを零しています。
そんな皆さんを見ながら、木陰で休んでいたシュウさんから声を掛けられます。
「たまにはこうして息抜きするのも悪くないな。それと、わざわざ用意してくれてすまないな、ルミナ」
「いえいえ。私ではなく、シリア様にお礼を言ってください」
「そうか。感謝するぞシリア」
『ふふん。これくらい、昼飯前じゃ』
得意げに答えるシリア様ですが、その声は魔法が使えないシュウさんに聞こえることはありませんでした。
『ほれ、お主もたまには遊んで来い。せっかく用意してやったのじゃ、使わないと勿体ないじゃろう』
「そ、それはそうですが」
言い淀む私へ、シリア様は意地悪く目を輝かせました。
『はは~ん? さてはお主、また恥ずかしがっておるのか?』
「当たり前です! こんな可愛い恰好、私には似合わないです……」
『そんなことないぞ? のぅ、シュウよ』
聞こえるはずもないその問いかけに、シュウさんは私をちらりと見ながら小さく笑います。
「そんなことはない。似合っていると思うぞ」
「しゅ、シュウさんまで!」
「ルミナちゃーん! せっかく着替えたんだから、こっちにおいでよー!」
「水がひんやりしていて気持ちいいぞー!」
『ほれ、隠さず行ってこい!』
「わひゃあ!?」
シリア様にドンっと蹴られ、皆さんの方へ数歩よろけながら前進してしまいます。
そんな私の手を取ったのは、ユニカさんでした。
「ルミナ、可愛い」
「えぇ!? そ、そんなことは」
「ある」
きっぱりと言い切られ、猛烈に恥ずかしさが込み上げてきます。
しかし、彼女はお構いなしに全身に巻いていたタオルを剥がすと。
「えっ、あの、ユニカさん!? 何を!?」
「向こうまで連れて行ってあげる」
「い、いいいい行けます! 自分で歩けますから! あの、ユニカさん! 待っ――ひゃあああああああ!!!」
「きゃあ!!」
「おわっ!!」
私を川の中へと放り込みました!
盛大に水しぶきを上げ、即座に水面に顔を出した私を、テオドラさんとアーノルドさんがおかしそうに笑います。
「あっははは! やったわねルミナちゃん!」
「いくぜテオドラ、パーティプレイってのを見せてやれ!」
「もっちろん!」
「え、えぇ!? 待ってください、今のは私がやったわぶっ!!」
「このこのー!!」
「おらおらー!!」
「わっぷ! 待っ――もう!!」
「きゃあー!」
「加勢する」
「うええええええっ!? それは反則よっ!!」
「おいお前! それは卑怯――わぶっ!!」
銃を持ち出して小さな水の玉を乱射し始めたユニカさんと共に、仕返しにと彼らへ水を掛け返します。
こんなことなら、エミリ達も連れてきてあげるべきだったかもしれません。そんなことを思いながら、束の間の休息を目いっぱい楽しむことにしました。




