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644話 魔女様は威圧する

「そう言えばルミナちゃんは、どうやって不帰の森にダンジョンがあるって知ったの?」


 転移せずに不帰の森までの道を歩いていると、唐突にテオドラさんからそんな質問を投げかけられました。


「実は、知り合いから地図をいただきまして」


「どれどれ? ……うわぁ~、随分とアバウトね」


「むしろこれで、よく不帰の森だと特定できたな」


「ここには一度来たことがあったので」


「「えっ」」


「え?」


 驚きに足を止める皆さんに、思わず同じように驚いてしまいます。

 そこへ、シリア様が溜息交じりに教えてくださいました。


『不帰の森は危険地域じゃ。来たことがあるだけでも相当なのじゃろうよ』


 ……そ、そうでした! 普段から住んでいるのでうっかり出てしまいましたが、ここはかなりの危険地域なのを忘れていました!


「え、ええと! その、一度迷い込んでしまったことがありまして! もちろん、一人では無かったのですけど!」


「だとしても、こんな奥深くまで行ったことあるって相当だぞ?」


「ルミナ、お前のパーティはどんなパーティだったんだ? 不帰の森を攻略できると言う事は、相当な実力を持つパーティだと思うが」


「ぱ、パーティですか? ええっと……」


 どうしましょう!? パーティなんて組んだことがないので、どう答えたらいいかすら分かりません!


『やれやれ……妾に代われ』


 言われた通りに体を明け渡すと、シリア様は突然表情を曇らせて下を向き始めました。


「えっと、その……ごめんなさい。あんまり、思い出したくないんです。優しくて、頼もしくて、凄く居心地の良かった場所が無くなってしまった日を思い出すと、前を向けなくなってしまいそうで……」


 そのまま瞳を濡らすシリア様。

 その反応に、テオドラさんが慌ててシリア様の正面へと移動すると、小柄な私の体を抱きしめながら謝り始めました。


「ご、ごめんね! ごめんねルミナちゃん! そんなつもりじゃなかったの! ちょっとシュウとアーノルド、見てないでちゃんと謝って!!」


「あ、あぁ……。すまなかった」


「興味本位で聞いて悪かった。無理に思い出さなくて大丈夫だから」


「本当にうちのバカがごめんね。思いっきり殴って良いからね?」


 テオドラさんがそう言うと、シュウさんは殴られても構わないと言った態度を取っていましたが、アーノルドさんはやや慌てた様子をしていました。


「ま、待てテオドラ! 前なら全然構わなかったが、今はちょっと困る!」


「同い年くらいの子に殴られて何が問題あるって言うの!?」


「いや、その、ほら! ビジュアル的に、な?」


「な? じゃないけど。男らしく受け止めなさいよ」


「いやぁ……ははは」


 誤魔化すように笑うアーノルドさんに、テオドラさんは深く溜息を吐いて立ち上がると、シリア様の手を引いて先に進み始めました。

 それと同時に、体の主導権が私へと戻されます。


『すみません、ありがとうございましたシリア様』


『何、別に構わんよ。嘘泣きは女の武器じゃ、覚えておくとよい』


 私には、咄嗟にあそこまでの演技は出来そうにありません。と、足元のシリア様を見ながら苦笑していると、テオドラさんから後ろの面々へ声が掛けられます。


「早く行くよー。夜には帰りたいんだから」


「分かってるよ」


 カチャカチャと鎧を鳴らして駆け寄ってくるアーノルドさんと、その後に続くシュウさんとユニカさん。

 その後も談笑を交えながら歩き続けていると、ようやく不帰の森の入口に到着することができました。


「到着……って、あれ?」


「どうした?」


「不帰の森に、こんな結界あったっけ?」


 テオドラさんが見上げている視線の先には、私が森全体に展開した結界がありました。


「あー、何かそう言えば噂で聞いたことがあるな。森の魔女シルヴィが、入ってこられないように結界を貼ってるとか何とか」


「シルヴィと言えば、あのポーションを作っている魔女か?」


「そうそう。前に勇者に攻め込まれたのが嫌だったのか、森全体に結界を貼って、侵入者を拒むようになったとかそんな噂だったけど、本当に森そのものに入らせないようになってるんだな」


 実際は勇者の方々が来るよりも前だったのですが、と内心で苦笑すると、ユニカさんが結界をペタペタと障り始めました。それに応じて、私の結界から侵入者を報せる感覚がフィードバックされます。


「割って入るのは危険そう」


「えー? でもこの結界の先に行けないと、ダンジョンに行けないんでしょ? どうするのよー」


「街の人の中には、森の中にあるという酒場に通ってる人がいるとも聞いたことがあるけど、俺達は行った事すらないからなぁ」


「聞いても答えてくれなかった」


「ここに来て、Aランクという肩書が足枷になっていたとはな」


 うーん、と頭を悩ませ始めてしまう面々。彼らの口ぶりから、ペルラさんの酒場を利用したことは無かったのでしょう。それどころか、こうして歩くことを選択したというよりも、歩いていく以外の選択肢を知らなかったという方が適切に見えます。


『どうしましょうか、シリア様』


『ふむ。またひとつ、小芝居でも打ってやるとするかの。お主は妾を追ってこい』


『分かりました』


 シリア様はそう言うと、「ニャ!」とひと鳴きして駈け出していきました。


「あっ! 待ってください、シリア様ー!!」


「わっ! ちょっとルミナちゃん! シリアちゃんもどこ行くのー!?」


 奥の方へ駆けていくシリア様から、念話で指示が飛んできます。


『よいか? あと数十メートルほど走った先で、一時的に結界を解除せよ。そこから全員を通させる』


『分かりました、あまり長時間解除するのは危険なので、十秒で大丈夫でしょうか?』


『そんなにいらぬ。五秒で十分じゃ』


 シリア様に頷き、後ろから皆さんがしっかりと追いかけてきているのを確認します。

 やがて、シリア様は足を止めると、一か所を見つめながら座り始めました。どうやら、ポイントとしてはここが相応しいようです。


 頭の中で結界全域を思い浮かべ、その場所だけほんのわずかに力を緩めます。

 それに応じるように、シリア様の前にあった結界は薄くなっていき、モヤのみが発生するようになりました。


「え! あれって」


「あぁ! ダメですシリア様! 先に行かないでください!」


「待ってルミナちゃん! ほら皆も急いで!!」


 シリア様の後を追って中へと侵入した私に続き、全員が結界の中へ入ったことを確かめてから、結界を補強し直します。すると、自分達が入ってきた穴が塞がってしまったことに、アーノルドさんが驚きの声を上げました。


「お、おい! 結界が塞がったぞ!?」


「はぁ、はぁ……。ま、まぁとにかく、結界の中に入れたから大丈夫でしょ! お手柄だね、シリアちゃん!」


「ニャア?」


「ふふ! シリアちゃんは賢そうな猫ちゃんだねぇー」


 普通の猫を撫でるように、頭や首元を撫で始めるテオドラさん。

 それに対し、満更でもなさそうに気持ちよさそうな表情を浮かべるシリア様は、知らない人から見ればただ撫でられている猫のようでした。


「さて、無事に入れたのはいいが、あまり歓迎されていないようだな」


 拳を握り、臨戦態勢を取りながら言うシュウさんの言葉通り、普段街の人達や私達が通らない道から入ったことで、森に住む魔獣から敵視を向けられているような気配を感じます。

 各々が武器を手に警戒し始める中、シリア様はくふふと笑いながら私に言いました。


『ほれ、ひとつ“魔力圧”でも放ってやれ』


『え、大丈夫でしょうか?』


『大丈夫じゃ。お主の歳でAランクを名乗る証左にもなるじゃろうよ』


「皆さん、ここは私がやります」


「えっ!? でもルミナちゃん、相手はどれくらいいるか分からないのに」


 心配してくださるテオドラさんににっこりと笑い返し、彼らより数歩前に出ます。

 大きく息を吸って精神を集中させ、体内の魔力をほんの少し活性化させます。それを体に纏い、一息吐くと共に、周囲に向けて“魔力圧”を解き放ちました。


「きゃあ!?」


「うわっ!!」


「むおっ!?」


「……っ!!」


 背中から皆さんの悲鳴が聞こえたと同時に、私達に牙を剥こうとしていた魔獣達の気配が消え去りました。

 倒れた音もいくつかしましたが、キャインキャインと鳴きながら逃げていく声も聞こえることから、周囲にいた魔獣は全て無力化できているようです。


『うむ、上出来じゃ。解き放つ量もしっかりコントロールできておったな』


『ありがとうございます』


 シリア様に笑い返し、皆さんへ振り向くと。


「る、ルミナちゃん? 今のは、一体……?」


「あんな凄まじい魔力、初めて見たぜ……」


「ふっ、ふふふ……。その歳でこんな危険地帯を探検できるだけの実力は、嘘ではないということか」


「興味深い」


 怯え半分、好奇心半分と言った面々の視線に、私は誤魔化すように笑うことにしました。

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