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633話 魔女様達は着物を買う

 無事に時の牢獄から抜け出すことができた翌日。

 ソラリア様が数えていた日数で言えば、七百と二十三日目なのですが、一日が繰り返されていた実感がほとんどないので気になりません。

 これで肉体年齢も伴ってしまっていたら、また話は変わっていたのかもしれませんが、全てが巻き戻されていたことに感謝するべきなのでしょう。


 ふと、隣を歩くレナさんを見ると、彼女も同じタイミングで私を見ていたらしく、ぱっちりと視線が合ってしまいました。


「何? どうしたのシルヴィ?」


「いえ。可愛い着物だと思いまして」


「えー、絶対違う事考えてたでしょ?」


「そんなことありませんよ」


「本当にー?」


「本当です」


 中々信じてくれないレナさんでしたが、やがて「まぁいっか」と引き下がると、私が褒めた着物の袖を広げながら笑顔を浮かべました。


「いい色よねこれ! いい買い物ができたわ!」


 嬉しそうな彼女が着ている着物は、黒をベースとしているのですが、足元や袖に向かうにつれて桜の花が満開になっていくという、とても色合いが美しい逸品です。

 いつものお下げも今日は頭上でお団子を作り、華やかなかんざしを挿しているため、普段のレナさんとはまた異なる可愛らしさがありました。


「ですが、やはり高い買い物でしたね」


「普段からお金を使わない生活なんだし、こういう時に使わないとね!」


「ふふ、それもそうですね」


 彼女が身に着けている一式は、総額で金貨十一枚でした。

 あまりお金を使う機会が無い私から見ても高い買い物でしたが、この前の出店で稼いだお給料を使えたことが嬉しかったらしく、着替えてからというもの、ずっとご機嫌な様子です。


 そして、お金を使う機会がなかったと言えば、もう一人頑張ってくれていた子がいます。


「お姉ちゃん! わたしも可愛い!?」


「もちろんですよエミリ。エミリはもっと可愛いです!」


「やったー!」


「ちょっと、それ何か傷つくわよ!?」


 両手を高く上げて喜ぶエミリも、レナさんと一緒に着物を購入していました。

 エミリが着ている物は、どちらかというと袴と言った方が適切ではあるのですが、水色を基調としたそれにあしらわれている白と紫色の菊の花が、鮮やかに彩りを添えています。

 そしてエミリもいつもの髪型ではなく、一本に編み込まれたダウンヘアに白の菊の花を添えていただいているため、少し大人っぽさを感じさせる可愛らしさを演出していました。


「ティファニーも着てみたかったです……」


「うふふ! ティファニーちゃんはまた今度ね~」


 しょぼくれているティファニーにも着せてあげたかったのですが、彼女の衣装変更魔法は二着までしか記憶できないらしく、以前のメイド服を自分で消すことができなかったため、残念ながらいつもの服装になっています。

 そんな彼女を励ますフローリア様も、ちゃっかり着物を用意していたと知った時には、流石ですとしか感想が出てきませんでした。


 フローリア様の着物はレナさんと同じ黒ベースの物ですが、白とピンクの桃の花で彩られているそれは、不思議と大人可愛い雰囲気を感じさせています。

 レナさんやエミリと一緒になって歩くその姿は、年の離れた美人なお姉さんと言った印象を受ける物でした。


『くふふ! ティファニーだけが浮いてしまうのは些か不憫ではあるが、種族が種族であるが故に致し方あるまい』


「そうね~。大好きなお母さんまで着物なんだから、無理も無いわよね~。よしよし」


 やや涙目で、羨ましそうに私を見てくるティファニーに、申し訳なさから苦笑いを浮かべるしかできません。

 何を隠そう、私も皆さんに倣って着物を買っていたのですから。


「羨ましいですが、いいのです……。お母様はティファニーを選んでくださったのですから……」


 その言い方はやや語弊があるような気もしてしまいますが、この際良しとしましょう。

 彼女の言う通り、私の着物は薄水色をベースとしているのですが、レナさんの物と似た意匠が凝らされていて、袖や足元に向かうにつれて華やかな紫陽花(あじさい)が咲き誇っているのです。

 見た目としても非常に涼し気で気に入ってしまい、こちらも金貨十二枚と安くはない買い物でしたが、せっかくなのでと買うことにしていました。


 私もいつもとは髪型を変え、三つ編みを片方に寄せてみてるのですが、シリア様からの評判がとても良いのです。


『お主も良く似合っておるぞシルヴィ。お主もまだまだうら若き乙女なのじゃ。たまにはこうして、お洒落を楽しまねば損じゃぞ?』


「そうよ~? 女の子でいられるのは一瞬なんだからね?」


「フローリアが言うと重みがあるわね」


「あっ!? レナちゃんひどぉい! どうしてそんな意地悪言うの~!? 私はまだまだ女の子なのにぃ!!」


「えぇ……? 何千年も生きてて、今さら女の子は無理が」


「無理じゃないの! 女の子なの~!!」


「あー、はいはい。フローリアちゃんはまだまだ子どもだもんねー」


「その言い方は何か嫌! ねぇシルヴィちゃ~ん! レナちゃんがいじめてくる~!!」


「私にどうしろと……」


 泣きついてくるフローリア様をとりあえず慰めながら、ゆっくりと神住島の街を歩き始めることにしました。

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