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630話 魔女様は成し遂げる

 フローリア様を模した巨体を中心に、六角形を描くように出現した光の槍から、勢いよく鎖が伸びていきます。

 それは巨体の手足、そして首にも絡みつき、身動きを許さないほどにきつく縛り上げました。


 前回はこの時点で魔法が無効化されていましたが、やはりレナさんの意識を明日以降に変えたおかげか、発動した万象を捕らえ(アーレスト・)る戒めの槍(ジ・オール)が無効化される気配はありません。

 これならいけます! そう判断した私は、より一層抵抗力を奪うために魔力を込めながら、ソラリア様へ声を掛けます。


「ソラリア様! 捕えました!!」


「上出来よ! やればできるじゃない!」


 彼女は大鎌をグルングルンと振り回して構えなおすと、巨体のお腹部分へと向かっていき。


「さぁ! 今度こそ返してもらうわよ!!」


 ちょうど、おへそがある辺りに刃を突き刺し、魔力を爆発させました。

 流石の巨体でも、無防備な状態での一撃はかなりのダメージになっていたらしく、痛みから逃れようと私の鎖を引きちぎらんばかりに大暴れし始めます。


「抵抗なんて無駄よ! さっさと核を曝け出しなさい!!」


 凶悪な笑みを浮かべて、さらに魔力の出力を上げるソラリア様。

 彼女の大鎌の刃が奥に沈むたびに、巨体の暴れる力が増します。


 ラティスさんが放とうとした、神代兵器を模倣したラーグルフ。

 ミローヴ旧教を騙し、司教の肩に憑依することで顕現した悪魔フィロガトス。

 そのいずれをも大幅に上回る抵抗力に、私の杖がバチバチとスパークし始めてしまいます。


「ぐっ……うぅ!!」


「大丈夫かシルヴィ殿!?」


「大丈夫、では無いかもしれません……! ソラリア様へ、急ぐように伝えていただけますか!?」


「あい分かった!!」


 マガミさんが飛び去って行くと同時に、杖先に付けられている魔導石から、パキッと嫌な音が聞こえてきました。

 そちらへ視線を向けると、真紅に輝いていた魔導石の表面に多数のヒビ割れが入り始めていて、杖本体からもミシミシと軋む音が発せられているではありませんか!


 かつての大魔導士であるシリア様の杖のレプリカとは言え、現存する杖の中でも最高峰に位置するはずの杖ですら、疑似的な神の力に耐えられないようです。

 杖が壊されてしまえば、残されるのは増幅力を失った純粋な私の魔力のみ。その状態でこの抵抗力に抗うことができるのでしょうか。


 ――いえ、できるかどうかではありません。他に手段がない以上、やるしかありません!


 覚悟を決めた次の瞬間。

 シリア様からいただいた杖は限界を迎えてしまい、魔導石もろとも粉々に砕けてしまいました。


 魔女となった私を、この一年と数カ月もの間支え続けてくれていた、愛用の杖。

 私の無茶な魔法の使い方にも素直に応じてくれたおかげで、数知れない負担を掛けさせ続けていましたね。


 本当に、今までありがとうございました。

 あとは私に任せてください。


 最後の瞬間まで、私を守ろうと負担を肩代わりしてくれていた杖に、心からの感謝を送ります。

 そして、失われた杖の代わりに自分の手を前に突き出し、拘束を継続させます。


「……っ!? くっ……あああああああああっ!!!」


 想像をはるかに上回るその力の奔流に、私の全身が雷に打たれているかのような衝撃に襲われました。

 あの杖は、こんな痛みを一身に受け止め続けてくれていたのですね……! と、一瞬でも気を抜けば意識さえ刈り取られそうな激痛に歯を食いしばります。


 薄っすらと瞳を開いて戦況を確認しようとしますが、ここからではソラリア様とマガミさんがどう動いているのかよく分からず、あとどれくらい耐えればいいのかすら予想もできません。


 それでも、それでも私は!


「諦めません……! 絶対にっ!!」


 最後の悪あがきにと、神力を発動させて私の魔力に上乗せさせます。

 それに応じて、今までは神々しい輝きを放っていた光の槍に、螺旋状の鮮やかな赤い光が加わりました。


 私はもう、こんな先がない毎日を繰り返したくはありません。

 シリア様がいて、エミリがいて、レナさんとフローリア様がいて、メイナードとティファニーがいて。

 何の変哲もない日でも、どんなに苦しい日であっても、明日へと歩み続けたいのです!


「私達の明日を……! 取り戻してください! ソラリア様ぁ!!」


 彼女の手助けとなるべく、持てる全ての魔力と神力を注ぎ込みます。

 その瞬間、巨体の中心部分で赤黒い閃光が迸り、同色の光の柱が立ち昇ったのが見えました。

 一見禍々しいそれですが、どこか安心させるような温かさを含むその光に見惚れていると、今の今まで抗い続けていた巨体の力がふっと抜けていくのを感じました。


 もしかして、倒せたのでしょうか?

 そう思った直後、私の全身に力が入らなくなり、ぐらりと後ろへ倒れていきました。


 何か手を打たなければ、このまま重力に引かれ続けて地面に激突してしまいます。

 そうは分かっていても、魔法は発動せず、神力すら発動しません。どうやら、魔力が完全に底を突いてしまっているようです。


 何とも締まらない結末ですねと、自虐気味に苦笑しながら、重たくなる瞼に抗わずに瞳を閉じます。


 申し訳ありません、シリア様。

 杖を壊してしまった挙句、私もここまでのようです。

 黙って単独行動を取ったことを、どうか許してください。


 負担を掛け過ぎて薄れていく意識の中、シリア様へ最後の謝罪を念じます。

 しかし、その後私を襲ったのは地面の硬い感触でも無ければ、体が叩きつけられる音でもなく。


「瞳を閉じるなと言っただろう? シルヴィ殿」


 かなり距離があったにもかかわらず、私を空中で抱き留めたマガミさんの腕の感触と、優しい声色でした。

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