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628話 夢幻の女神は呆れる

「あぁ、やっと来た……って、何でそんな疲れてるわけ?」


「な、何でも、ありません……」


 夜十一時を前にして、事前に待機してくださっていたソラリア様へ、私は肩で呼吸をしながら答えます。

 そんな私へ、こちらも既に待機していらっしゃったマガミさんが笑いました。


「はっはっは! 準備運動と言ったところか! 良い心がけだ!」


 そういう訳ではありませんが。

 何とか言葉を返したいところでしたが、今は呼吸を整える方が先決です。

 大きく深呼吸を繰り返して無理やり落ち着かせ、改めてソラリア様へ顔を向けなおします。


「ソラリア様。こちらがこの神住島の領主である、マガミさんです」


「知ってるわ」


「え? あぁ、もうお二人は自己紹介が済んでいらっしゃったのですか?」


「どこかの王女様が遅刻ギリギリで来るからね」


 サクッと言葉のナイフを刺してくるソラリア様に、私は何も言い返せません。

 ですが、だからと言って沈黙するのも良くないと思います。


「ソラリア様は、マガミさんが協力してくださることに反対はされないのですか?」


「別に?」


「そう、なのですか。私はてっきり、反対されるものだと思っていました」


 私の言葉を受けて、ソラリア様は盛大に溜息を吐いてみせました。


「あたしだって、腐っても元神様なのよ。人間だから魔族だからで差別なんてしないし、誰彼構わずに殺すって訳じゃないの」


「では」


「何であんたのお仲間はダメかって? 決まってるじゃない。あんたやあのクソ猫みたいなグランディアの血筋と慣れあってる時点で、あたしの敵も同然よ」


 相変わらず、私とシリア様のようなグランディア王家への敵対心が、異常なまでに高い気がしてしまいました。

 以前、私達と敵対していた時もそうでしたが、何がここまで確執となってしまっているのでしょう……。


「で? あんた、さっきも言ったけどあたしの邪魔をしたら容赦なく殺すけど、それでもいいのね?」


 ソラリア様の脅しに一切動じることなく、マガミさんが答えます。


「無論だ。射線上に重なっていたら俺ごと撃っても構わない」


「へ~え?」


 どことなく嫌な予感がした次の瞬間。

 ソラリア様とマガミさんの間で、激しい魔力爆発に似た何かが発生しました!


「きゃあ!?」


 唐突過ぎる爆風に煽られ、軽く吹き飛ばされてしまった私が身を起こすと、いつの間にか抜刀していたマガミさんと、彼に手をかざしたままの姿勢を維持しているソラリア様の姿がありました。


「ふぅん。口だけではない、ってことね」


「伊達に領主をやってはいないのでな」


「ま、それならいいわ。あたしはそこのお人好し過ぎる王女様と違って、気を遣うってことが大っ嫌いだから」


 ひらひらと手を振りながら踵を返し、決戦が行われる裏山へと歩いていくソラリア様。

 マガミさんは、彼女の姿が小さくなったのを見届けてから納刀すると、細く息を吐きました。


「……あの女神様は、随分と好戦的だな。攻撃に一切の手加減を感じ取れなかった」


「ソラリア様は血の気が多いのもそうですが、冗談を言わない方なので」


「ふっ。せいぜい、彼女の邪魔にならないよう努力はしよう」


 マガミさんはそう言うと、歩き去っていったソラリア様を追うように歩み始めます。

 早速、先行きに不安を感じてしまいますが、ソラリア様のあの不意打ちを対処してみせた彼ならば、決戦でソラリア様からの攻撃に巻き込まれることは無いのでしょう。


 彼の強さに安心感を覚える反面、苦労を掛けてしまうことに申し訳なさを感じながら、私も後に続くことにしました。





 私達が前回戦った裏山に到着すると、ちょうど時刻が十一時を迎える数分前でした。

 各々が警戒しつつ待機していると、唐突に莫大な魔力のゆらぎが発生したことを肌で感じ取りました。

 それに続くように、周囲に淡く青白い燐光が煌めき始めます。


「こうして出現する瞬間を目の当たりにするのは初めてですね」


「このタイミングだと攻撃が通らないのよねー」


 四つん這いになっているそれを目掛けて、ソラリア様が大鎌を鋭く振るいます。

 刃先から放たれた赤黒い剣閃は、フローリア様を模した巨体をすり抜けて夜空へと消えていってしまいました。


 やはり先制攻撃を加えるにしても、しっかりと実体化してからでないと、攻撃そのものが当たらないようです。

 今ので気付かれてしまっていないか少し不安でしたが、青白い巨体は前回同様に、四つん這いの状態で項垂れているだけでした。


「ふむ……。よし、地上は俺に任せるといい。シルヴィ殿達は、前回と同じように空からの奇襲を頼む」


「はぁ? 何であんたに指示されなきゃいけない訳? 何様?」


「何様と問われれば、この島の領主様と答えたくなるな! はっはっは!」


「ウッザ……」


 気持ちよく笑い飛ばすマガミさんに、ソラリア様は心底不快そうな顔を浮かべながら悪態を吐きました。

 しかし、特に作戦らしい作戦も思いつかなかったようで、大鎌をクルクルと弄んで首の裏に持ち手を当てると、面倒くさそうに空へと登っていきました。


「シルヴィ殿も行ってくれ。奴の注意は俺が惹こう」


「分かりました。くれぐれも、無茶はなさらないでください」


「分かっている。俺とて、ここで命を捨てるつもりは無いからな」


 これ以上は何も語らないと言うかのように、マガミさんは数歩前に出ると、刀の鍔に親指を当ててチャキリと音を奏でました。


 広く頼もしさを感じるその背中に武運を願い、私もソラリア様を追って空へと向かいます。

 ソラリア様の元へ辿り着くと、彼女はスカートが捲れることなど微塵も気にせず、空中に腰を掛けて膝を組んでいました。


「あのおっさん、何か言ってた?」


「特には」


「っそ」


 興味薄そうに短く言葉を返した彼女は、大鎌の柄を杖代わりにして立ち上がり、私に強化魔法を要求してきました。


「さ、始めるわよ。さっさと強化しなさい」


「はい。……今度こそ、この時の牢獄を終わらせましょう」


「って言うか、そっちの首尾はどうなのよ? あんたがコレを願ってる人を見つけない限り倒せないのよ? 分かってんの?」


「もちろんです。その件については、恐らく大丈夫だと思います」


「へぇ? ってことは、願いを壊せたのね」


「壊すと言うよりは、今日よりも明日に意識を逸らさせたが正解かもしれません」


「は?」


 ソラリア様はしばらく表情が無くなっていましたが、やがて、これまでに無いくらい深い溜息を吐きました。


「あんたに期待したあたしがバカだったわ。あんたそれ、どういう意味か分かってんの?」


「えっと……今日に固執する必要が無くなるから、力が弱まるのでは」


「もしかしてあんたって、賢そうに見えて救いがないバカなわけ?」


 ……流石の私でも、こうしてバカバカと連呼されると不快感を覚えてしまいます。

 ややムッとしてしまう私に、ソラリア様はご自分の頭を指で突きながら続けました。


「頭が足りてない王女様に、このソラリア様が教えてあげるわ。願いを壊さないってことは、潜在的にその意識は残り続けるの。ここであたし達がいくら頑張ろうとも、そいつの意識は変わらない。それがどういうことか分かるかしら?」


 口を開きかけた私の言葉を遮るように、「分かるわけないわよねぇ? だからこんなことしたんだものねぇ?」と続けます。


「力は弱まっても、願いは消えない。仮に今日、あれを倒すことに成功したとしても、同じ条件が揃えばあれは再び出てくるわ」


「そう、なのですか?」


「あったりまえでしょー? あーあ、これでまた勝てなかったら王女様のせいだからね? その時は覚悟しておきなさいよ」


 ソラリア様は大鎌の先を私に突きつけ、そう言いました。

 言葉も返せず沈黙する私へつまらなさそうに鼻を鳴らすと、「まぁいいわ」と言いながら大鎌を引っ込めていきます。


「何にせよ、弱体化させられれば十分だもの。あとはあたし自身が、同じように悪用されなければいいだけだし」


 彼女はそこで言葉を切ると、地上にいるマガミさんへ大鎌を振って戦闘開始の合図を送ります。


「それじゃ、始める――何、凹んでるの? 頭も弱ければメンタルも弱いわけ?」


「い、いえ。そんなことは」


「どうでもいいけど、戦闘中は集中しなさい。さもないとあたしが殺すから」


 突き放すように言ったソラリア様は、巨体に向かって急降下を始めました。


 ……彼女の言うとおり、今はやってしまったことを悔やむより、この戦いに集中するべきです。

 パシンと両頬を叩いて気持ちを切り替えると同時に、巨体付近から凄まじい爆音が聞こえてきました。


 始まってしまった戦闘に集中し直し、私も援護に回るべく降下をする事にしました。

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