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623話 魔女様は対峙する

 打ち上げを終え、皆さんと宿に戻った私でしたが。


「すみません、落し物をしてしまいました! すぐに戻りますので、先にご飯などを頂いていてください!」


 そう言い残して、単独行動を取っていました。

 と言うのも、残された可能性のひとつであるマガミさんへ、ループを願っていないかの確認を取るためです。


 夜中の決戦に備えて、極力魔力を温存しておくべきなのだとは分かっていますが、あまり遅くなると心配されてしまいますので、出し惜しみ無しに転移を使います。


 一瞬の浮遊感の後、目的地である神住城へ到着した私は、どこからともなく現れた私に対し、刀を向ける門番の方々へ声を掛けます。


「夜分遅くにすみません。マガミさんへ急ぎの用事があります」


「誰かと思えば、魔女様でいらっしゃいましたか。失礼ですが、主様はまもなくお休みになられますので、お約束も無しにお通しする訳には参りません」


「そこを何とかお願いできませんか? 一刻を争う用なのです」


 断られてもなお食い下がる私に、彼らは困ったように顔を見合せます。

 それでも首を振り、断ろうと口を開きかけた彼らの後方から、聞き覚えのある声が聞こえてきました。


「構わない、お通ししろ」


「サユリ様!」


 先日、私達をこの島へ案内してくださった神住島の特使であり、マガミさんの側近でもある、レナさん曰くクノイチの女性――サユリさんでした。

 彼女は先日と変わらぬ、白が多めの衣装に身を包み、ポニーテールに纏めている緑色の髪を揺らしながら、こちらへと歩み寄ってきます。


「こんばんは、サユリさん。先日はありがとうございました」


「とんでもございません。それよりも、マガミ様へ急用とお伺いいたしました。どうぞ、中へ」


 城門を守る彼らとは打って代わり、すんなりと通してくださる彼女に驚いていると、サユリさんは表情を変えずに続けました。


「どういったご用かは分かりかねますが、マガミ様はシルヴィ様の来訪を知っておられました」


「そうなのですか?」


「はい。また、マガミ様より詳細は中で話したいとの言伝も預かっております。今は何も聞かず、中へお進み下さい」


 何故、マガミさんが私が来ることを知っていたのかは気になりますが、それも含めて直接聞かせていただくことにしましょう。


 私は頷き返し、月明かりが照らす神住城へと足を踏み入れました。





 城内は静けさに包まれていて、以前来た時はブシと呼ばれる見た目をしていた方々もいなければ、宿で働いている中居さんのような方々もいらっしゃらないようでした。

 夜間は勤務時間外、という事でしょうか? などと思いながら城内を進んでいると、一瞬だけでしたが、天井裏の方から僅かな殺意が向けられた気がしました。


 慌てて杖を取り出して身構える私に、サユリさんは小さく口を開きます。


「私の同業です。不快かもしれませんが、どうかお気になさらず」


「同業ということは、今の方もクノイチという事でしょうか」


「はい。城内の影に溶けるように潜んでおります」


「その、こういう事を聞いていいのかは分からないのですが……。何故、姿を見せないのですか?」


「それが忍の務めだからです。我ら忍は影に潜み、主を害なす敵を闇に葬る……。そうあるように教えられ、私自身もそうでありたいと思っております」


 私は聞いた事のない教えでしたが、彼女を始めとしたシノビの方々にとっては当然であるようです。

 これもまた、独自の文化というものなのでしょう。そう思うことにして、それ以上は質問しないことにしました。


 それからまもなく、先日も目にした、よく分からない生き物が描かれている襖の前に辿り着きました。

 サユリさんが扉の横に片膝を突き、小さくノックをして中へ声を掛けます。


「マガミ様、シルヴィ様をお連れいたしました」


「通せ」


「はっ」


 サユリさんがゆっくりと襖を開くと、部屋の中には正座をしているマガミさんがいらっしゃいました。

 彼は静かに瞳を開け、私を見据えながら言います。


「よくぞ参られた。此度は遅かったのだな、シルヴィ殿」


 その言葉に、私は息を飲みました。

 彼の落ち着き払ったその態度。全てを知っているかのような物言い。それらが示すものは、ひとつしかありません。


「あなたは、この島で起きていることを知っているのですね」


「如何にも」


「では、単刀直入にお聞きします。あなたはどちら側ですか?」


 味方であってほしい。

 レナさんと仲良くしてくださっていた彼を疑いたくない。


 そう願い、未だに正座を崩さない彼を見つめます。


「どちら側、か」


 彼は小さく呟くと、おもむろに背後の刀へ手を掛けました。

 そして、片膝を突いた体勢になり、刀の鞘部分を畳に突いて僅かに刃を見せると――。


「何度でも答えよう。俺は、この島を守護する者だと」


 その言葉と同時に、私の両脇を突風が吹き抜け、背後にあった襖が吹き飛ばされました。

 いえ、違います。彼が放った一瞬の抜刀で、襖が無数の斬撃に斬り刻まれたのです!


 直撃させなかったのは、力の差を見せつけるためでしょうか。

 何故、彼が刃を振るったのか理由は分かりませんが、とにかく、応戦しない限りは話しすらさせていただけなさそうです。


 私が杖を構えると、彼はゆらりと立ち上がり、刀を腰に添えて身を低く構えました。


「三度目の対峙、此度も斬り伏せてみせよう――。参る!!」

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