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621話 魔女様は探す

「おはようございます、お母様っ」


 次に気が付いた時には、ティファニーの明るい挨拶が顔の上から降ってくるところでした。

 前回と全く変わらない、一日の始まり。それが指すものは、再びだんじり祭り当日が繰り返されていると言う事です。


 ……本当に、あの願いの具現によってループし続けているのですね。


 そう確信せざるを得ず、額に手を当てながら細く息を吐いた私を、何も知らないティファニーは心配そうに声を掛けてきました。


「お母様? どうかなさいましたか?」


「……いえ。少し悪い夢を見ていたので、夢だったとホッとしていたところです」


 実際には夢でも何でもなく、繰り返されている現実なのですが。

 そうは言えないため、愛想笑いを浮かべる私に、ティファニーは自分の手のひらに、小さな花を咲かせて見せました。


「お母様、この花の香りを嗅いでください。きっと、気分が落ち着きますよ」


 その花からはとても落ち着く香りが漂っていて、ずっと嗅いでいたくなるくらいにはいい香りでした。

 花の香りを堪能させてもらった私は、心配してくれた彼女に優しく微笑みました。


「ありがとうございます、ティファニー。とても落ち着けました」


「いえいえ! お母様のためならいつでも咲かせてあげますので、遠慮なく仰ってくださいね!」


 優しいティファニーの頬を撫でながら笑いあい、ゆっくりと体を起こします。

 すると、今回も先に起きていらっしゃったシリア様が、大きなあくびをしながら私に尋ねてきました。


『くあぁ~……。おはようシルヴィ、よく眠れたか?』


 前回と同じ質問に、同じように返そうとも思いましたが、今回は既にティファニーへの挨拶を変えてしまっていたため、こちらに合わせるべきでしょう。


「おはようございます、シリア様。少し夢見が悪かったことを除けば、睡眠自体は問題ありません」


『くふふ! 異郷の枕で変な夢でも見たか?』


 くふふと笑うシリア様に笑い返し、いつものルーチンとして皆さんを起こし始めることにしました。





 今日は私もお祭りに参加することにして、誰がこの一日を終わらせたくないと願っているのかを探すことにしました。

 手始めに、お祭りに向かう前の屋台の方々に尋ねてみましたが。


「祭りは毎年、期間限定だからこそ盛り上がるんだよ。いつでもやってたらつまらねぇだろ?」


「そうそう。あたしも年中たこ焼きなんて焼いてらんないよ!」


「違いねぇ!」


 快活に笑う彼らでは無さそうだと、すぐに判断することができるくらいの回答が返ってきました。

 続けて、だんじり祭りに参加する方々に適当に声を掛け、同じ質問を投げかけてみましたが。


「俺達はこの一瞬に命を燃やしてんだ! ずっと続いたら燃えカスになっちまうよ!」


「毎日こんなの押して走るとか狂っちまうぜ!」


 こちらも同じような反応が多く、お祭り好きな彼らが望んでいる訳では無さそうでした。

 あとは、各だんじりの代表者である方々と、この島の領主であるマガミさんくらいでしょうか。

 確か、だんじり祭りの打ち上げが終わってから少し時間に余裕があったはずですし、そこで聞きに行ってみましょう。





 と言う事で、今回も無事にレナさんとフローリア様が参加しただんじりを勝たせることができ、私達も打ち上げに参加させていただいています。


「いやぁ~! 魔女の嬢ちゃん達様々だぜ! 今日は一段と酒がうめぇなぁ!!」


「私よりもレナさんの方を労ってあげてください。彼女の活躍の方が特に大きかったと思いますので」


「違えねぇ! おいレナちゃん、こっち来い! 俺達と一杯飲もうや!」


「えー?」


 口では嫌そうにしながらも、レナさんはお酒を片手にニコニコしながら歩み寄ってきました。

 そのまま彼女は肩を組まれ、ぎゃあぎゃあと騒がしくしながらお酒を楽しみ始めます。

 丁度いいですし、このまま彼に尋ねてみることにしましょう。


「団長さんは、このお祭りがずっと続けばいいのにとか考えたことはありますか?」


「あぁ?」


 彼は顎に手を当てながらしばらく考えていましたが、やがてぐびっとお酒を飲んでから答えました。


「……っぷはぁ! いんや、ねぇな」


「理由をお聞きしてもいいでしょうか?」


「理由だぁ? んなもん、決まってんだろうよ。年中咲き誇る花と、一日しか咲かねぇ花……どっちが印象に残るかって話だ」


 彼のその言葉に続くように、私達の頭上で鮮やかな花火が撃ちあがりました。

 その花火を見上げながら、彼は続けます。


「祭りはなぁ、花火と同じなんだよ。一瞬の煌めきを、どれだけ見た人間の心に刻み込めるかどうかが全てだ。それだってのに、いつまでもダラダラとやり続けてたら、いつ来ても同じものが見れるってナメられちまうだろうがよ」


 花火に照らされる彼の横顔は、どこか遠くを見ているような顔をしていました。

 その横顔は、まるで何かを懐かしむような、誰かを思うような優しいものでした。


 きっと、彼はこのお祭りが続くことは望んでいないのでしょう。

 それが知れただけでも、今日確認した甲斐はありそうです。


 しかし、こうなってしまうと後はマガミさんくらいしか……と思った直後、私は最後に見たあの光景を思い出しました。

 あの青白い巨体の女性。あのシルエットは恐らく――。


 激走の役目を終えただんじりの上で、花火を見ながらお酒を楽しんでいた彼女の元へ向かいます。

 私の姿を見つけた彼女は、おちょこと呼ばれるお酒用のお皿を掲げて見せました。


「はぁ~い! シルヴィちゃんもこっちで一緒に飲むぅ?」

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