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616話 魔女様は見つけたい

 ソラリア様との対話を終え、部屋に帰った私でしたが、皆さんが帰ってくるまでじっとしていることなど当然できませんでした。


「メイナード。高峰神社まで飛んでくれますか?」


『シリア様に寝てろと言われただろう』


「ですが」


『あの神に何を言われたかは分からんが、焦っても仕方が無いだろう。それに』


 メイナードが言葉を切ると同時に、私のウィズナビが着信を報せました。

 画面に表示されている名前はレナさんです。


『シリア様達が主一人を置き去りにして、遊び惚けられると思うか?』


 彼に微笑み返し、通話に出てみると、明るいレナさんの声が聞こえてきました。


『あ、良かった起きてた! おはようシルヴィ、具合はどう?』


「おかげさまでだいぶ良いです」


『そっかそっか! え、何? あー……』


 恐らく、レナさんに向けてシリア様が何か仰っているのでしょう。

 しばらく相槌を打っていたレナさんでしたが、やがて少し残念そうにしながら言葉を続けました。


『今日はゆっくり寝てなさいって。あたし達も早めに帰るようにするわ』


「いえ、私は気にせずにお祭りを楽しんできてください。私は休んでいますので」


『シルヴィ一人を寝かせて遊べるほど、あたし達は冷たくないわよ。まだご飯食べてないなら後で買って行くけど、お腹の方はどう?』


「すみません。では、何か軽いものをお願いします」


『おっけー。それじゃ、お昼頃には帰るから待っててね!』


「分かりました。ありがとうございます」


 レナさんとの通話を終え、ウィズナビに表示されている時計の表示を確認します。

 時刻はまだ九時前。お昼頃に帰ってくるとしても、まだ三時間近くはありそうです。


 ……可能性は薄いかもしれませんが、宿内でこのループを望んでいる方がいるか、探してみることにしましょうか。


「少し歩いて来ます」


『あぁ』


 宿内の散歩には付き合ってくれないらしく、メイナードは止まり木の上で眠りに就く体勢を取り始めました。

 では、まずは厨房や館内で働いている方々から聞いてみましょう。





「だんじり祭りをどう思うか、ですか?」


「はい。今日という日は、皆さんにとってどのような思い入れがあるのかと気になりまして」


「そうですねー。毎年やってるので、私は特には思わないですかね。小さな島なので、客入りが激しくなるとかもありませんし」


「確かに一理ありそうですね。ありがとうございます」


「いえいえー。それより、シルヴィ様はお祭りに行かれなくて良かったのですか?」


「はい。こんな時に申し訳ないのですが、少し体調を崩してしまいまして」


「そうでしたか! でしたら、朝食は消化にいい物をご用意いたしますね」


「ありがとうございます。ですが、お昼頃に昼食を買ってきていただけるとのことですので、少なめでお願いします」


「かしこまりました。お大事になさってくださいね」


 厨房の近くにいらっしゃった人間の仲居さんは、私に会釈をして中へと戻っていきました。

 今の感じから、彼女がループを望んでいたとは考えられなさそうです。

 次は誰に聞いてみましょうか。と、周囲を見渡しながら館内を探索していると、宿の共同食堂エリアに仲睦まじい男女がいるのが見えました。


「私、あなたと結婚できてよかった」


「僕もさ。愛してるよ、ミカ」


 あ、あの二人に話しかけるのは止めておきましょうか。

 私が入ったら完全にお邪魔になりそうですし……。


 そう判断し、その場から離れようとした時。

 私のウィズナビが、着信を報せる子猫の鳴き声を上げました!


 ビクッ、と背筋を正して硬直してしまう私を、お二人は抱き合ったまま、凄まじい速度で振り向いてきます。


「……何?」


「た、たまたま通りかかっただけです。すみません……」


 お二人に愛想笑いを返し、私は全速力でその場から離れることにしました。





「……と、言う事がありまして」


『くはは! それは気まずいどころの騒ぎでは無かったのぅ!』


「シルヴィちゃん、とんでもないとこに居合わせちゃったのね~!」


「こればっかりは運がなかったとしか言えないわね。でもピンポイント過ぎるでしょ! おっかし!」


 大人しく部屋へ引き返し、帰って来たシリア様達へ一部始終を話すと、あまりの間の悪さに大笑いされてしまいました。

 もちろん、ソラリア様と出会ったことや、彼女から受けた話の内容などは伏せているため、“気分転換でお風呂に入り、宿を探索していた”と言うことにしています。


「お姉ちゃん、これ食べて元気出して!」


「お母様お母様! こちらも美味しいのでぜひ!」


「ふふ、ありがとうございます」


 二人から差し出されたお土産をいただこうと視線を移すと、そこにはやはり、見覚えのあるものが持ち帰られていました。


「どうかされましたか? お母様」


「いえ、とても美味しそうだと思いまして」


「これね! すっごく甘くて美味しかったの! 疲れてる時は甘い物だって、ペルラちゃん達も言ってたよ!」


 エミリが差し出している物は、中身がたっぷり詰まっているのが外からでもよく分かるたい焼きです。

 そして、ティファニーの手に握られているのは、小粒のりんご飴でした。

 他にも、シリア様が選んでいたと思われるたこ焼きや、フローリア様が選んでいたはずのチョコバナナなどもあり、唯一無い物と言えば、レナさんが食べていたかき氷くらいなものです。


 こうして改めて屋台の料理を見ると、弱っている病人には厳しいラインナップですね。

 そんなことを考えながらも、体は元気なことに感謝しながらたい焼きを一口頬張ります。


「お姉ちゃん、どう!? 美味しい!?」


「はい。餡子がとても甘くて美味しいです」


「やったぁ!」


「お母様! こちらも食べてください!」


「ま、待ってください! ひとつずつ、ゆっくり食べますから!」


 私の反応に、ティファニーは小さく頬を膨らませながら、悔しそうにエミリを見ていました。

 もしかしたら二人は、どちらが私を喜ばせられるか勝負をしていたのかもしれません。


 本当に、私を賭けた勝負が大好きな子達です。

 それだけ愛されているということですから、それはそれで喜ばしいことなのですが、時々本当のケンカになってしまうことがあるので、そこさえ無くなってくれれば私から言う事はありません。


 微笑ましい二人を笑いながら摂る食事は、私の悩み事を一時的に忘れさせてくれる、心地のいい物でした。

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