614話 夢幻の女神は覚悟を問う
何度も繰り返されていた、神住島での一日。
その数は七百を超える回数だった事にも驚きを隠せませんが、以前も私とソラリア様がこうして会っていた事実に言葉が出てきませんでした。
そんな私に、ソラリア様は面倒くさそうに聞いてきます。
「で? 今回のあんたはどうするわけ?」
彼女の口ぶりから、これまでに出会ってきた私の行動は全て把握していらっしゃるのでしょう。
であれば、まずは情報収集に務めるべきだと思います。
「参考までに教えていただきたいのですが、今までの私はどんな行動を取っていたのでしょうか」
「あたしの話も聞かず、バカなことばっかりしてたわよ」
「具体的には、どのような行動でしたか?」
直球で投げられた暴言に取り合わなかった私に、ソラリア様は小さく舌打ちしてきました。
彼女はわざとらしく深い溜め息を吐くと、指折りしながら答え始めます。
「一回目は、出会った瞬間から拘束してこようとしたわね。ムカついたから宿ごと吹き飛ばしてやったけど」
サラッと言われた過去の出来事に、私は背筋が寒くなる感覚を覚えました。
メイナードに冷静に対応するよう言われていなかったら、恐らく今回も敵対から始まっていたのでしょう。そして、その時の私がどうなったのかは分かりませんが、きっと一回目と同じ結末を辿っていたのだと予想できます。
「……二回目は?」
「あたしを見るなり、あんたのお仲間を呼び出して囲い始めたわ。一回目同様に消し飛ばしてやったけどね」
ウィズナビの用意はしていましたが、先んじて連絡しないで本当に良かったかもしれません。
メイナードには感謝しないといけませんね、と考えると同時に、彼も過去の記憶があるのでしょうかと疑問が浮かび始めました。
「三回目は、あたしの話を聞くだけ聞いて何もしなかったわ」
「どういう事ですか?」
この話を聞いたにも関わらず、何も行動しなかったというのは考えられません。
当然の疑問を口にした私へ、彼女は横目で見ながら答えます。
「そのままの意味よ。まぁ、正確には”何も出来なかった”が正しいかしらね」
「という事は、その時の私は原因を突き止めていたのでしょうか」
「あんた、どれだけ自分を過大評価してんの? ほんっと、おめでたい頭してるわね」
心底呆れたような顔を浮かべている彼女の様子から、三回目の私は、答えを見つけられないまま次のループへ突入してしまっていたようです。
「続けるわよ。四回目にもなるとあたしも面倒になってきたから、掴んでいた情報を流してやったわ。その上で、あたしに協力しろって提案したの」
「私は、それに乗ったのですか?」
「あんたならどうする?」
これまでのソラリア様の言動と、話の内容を吟味してみます。
しかし、私ならと考えた結果。
「……恐らく、乗らなかったのだと思います」
「そう。あんたはあたしを信じなかった。そのくせ、手に入れた情報だけで何とかしようとして、お仲間を連れて原因の場所に向かって行ったわ」
「それが四回目という事は、私達は失敗したのですね」
「えぇ。無様も無様、手も足も出ずに死にかけていたわ。あんだけ啖呵切って挑んで行ったってのに、あんな結末なんですもの。最高に傑作だったわ」
どうやら、シリア様達ですら歯が立たない程の何かが、この時の牢獄を支配しているようでした。
しかし、そう考えると逆に、彼女が私に協力を求めてきている理由が分かりません。
「教えてください、ソラリア様。あなたは何故、私の協力を必要としているのですか? 私では力不足だったことは、その四回目で証明されているのでは?」
私の問いかけに、ソラリア様はハンッと笑い飛ばします。
「決まってるじゃない。あんたの中にある、あたしの力が必要だからよ」
その答えで、何故私がこれまで、私が彼女の手を弾き続けていたのかが理解出来ました。
確かにその理由であれば、私としては協力したくありません。
ですが逆を返せば、私さえいればこのループを抜けることが出来るということの現れなのでしょう。
「……その提案を聞いた、五回目の私はどうでしたか?」
「乗らなかった」
「という事は、聞いた上で何とかしようとしたのですね」
「そういう事。無駄だって言ってるのに、聞く耳すら持たない頑固で愚かな王女様は、またしても大切なお仲間を死の淵に追いやるのでしたー」
四回目と五回目は、何者かに戦いを挑んだ末に敗北し、本当に死ぬ寸前だったのかもしれません。
ですが、このループで命を落とした場合、どういう結末を迎えることになるのでしょうか。瀕死だったはずの体が何ともなかったことのように、死んだことが無かったことになるのか、それとも……。
怖くもあり、確かめたくもなる知的好奇心を強く押さえ付け、ソラリア様へ改めて尋ねます。
「私は、何を協力すればいいのですか?」
ソラリア様はちらりと私を見るも、すぐに視線を外しました。
そのまま遠くの空をぼんやりと見つめる彼女の答えを待つこと数十秒。
「あんた、人の願いを壊す覚悟はある?」
そう、私に問いかけるのでした。




