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601話 魔女様は指圧される

 ルールを無視し続けたシリア様のおかげで、一回戦を勝たせていただけたまでは良かったのですが。


「いえーい! あたしの勝ち!」


 やはり元が異世界のスポーツであったために、異世界出身のレナさんに敵うはずはありませんでした。

 その後はレナさんとフローリア様による勝負が行われましたが、レナさんによる際どいエリア端への送球を、フローリア様の長い腕が難なくカバーしてしまい、フローリア様が優勝という形でタッキュー勝負は決着となるのでした。


 お風呂上りだったというのに、すっかり汗をかいてしまったため、再びお風呂へ入り直して部屋に戻った私達を出迎えたのは、この宿で働いている仲居さん達でした。


「おかえりなさいませ。よろしければ、お風呂上りのマッサージなどはいかがでしょうか」


「えぇ~! マッサージなんてしてもらえちゃうの!? 至れり尽くせりね~!」


「せっかくだし、お願いしましょうよ!」


「そうですね。では、よろしくお願いします」


「承りました。お布団をご用意しておりますので、うつ伏せになってお待ちください」


 用意していただいていた敷布団にうつ伏せになると、それぞれ一人ずつに担当が付き、手もみによるマッサージが開始されました。

 彼女達が押す力は少し痛くもありますが、押すポイントが的確に体のツボを刺激していて、とても気持ちよくも感じられます。


「痛かったら遠慮なく仰ってくださいね」


「大丈夫っ……です……ぅんっ!」


 ぐっ、ぐっ、と強めに指圧されるたびに、ついつい声が漏れてしまいます。

 それは私だけでは無かったらしく、レナさんもフローリア様も同じようです。


「あぁ~……そこっ、そこぉ~! もうちょっと、上っ」


「こちらですか?」


「そこっ! そこそこそこ、そこがいいのぉ~!」


「んぐっ、んっ……ふんぅ~……!」


「レナ様、痛くはございませんか?」


「もうちょっと、強くても、平気……!」


「では」


「はぅん!!」


 レナさんから一際大きく悶える声が聞こえ、私達全員の視線が一斉に向きました。

 本人は気にしてる余裕はないらしく、枕に顔を埋めながら、指圧されるたびに体をびくりと震わせて悶え続けています。


 レナさんは体を動かすことが多いですし、人一倍体が凝ってしまうのでしょう。

 そう考えると、エミリも似たようなものでは無いでしょうか。と、隣のエミリへと顔を向けると。


「すぴ~……」


 マッサージが気持ち良すぎたらしく、涎を若干垂らしながらスヤスヤと眠りに就いてしまっていました。

 その奥では、珍しく人型のままティファニーも眠ってしまっているようです。

 この気持ちよさでは眠気に抗うのは難しいですよね。と苦笑していると、お尻のツボをぐぐっと押されてしまい、「ひゃうん!!」と大きな声が出てしまいました。


「し、失礼致しました!」


「い、いえ……大丈夫です」


『くふふ、あまりの気持ちのよさに声が漏れるのも無理はなかろう』


 そう笑うシリア様は仲居さんの太ももの上に寝転がり、お腹を見せた状態でマッサージを受けていました。どうやら彼女達は、猫に対するマッサージ方法も会得していたようです。

 その体勢はあまりにも無防備で、今まで見たことの無いような蕩けた表情に、シリア様も気持ちよさが隠せていないのだと察することができました。


「時に、シルヴィ様」


「はい?」


 ふと背中から声を掛けられ、声だけで返答する私に、仲居さんは言葉を続けます。


「シルヴィ様達はやはり、明日からの神住(かすみ)だんじり祭りを見にいらっしゃったのですか?」


「だんっ……じり?」


「おや、ご存じでは無かったのですね。では、これもまた神の巡り合わせなのでしょう」


「れっ、なさんは、知っていましたか?」


「知らな……い!」


「では、僭越ながら私からご説明いたしましょう」


「んくぅ!! お願い!」


 力を緩めることなく説明を始めた内容をまとめると、この神住島では、夏の大きなお祭りとして“神住だんじり祭り”というお祭りが催されているそうです。

 そして“だんじり”という物は、神様をお祀りしている神楽(かぐら)が乗っている車体のことを指すそうですが、このお祀りでは、大勢の男性がそれを全速力で引きながら島中を駆け巡るという、何とも豪快な催し物なのだと教えてくださいました。


「そのだんじりは一台だけではなく、何台も同時に駆けていくため、ある種のレースを見ている気分にもなれますよ」


「へぇ~! それは面白そうね~!」


「神住島名物でもありますので、ぜひ楽しんでいってください」


「ありがとう、ございます。明日の予定にっ、したいと思い……まぁ!?」


 足の裏を強く刺激され、またしても大きな声が出てしまいました。


「あはは! シルヴィの大きな声、珍しいから新鮮だわ」


『たまにはお主も、肩の力を抜いて自然体になるとよいぞー』


「シリアってば、もうふにゃふにゃじゃな~い」


『うむ……。猫の体も、悪くはないのぅ……』


 普段は猫扱いされると非常にお怒りになるシリア様から、そんな言葉が聞けるとは思っていませんでした。

 その後も指圧が続き、悶えたり騒いだりしてしまった私達ですが、その日の夜は全員、ぐっすり眠ることができたのでした。

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