21話 魔女様は強敵と戦う(後編)
「二人仲良く、死になさい!」
エルフォニアさんが手を振りかざし、巨大な大剣が私達へ向けて飛んできました。
私はレナさんの体を強く抱きしめ、治癒魔法を継続しながら幾重にも束ねた防護結界を展開します。
エルフォニアさんの高密度の魔力で作られた影の剣と私の結界が衝突し、轟音と共に、私の体にとてつもない衝撃が伝わります。彼女の全力とも思えるそれは、じわじわと私の結界を壊しながら私達へと迫り続け、結界が破られると同時にいつもの数倍以上のフィードバックが私を襲いました。
「治療を続けながら結界を展開するだなんて……自殺行為もほどほどにしたら?」
「ぐっ、ううぅ、うううううう!!」
脳に負荷を掛けすぎていて、頭が割れそうなくらい痛みます。吐き気も凄いですし、少しでも力を抜けば今にも倒れてしまいそうです。
それでも、回せる限りの魔力を結界に注ぎ込み、さらに強度を補強し続けます。
「うぐっ、ごっほ!!」
思わず咳き込んでしまいました。なんだか、口の中で鉄の味がします。
「し、シルヴィ! 血! 血を吐いてる!!」
レナさんに言われ、抱きしめている彼女の肩を見ると、確かに血が付いてしまっていました。体が耐えられず、内側からも悲鳴を上げているようです。
「けほっ……。大丈夫です、絶対に防いでみせます……。レナさんも、治します……」
「シルヴィが大丈夫じゃないから! あたしはもういいって!」
泣き出しそうなレナさんの抗議の声を、首を振って断り、精一杯の笑顔を向けて見せます。
「私には、これくらいしかできませんから……。レナさんが倒れたら、エルフォニアさんに勝てなくなってしまいます……」
「だからって、そんなになりながら……!!」
また一枚、結界が破られました。
全身への強烈な痛みと共に、頭痛が増します。
でも、大丈夫。きっと防げます。
「な、何なのよあなた……。私のこれを防ぎながら治療も継続できるなんて、あり得ないわ!!」
「あぐうううううううっ!!」
エルフォニアさんの魔力が高まり、さらに威力が増しているのを感じます。
耐えなきゃ。耐えて、絶対に防ぎきって、レナさんと勝たなくては……。
さらに魔力を結界に回します。それと同時に攻撃の勢いが緩んだような感触がありましたが、魔力を使い過ぎているせいか、多重詠唱のせいかは分かりませんが、視界がだんだんとぼやけてきてしまいました。流石にこれ以上はまずいかもしれません。
「いいわ。そこまで堪えるなら、私の全て――耐えて見せなさいよ!!」
背後から、さらに強力な魔力を感じます。エルフォニアさん、まだ力を残していたのですか……!?
後ろを振り向くと、無数の剣影が束ねられていき、結界に突き刺さっているものと同じようなものになりました。その数、刺さっているものも含めて合計四本。
「シルヴィ! もうやめてって! これ以上はホントにシルヴィが死んじゃう!!」
「嫌です、やめません……。私も、私にできることで、戦うんです……!」
「仲がいいのはいいけど、それで死ぬなら元も子もないわね。今度こそ……さよならよ!!」
「うっ!! うああああああああああああ!!!」
結界がどんどん割られていきます。もう、痛いという感覚すら超えてしまい、体が引き裂かれそうな衝撃に襲われます。
「シルヴィ!!」
「れ、レナ、さん……。絶対、絶対に、護りますから……」
そう強がってみせたものの、結界の残りも少なくなってきています。魔力も底を尽きそうですが、持てる全てを結界に回して耐えないと……。
「なんで……? なんでそこまでしてくれるの? ドジしたのはあたしで、シルヴィがこんな無理する理由なんてないのに!」
泣きながらやめて、やめてと首を振るレナさんに、優しく笑いかけます。
「私達は、チームだからというのもありますが……。それ以前に、大事な友達ですから」
「友達って、だからってこんな」
「レナさんは、私が生まれて、初めてできた友達なんです。だから、苦しそうな顔なんて見たくないですし、一緒に勝って、喜び合いたいんです……」
痺れる手を必死に持ち上げ、レナさんの涙を拭って続けます。
「絶対に何とかしますから……。だから、レナさん……後はお願いしますね?」
「バカ……。バカだよシルヴィ、無茶苦茶だよ……!」
「レナさんのカッコイイ姿、私に見せてください」
「…………分かった。絶対に、あいつを倒してカッコイイところ見せるから」
涙を零しながらも強気にそう笑うレナさんを見て、私も笑い返しました。それでこそレナさんです。
そうこうしている内に、結界の枚数も残り二枚になってしまいました。それもひび割れていて、長くは持たなさそうです。
魔力はもう底を突いています。これ以上の手立てはありません。
それでも、レナさんは私を信じてくれた以上、絶対に防いでみせます!!
「うあああああああああああっ!!!」
何にもならないかもしれませんが、最後の力を振り絞るように結界に力を入れました。
すると、突然体が温かくなった気がして、尽きたはずの魔力が溢れるように体を巡り始める感触がありました。
これなら、まだ防げる……! 耐えられます!!
「シルヴィの目の色が、赤くなってる……?」
「な、何よその魔力……。結界が、金色に輝いて修復されている!?」
「私達は、負けられないんです……! 違う、負けたくないんです!!」
勝ちたい。優勝して、レナさんやシリア様、フローリア様やエミリと笑いあいたい。
溢れ出る魔力を、ありったけの想いも込めて結界へ注ぎ込みます。結界越しにでも、エルフォニアさんの剣先が徐々に抜けているのが分かります。あと一息です!
体の全部の魔力も注ぎ込み、結界をさらに強固な物にすると、遂に剣を全て弾き返すことに成功しました。背後から鈍い落下音が四本分響き渡り、役目を終えた私の結界も粒子となって消えていきます。
何とか防ぎきれました……。そう気を抜いたと同時に、私の体が動かなくなってしまいました。
レナさんの横に倒れ込み、ぼやける視界で彼女に笑って見せます。
「レナさん、私、できましたよ……」
「ふふっ。流石ねシルヴィ。あとは任せて、ゆっくり休んでて」
レナさんの小さな手が私の頬を撫で、にぃっと笑ったところで、私の意識が途切れました。




