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597話 異世界人は推測する

 マガミさんの話によると、この島は元々は名前などは付けられていないただの離島だったらしく、歴史としても五百年程度しかない場所なのだそうです。


 魔族領本土からも距離があり、資源的な価値も見込めなかったことから、半ば捨てられていたような小島だったのですが、そこに目を付けたのがある魔族と人間の夫婦でした。

 魔族と人間の戦争はシリア様によって終結させられていたとは言え、レオノーラの和平交渉も上手くいかず、互いに関わり合いになることがタブーとされていた時代に、たまたま出会ってしまった二人は恋仲になるも、時代がそれを許してくれることはありません。

 しかし、どうにか人目に付かずに暮らせる場所を探していた彼らは、風の噂で島の存在を知り、ありったけの食べ物と生活用品を買い込んでこの島へ移民したのだそうです。


 それがきっかけとなり、魔族領内での人間との駆け落ち先として有名になりつつあったところへ、ついにレオノーラに見つかることになりました。

 ですが、その頃にはレオノーラもすっかり丸くなっていて、彼らを見逃すどころか、経済的な支援まで行ってくれるようになったのだそうです。


 魔族領による本格的な支援のおかげで島は成長し、人としての営みが保たれ始めたところへ、島にある異変が起きるようになります。

 島民の憩いの場であった温泉に入った魔族の体が変質し、何故か私達も見て来た鬼のような姿になってしまったのです。


「では、元々はあの鬼のような方々も、元はサキュバスなどの魔族なのですね」


「そう聞いている。現に、つい数年前に引っ越してきた魔族もその湯に浸かって姿が変わったからな」


「でも何で魔族だけ? 人間には効果は無かったの?」


「それが分からないんだ。恐らくは体に染みついていた魔素に反応したんじゃないかって言われてはいるが、魔力の強い魔女が入っても何てことは無かったりしたからな」


 魔族にだけ影響のある温泉。

 それはそれで、魔族にとって辛いものがあるのではないのでしょうか。


「だが、当時の魔族にとってはそれはむしろ有り難い話だったらしい」


「どういうことですか?」


 マガミさんの話の続きを聞くと、彼のご先祖様がこの地に現れたくらいの頃に、一度だけ人間領の軍が上陸してきたことがあるとのことでした。

 始めはご先祖様がスパイで、上陸の手引きをしていたのではないかと疑われていたようでしたが、共に撃退していく中で彼の実力と誠実さに胸を打たれ、「再び上陸した時は神に代わって裁きを下す」と一喝したことがあったのだそうです。


 魔族ではなく鬼が住む島と恐れられた結果、以降は侵略行為に遭う事も無く、平和に暮らしていけていることから、魔族の見た目を変えてくれた神様が住んでいるに違いないという話が島中を巡り、やがて“神住島”と命名される運びとなったとのことでした。


「へぇー、それで神住島って名前なのね」


『何の神のイタズラかは分からんが、結果としてこの島の者を救っておったのじゃな』


「何だかいいお話ね~」


「ねぇ、お姉ちゃん……」


「どうしましたか?」


「お母様、ティファニーとエミリが入ったら鬼になってしまうのでしょうか!?」


「ふふ、どうでしょうね」


「えぇー!? わたし、鬼になりたくない! お姉ちゃんになでなでしてもらえなくなっちゃう!」


「ティファニーも嫌です! お母様が好きだと言ってくださる、このお花の香りが出せなくなります!」


 鬼になってしまうかもしれない、と怯えて抱き着いてくる二人を撫でながら、皆で笑いあいます。

 実際にどうなるかは分かりませんが、念のため覚えておいた方がいいかもしれませんね。


「で、その戦の時に一番功績を挙げていたのが、俺の先祖だったということで、それ以降はこの島の領主として台頭することになったって訳だ」


「ご先祖様がこっちに来たのって二百年ちょっと前なんでしょ? ってことは、千八百年頃だから……江戸時代かしら?」


「エド! そうだ、父上からはエドという単語を聞かされたことがある!!」


「うわぁ! びっくりした!!」


 突如立ち上がったマガミさんに、私達は驚かされてしまいました。


「レナ殿、そのエドの話をもっとしてくれないか!?」


「え、えーっと。確か江戸時代の後期のはずだから、マガミさんが着てるような(かみしも)姿の町奉行や武士も多くいたはずよ。ただ、当時の徳川将軍が無能だったせいで、国は安定していたのに貧乏だったって聞いたことがあるわ」


「トクガワ!!」


「だから急に大きな声を出さないでってば!!」


「すまない! だが、遠い昔の記憶でその名が出てきたことがあったのを思い出したのだ!」


「マガミ家がどこの(はん)にいたのか分からないから何とも言えないけど、当時の征夷大将軍だから、こっちで言うところのレオノーラの名前に該当するくらいね」


「そうだ、思い出したぞ! 祖父上は確か、トクガワを許してはならんと口にしていたはずだ!!」


「っていう事は、薩摩や長州、あと土佐とか肥前あたりの反幕府派の所属だったのかな?」


 その後も、マガミさんが思い出す単語を手掛かりにレナさんが推理し、あれこれと盛り上がりながら話が続いていく中、異世界の歴史は全く分からない私達が置いてけぼりとなってしまっていました。

 かと言って、楽しそうなマガミさんの邪魔をするもの悪い気がしますし……と考えていると、いつの間にか私の背後にいたコソデさんが声を掛けてきました。


「シルヴィ様、失礼致します。もしお時間がよろしければ、今の内に厨房へご案内させていただければと。他の皆様には、お宿へご案内させていただきます」


「ありがとうございます。ここで役に立てそうなことは無いので、お願いしてもいいでしょうか」


「はっ。では、こちらへ」


 コソデさんからの助け舟に乗り、私達はそっとその場を後にするのでした。

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