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588話 ご先祖様は突っぱねる

 とりあえずエミリとティファニーをフローリア様にお願いし、席を外してもらった代わりに、彼女達を席に招いて詳しい話を聞くことにしました。

 彼女達の話を要約すると、領主である“マガミ”という人物はレナさんの世界と何か関りがあるらしく、私が作った異世界の料理であるトンカツを、どのようにして知ったのかを知りたいのだそうです。


 それに関しては私ではなくレナさんの方が詳しいことを伝えると。


「では、ぜひレナ様にもお越しいただけないでしょうか」


「マガミ様も、さぞお喜びになられるかと」


 という回答をいただいてしまいました。

 私としては、ただトンカツのレシピを提供しに行くだけですし、シューちゃんのお屋敷の様子から神住島の文化は気にはなっていたので、観光できるならしてみたいところです。

 レナさんも故郷に通じる話が得られるか知れないという事から、断る理由はそんなになかったようでしたが、私達の行動の決定権を握っているのは常にシリア様なのです。


『そんな妾達に利の欠片もない話に、妾達が乗るとでも思っておるのか?』


 真っ向から拒絶されたお二人は、狐のお面越しでも分かるくらいに驚いていました。

 お二人ほどでは無いにせよ、そこまで強く断るとは思っていなかったことから驚いていた私達へ、シリア様は溜息交じりに言いました。


『お主らまで驚いてどうする……。そもそも、あのレシピはブレセデンツァ領のよく分からぬ輩にくれてやったのじゃろう? 必要ならレシピを提供しろとお主が命じてある以上、レシピ提供が目的ならば、まずはそっちから攻めるべきでは無いのか?』


「そう言われると、確かにそうかもしれません」


『それに、如何にレナの世界の文化を踏襲して好んでおるとは言え、相手は領主じゃぞ? これまでに出会って来たミーシアやゲイル、シュタールと言った友好的な者だけが領主ではない。何かしらの罠や策略があって然るべきと考えるのが定石であろう』


「でも罠って確定してる訳でもないんでしょ?」


『だからこそじゃ。先も言ったが、この話に乗っても妾達に何の利点もないのじゃぞ? 観光がしたいのなら、シュタールの奴でも頼ればよい。レナの世界の話を聞くにしても、レオノーラの奴やシュタールにでも席を用意させれば良かろう。こんな百害あって一利もない誘いに乗る必要なぞどこにある?』


 シリア様の仰っている言葉は、確かにその通りだと思います。

 見ず知らずの人に「あなたに興味があるので、我が家に来てくれませんか?」と言われているようなものですし、怪しいか怪しくないかの尺度で計るなら、どう考えても怪しさしかありません。


 警戒心が高まって来た私達に対し、彼女達はお面越しにお互いの顔を見合わせています。

 しばらくすると、緑色の女性の方が静かに席を立ちました。


「……我々を警戒なさるのは無理もございません。この場は一度退かせていただき、また日を改めてお伺いさせていただければと存じます」


「えぇ!? マガミ様に何て報告すればいいの!?」


「シッ!」


 困惑するもう一人の方を短く叱り、緑色の女性はこちらに向き直って言葉を続けました。


「大変不躾なお願いとはなりますが、魔女様のご都合の良い日時をご教授いただけませんでしょうか。この度は我々の説明不足もありましたので、その日までに納得のいく説明ができるよう準備させていただきます」


「都合のいい日時、ですか」


 シリア様から『余計なことを考えずに追い返せ』という視線を感じますが、ここまで食い下がってくると言う事は、何か彼女達なりの事情があるのだと思います。

 それを聞いて確かめるのも今度でいいとは思いますし、それまでに私達側でも情報収集をすることができれば、何か企てられていたとしても手の打ちようはありそうです。


「そうですね……。では、来週の太陽の日でお願いできますか? 午後二時頃からであれば空いているはずですので」


「承知いたしました。では、また後日にお伺いさせていただきます」


「……失礼致します」


 緑色の女性に続き、白色の女性も立ち上がると、私達に頭を下げて去っていきました。

 本当に、これで良かったのでしょうか。そう思ってしまいそうなほどに落胆している白色の女性の後ろ姿を見送っていると、断ったご本人が深く息を吐きました。


『お主はまだまだ、人を疑うと言う事に慣れぬのぅ。良いか? 今の話を要約すると、お主は他の領主に目を付けられたと言う事じゃ。それが指す物は何か? お主を上手く取り込み、影響力を持とうとする輩が今後、同じように狙ってくる可能性があると言う事じゃよ』


「では、今回はそうでは無かった可能性があると言う事ですか?」


『恐らくはの。じゃが、こうして突っぱねておくことで、ホイホイついていくような阿呆ではないと示すこともできる。奴らが次に来る時にはいくらか手を打ってくるじゃろうが、それは妾達も同じことよ。食われぬように立ち回り、優位をキープすることを最優先として考えるのじゃな』


「なんか、政治とか商人とかの戦場みたいね」


『どこも似たようなものじゃよ。して、こういったものは場数と事前の情報収集が物を言う。場数はどうにもならんが、情報戦でも負ければ目も当てられん。故に、しっかりと奴らの情報を集めておくようにの』


「分かりました」


 一難去ってまた一難とは、まさにこういう事を言うのでしょうか。

 ともあれ、彼女達の後ろに控えている領主様の目論見も見透かせるように、来週までに情報を集めておくことにしましょう。

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