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586話 異世界人は仕事が欲しい

 そんなこんなで、あっという間に最終日の半日営業が終わり、午後の二時過ぎ。


「「ありがとうございましたー!」」


 最後のお客さんを見送って、私達の“野良猫のラウンジ”は閉店を迎えることになりました。

 半日だけだったとは言え最終日ということもあって、一昨日の売り上げに匹敵するほどの客入りだったため、

 ずっと忙しくホールを回していたエミリ達もぐったりとしていて、ゴーレムである猫達も疲労感を色濃く顔に出しています。


「……っよし! あとはレジ締めて、トータルの売り上げ出してシューちゃんに払っておしまいよ!」


『うむ。よく頑張ったのぅシルヴィ。掃除は妾が済ませておいてやる、お主は今の内に着替えて帰る準備をしてくるのじゃ』


「分かりました。ではエミリ、フローリア様。お先に着替えてしまいましょう」


「「は~い!」」


 エミリとフローリア様を連れて二階へ上がり、普段着へ着替え終えた頃には既にレジ締めも終わっていたらしく、レナさんの嬉々とした声が私達に向けられました。


「半日なのに売り上げが白金貨三枚! トータルの売り上げはざっくり白金貨二十枚ってとこね! 初動が良ければもっと伸ばせそうだったけど、これでもかなりの売り上げだと思うわ!」


 白金貨二十枚。目標であった十枚を大幅に上回ったその結果に、私も喜びを抑えきれませんでした。

 お店の賃料、レナさん達へのお給料、あとは仕入れの経費を差し引いたとしても、半分くらいは残りそうです。

 お金の使い道は悩むところではありますが、有事に備えて貯めていてもいいかもしれません。


「では、レナさんとシリア様の準備ができ次第、シューちゃんのところに支払いに行きましょうか」


「おっけー! じゃあ、ちゃちゃっと着替えてくるわ」


『妾は特にいらん。早う行ってこい』


「はーい。猫はいいわよねー」


 シリア様による睨みを背中で受けながら、レナさんは二階へと上がっていきました。

 私は私で、彼女が戻ってくるまでに火の元の確認や店の戸締りをしてしまいましょうか。





 シューちゃんのお屋敷に到着し、客間に通された私達は、早速彼女に賃料を支払うことにしました。


「ほい。丁度白金貨三枚、ちゃんと受け取ったで」


「お店を貸してくださってありがとうございました」


「ええよ~。こちらこそ、ええもん食べさせてもろたしな!」


 にひひと笑うシューちゃんに微笑み返すと、「ところで」と問いかけてきました。


「総売り上げはどのくらいになったん?」


「こちらです」


 レナさんにまとめていただいた売り上げ表を手渡し、目を通していただくと。


「たった一か月でこないに売り上げたんや!? ホンマ、よう頑張ったなぁ」


「毎日毎日大繁盛過ぎて、休む暇も無かったわよ……」


「でもすっごく楽しかった!」


「私も楽しかったわ~!」


『妾はもういい……』


「私も、しばらくは普段の料理だけにとどめておきたいです」


「あはは! 好きなように作るのと、仕事で作る料理はまたちゃうやろ?」


 シューちゃんの言葉に、私とシリア様は苦笑で返します。

 シリア様も昔はご自身がお世話になっていた“シエスタ”で手伝っていらっしゃいましたし、料理も手慣れていらっしゃったので苦では無いと思っていましたが、それはまた別のお話だったようです。


「仕事でやり続けるのは辛そうよねー」


「そうね~。あんなに忙しいと、レナちゃんやシルヴィちゃんといちゃいちゃできないから困っちゃうわ」


『貴様は遊びすぎなのじゃ。毎日遊んでないで、早う仕事を見つけよ』


「えぇ~!? 働きたくなぁい!!」


 フローリア様の口から飛び出た言葉に、私達全員からの冷ややかな視線が向けられます。

 私達と行動を共にするよりも前から一緒だったレナさんからも、深い溜息が吐かれていました。


「あんたは神様だから働かなくて許されるんだろうけど、あたしはそろそろ何か仕事しなきゃなぁ……」


「うん? レナちゃん無職なん?」


「無職って言うか家事手伝いって感じ? シルヴィの診療所を手伝ったり、森の住民の狩りを手伝ったりしてるだけだし」


「ほーん。でもレナちゃんは魔女やろ? そないに仕事仕事いうて気にせんでもええんとちゃう?」


「いやぁ、気にするわよ。あたし少し前までは普通に社会人だったもん」


「えぇ? 神住島(かすみじま)の子、働き始め早すぎひん?」


「え、あー……そ、そうね。人によるけど、あたしは早かったかな?」


 レナさんの苦しい言い訳でしたが、シューちゃんは納得したように腕を組みながら深く頷いていました。

 ですが、こうしてレナさんが何かちゃんとした仕事を求めているというのは初めて聞いた気がします。

 かと言って、私から何か仕事を斡旋することもできませんし……と考えていると、シューちゃんが「せやったら」と口を開きました。


「もし嫌やないんやったら、冒険者なんてやってみたらええんとちゃう?」


「冒険者は……うーん……」


 彼女の眉間にしわが寄ってしまっているのは、間違いなくセイジさん達を見ているからだと思います。

 その気持ちはよく分かりますが、私としても少し気になっていることはありました。


「あくまでもセイジさん達は特別な冒険者という扱いを受けているそうですし、一般的な冒険者であれば、また違った生活を送っているのかもしれませんよ?」


 そうですよね? とテーブルの上にいらっしゃるシリア様へ視線を向けてみると、私の疑問を汲み取ってくださいました。


『うむ。あ奴らは例外に近いが、そこらの冒険者なら日銭を稼ぐくらいの仕事は貰っておるじゃろう。それこそ魔女という立場を活かし、かつての妾のように万事屋に近い仕事をするのも悪くはないしの』


「無理にとは言わへんよ? ただ、冒険者って名乗っといたら無職扱いはされにくいし、ちょいと働きとうなったら仕事を貰いに行ったらええさかい。そう悪い職種でもあらへんとちがうかなーってな」


「それはそれで日雇いバイトみたいでアレなのよ……」


『それは分からんでもないが、かと言ってお主があの森で仕事を見つけるのは無理があろう。家はあのままでも構わんが、仕事を求めるとなれば人間領なり魔族領なりに出るしかないぞ?』


「レナちゃんもアイドルする?」


「あたしはああいうのは似合わないっていうか無理があるっていうか、ね?」


「えぇ~? 絶対可愛いのにぃ」


 エミリが肩を落としていますが、レナさんはこの世界に来るまでは二十四歳……いえ、誕生日を二度迎えているので二十六歳だったと思います。今では見た目こそ十歳前後ですが、そんな彼女にペルラさん達と同じようなことを強いるのは、流石に恥ずかしく感じられてしまうのも無理はないのかもしれません。


「まぁまぁレナちゃん! とりあえず冒険者ってことにしておきましょ? せっかくエルフォニアちゃんにカードも作ってもらったんだし!」


「そうねぇ……そうするかなぁ」


 レナさんは他に案は無いといった様子で、渋々了承しました。

 その様子にシューちゃんは苦笑しつつも、パンッと手を打って話題を切り替えます。


「ほな! 無事に店も閉じられたし! 今日は帰ってゆっくり休んだらええ! うちも暇を見つけて遊びに行くさかい、シルヴィちゃん達もまた遊びに来てくれると嬉しいわぁ!」


「はい。本当にお世話になりました、シューちゃん」


「ええってええって! ほな、気を付けて帰ってな!」


「じゃ、またねシューちゃん!」


「またねー!」


 シューちゃんに見送っていただきながらお屋敷を出て、そのまま転移で我が家へと帰ります。

 家に着くなり、フローリア様がエミリを連れて「お風呂お風呂~♪」と別棟へ向かってしまいましたが、かえって都合が良かったかもしれません。


「レナさん、少しいいですか?」


「ん?」


 レナさんを呼び止め、用意しておいたものを取り出します。


「少ないかもしれませんが、お店を手伝ってくださっていた報酬のお給料です。受け取ってください」


「えぇ? 別にいいのに……って、うわっ!? こんなに!?」


 白金貨が二枚と金貨が七枚入った小さな袋を思わず落としそうになる彼女に、私は小さく笑いました。


「私はレナさんのおかげで毎日助けられていますし、必要であれば、今後も手伝ってくださった分に応じてお給料をお出ししますよ」


「いや、別にお金が欲しいって訳じゃないのよ。ただ」


「ちゃんとした職業ではない。それを懸念しているのですよね」


 コクリと頷くレナさん。

 そんな彼女に、私は優しく言葉を続けました。


「レナさんがやりたいことを見つけるまで、私の手伝いをしてくださっていても大丈夫ですし、むしろ歓迎します。なので、焦らずに自分に合ったものを探せばいいと思います」


『それでも気になるのならば、今度街に出も出て散歩してくれば良い。意外なところで、お主に合った仕事が見つかるやも知れぬぞ?』


「シルヴィ、シリア……。うん、そうね。ありがとう、何かちょっと焦ってたわ」


 ふっと笑うレナさんの顔は、少しだけ解放感が増したように見えました。

 レナさんはそれを隠すようにタタタッと家の方へ駆けていき、少し離れたところで私達を手招きします。


「とりあえず先のことは明日以降に考えるわ! 今日はもう休みましょ!」


「ふふっ。お風呂を忘れないでくださいね?」


「分かってるわよ!」


 そう返して先に家の中へ戻っていったレナさんを見送り、私達も笑いながら後に続くのでした。

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