番外編 魔女様のバレンタイン~偽りの勇者編~
シルヴィは数少ない男性の知り合いとして、現代の偽勇者一行であるセイジを選んだようです。
ほぼ同年代の彼に対し、シルヴィはどうやってチョコを渡すのでしょうか……。
チョコレートを作り終わった私は、単身でグランディア王国の首都、ホルンストンへ訪れていました。
というのも、私がイタズラを仕掛けるために選んだ人物に会うためなのですが……。
「あ、いたいた! シルヴィさーん!」
私を呼ぶ声に振り向くと、そこには防寒仕様のコートを身に纏っているセイジさんがいらっしゃいました。
彼はそのまま私の近くまで走り寄ってくると、人懐っこい笑みを浮かべてきます。
「急にどうしたんですか? いきなり話がしたいだなんて……。それに、何か今日はいつもと違う服装ですね」
彼の言う通り、今日は以前シリア様に作っていただいた冬服に袖を通していました。
白を基調としたドレスコートだけでは寒そうに見られかねないため、赤と白のマフラーを付けているのですが、帽子を被っていない私を見るのが新鮮なのか、セイジさんは興味深そうに私を見つめてきます。
「はい。魔女の服装では目立ってしまうかと思いまして」
「シルヴィさんの容姿では、魔女の恰好じゃなくても目立っちゃいそうな気がしますけどね」
「そんなことはありませんよ。ですが、褒めてくださってありがとうございます」
そんな談笑を交えつつ、早速本題を切り出します。
「今日はセイジさんに、渡したいものがありまして」
「俺にですか?」
「はい……こちらを受け取っていただけないでしょうか」
ピンク色の可愛らしい包み紙でラッピングされたチョコレートを差し出すと、彼はまだ中身も確認していないのに喜び始めました。
「わぁー! ありがとうございます! 俺、身内以外の誰かからプレゼントをもらったのなんて、これが初めてです!」
予想外の反応に、私の笑顔が固まってしまいました。
こ、これはいけません。イタズラ目的です、だなんて絶対に言い出せません!
急遽作戦を変更して、彼には義理チョコであると伝えておきましょう。
「え、ええと……魔族領のある地方で知った催し物なのですが、二月十四日はバレンタインデーという日なのだそうです」
「バレンタインデー? 初めて聞きました」
「私もつい先日知ったばかりなので、詳しいことは言えないのですが……。何でも、この日は女性からお世話になった男性へ、感謝の気持ちを込めてチョコレートを贈る慣わしがあるそうです」
「そうなんですね……。ってことは、これはそのお礼のチョコってことですか!?」
「はい。お口に合わないかもしれませんが、もし良かったら食べてくださると嬉しいです」
「シルヴィさんが作ったチョコがマズイ訳が無いですよ! ありがとうございます、めっちゃ嬉しいです!!」
その場でクルクルと小躍りしながら喜ぶ姿に、私は内心で、こんな純粋な男性を騙そうとした自分を激しく叱責します。
それを顔に出さないように余所行きの笑顔を浮かべ、彼に〆の言葉を贈ることにしました。
「セイジさんや皆さんには色々とお世話になりました。またお力を借りたい時が来るかもしれませんが、その時はお願いできますか?」
「もちろんです! 俺達で良ければ、いつでも力になりますよ!」
「ふふ、ありがとうございます」
満面の笑顔を浮かべる彼に微笑み返していると、遠くからセイジさんを呼ぶ声が聞こえてきました。
そちらに顔を向けると、何か買い出しに言っていたらしい現代の勇者一行の皆さんがいらっしゃいました。
「いたいた、探したんだよセイジくん……って、シルヴィさんも一緒だったんですか!?」
「こんにちは皆さん。少し、セイジさんに渡したいものがあったのでお借りしていました」
「セイジ、何を貰ったの?」
「ふっふっふ……じゃじゃーん! 魔女様特製のチョコレートだ!!」
「チョコ!!」
「あっ、おいやめろアンジュ! お前のじゃねえから!」
「分けてくれても、バチは当たらない!」
「嫌だ! これは俺が全部食べるんだ!!」
こちらも温かそうな黒いコートを着ている、夜猫族のアンジュさんとチョコレートの奪い合いが始まり、それを見ながら笑っている一方で、魔法使いのメノウさんが溜息を吐きながらそちらへと向かっていきました。
「没収よ」
「はぁー!? おい、返せよメノウ!」
「チョコぉ!!」
「魔女が作ったチョコなんて、怪しすぎて食べれないわよ」
「んな訳あるか! シルヴィさんを信じられねえのか!!」
「チョコー!!」
「ほら、アンジュはこれを食べてなさい」
甘い菓子パンを差し出されたアンジュさんは、チョコから一気に興味が移ったらしく、メノウさんからパンを奪い取って頬を緩ませながら食べ始めました。
その後もセイジさんと口論を始める二人を見ていると、冬用の修道服の上にコートを羽織っていたサーヤさんが私の近くへと歩み寄ってきます。
「あの、シルヴィさん」
「何でしょうか?」
「えっと、その……」
サーヤさんは言いづらそうに視線を泳がせたり、指先を弄んでいましたが、やがて私をしっかりと見据えながら言いました。
「せ、セイジくんはあげませんから!!」
顔を真っ赤にさせたサーヤさんは、そう言い残して彼らの方へと走り去っていきました。
……もしかして、バレンタインデーというのは私が知らなかっただけで、こちらの世界でも一般的な物なのでしょうか。
いつの間にか、彼女の恋敵として扱われそうな立場になってしまったことに苦笑しつつ、彼らの邪魔にならないようにこっそりと帰ることにしました。




