番外編 魔女様のバレンタイン~仕込み編~
今日はバレンタインデーと言う事で、番外編をお送りします!
前回のハロウィン同様に分岐型にしてみましたので、一時間後に好きな行先を思い浮かべながら続きをお楽しみください!
「今日はお客さん来ないねー」
「これだけ降っていると無理もないでしょう」
二月十四日。
私達が住む森の天候は、少し外で立っていれば肩に雪が積もりはじめる程の降雪です。
冬入りしていることから獣人族の皆さんは狩りに出ませんし、ハイエルフや植妖族の皆さんも寒さに弱いので、わざわざ遊びに来ることもありません。
兎人族の皆さんは用事があるとのことで、珍しく全員でゲイルさんが治めている街へと出かけているため、この森に住んでいる方々が診療所に来ることは無さそうです。
今日は外で鍛錬も出来なさそうですし、どう過ごしましょうか……と考えながらエミリの髪を梳いていると。
「シルヴィー、いるー?」
「診療室にいますよ」
階段の方からレナさんの声が聞こえてきました。
私の返事を受けた彼女はトントンと階段を降りてくると、何かを隠すように後ろ手を組みながら、少し楽しげな表情を向けてきます。
「はい、ハッピーバレンタイン!」
「……?」
レナさんから差し出された小包を見ながら、彼女が口にした単語の意味を考えるも、私にはバレンタインという意味が分かりませんでした。
「ハッピー、バレンタインと言うのは何でしょうか?」
「えっ、こっちにはバレンタインデー無いの?」
「私は聞いたことがありません……。エミリは知っていますか?」
「ううん」
「あたしの世界だと当たり前の文化なんだけどなぁ。まぁとりあえず、これを受け取ってほしいわ」
そう言いながらレナさんは、まずはと私に小包を押し付けてきました。
あまり重さを感じさせないそれのリボンを解き、箱を開けてみると。
「チョコレート、ですか?」
「そうよ」
何故チョコレート? と尋ねそうになる私より先回り、レナさんが説明をしてくださいます。
「あたしも発祥とかは良く知らないんだけど、あたしの世界だと二月十四日はバレンタインデーって決められてるの。で、その日はお世話になってる人や好きな人にチョコレートを渡して、告白したり、愛を確かめ合うっていう日なのよ」
「愛を確かめ合う……」
異世界には、そんなロマンチックな文化があるのですね。
そう考えると同時に、その言葉の意味を深く考えすぎてしまい、私の顔は熱を帯び始めました。
「ま、待ってください! わ、私達はその、女性同士な訳で!」
「あはは! 残念でしたー、あたしのこれは義理チョコって言うの。友達や知り合いに渡すのは義理チョコ、好きな人に渡すのが本命チョコって言うのよ」
「そ、そういう事でしたか……」
まさか、レナさんまでフローリア様のような性的嗜好なのかと思ってしまい、勝手に暴走しそうになったことを恥じながら顔を俯かせます。
そんな私をレナさんはケラケラと笑うと、そっと耳元に顔を近づけてきました。
「でも、シルヴィが望むなら……本命ってことにしてもいいわよ?」
「や、やめてください! もう!」
「あはは! 冗談だって!」
今日のレナさんは一段と意地悪な気がします。
恥ずかしさと若干の怒りで顔を赤らめる私に、レナさんは続けます。
「という訳で、それ食べたらシルヴィ達もやってみない? お礼をするために作るもよし、好きな人……はいないと思うから、今みたいに本命ってことでからかってみるのも面白いと思うわよ?」
「わたしもやりたーい!」
「いいわよー! それじゃ、エミリと先に作ってるからシルヴィもあとで来てよね! シルヴィのチョコとか絶対美味しいと思うし!」
そう言い残し、レナさんはエミリを連れて二階へ戻っていってしまいました。
バレンタインデー。思いを伝える日、ですか。
日頃の感謝を込めて、お世話になった人達へ作ってみるのもいいですし、知り合いの男性へ渡してみるのもいいかもしれません。
今日は時間もあることですし、ゆっくり考えながら作ってみましょうか。
私はレナさんからいただいた桜をモチーフにしたチョコレートを一口齧りながら、診療所を閉める準備を進めることにしました。




