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19話 魔女様は強敵と戦う(前編)

遂に時期大魔導士候補と名高いエルフォニアとの決戦が始まります!

こちらのお話は長くなったため、4分割でお届けします!

「っ……!!」


 エルフォニアさんと目が合ってしまい、思わず息を飲んでしまいました。

 彼女の眼はとても冷たく、視線を合わせているだけなのに体が寒くなるような錯覚に陥ります。

 それと同時に、脳裏に一回戦で見たあの光景が浮かび、ぎゅっと目を閉じて走って逃げたくなります。


 怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


 これが、殺気というものでしょう。初めて向けられるその感覚に、勝手に手先が震えてしまいます。気が付けば呼吸も荒くなっているようで、少し息苦しさを感じます。


 逃げたい。戦いたくない。防げなかったらどうしよう。痛いのは嫌。死にたくない。


 頭の中がエルフォニアさんから感じる恐怖でいっぱいになり、思考が止まりそうになります。

 ですが、唐突にシリア様の姿が脳裏に浮かび上がり、ぎりぎりのところで踏みとどまらせてくださいました。


 そうです、これは私だけの戦いではありません。


 私がここで逃げようものなら、私を認めてくださったシリア様を裏切ることになります。それはシリア様の顔に泥を塗ることでもあり、神祖と崇められ、絶大な支持を持つご先祖様を失墜させてしまうことにも繋がりかねません。


 何より、シリア様に信じていただいている自分自身を、私が信じないでどうするというのですか。


 私は震える指先を必死に握りしめ、小さく息を吐いて、精一杯の強がりでエルフォニアさんを強く見つめ返します。まだ心臓が激しく脈を打っていて、怖くてどうにかなりそうです。それに、勝算なんてありませんし、開始早々に負ける可能性だって十分にあり得ます。


 でも。それでも。


 始まる前から、逃げたくはありません。


 シリア様やフローリア様、レナさんやメイナードに教わったこれまでの全部をぶつけて、それから考えたいです!


 なんとか前向きに戻せた気持ちで見つめていると、エルフォニアさんの目がほんの少しだけ見開かれ、続けて小さく微笑んだように見えました。しかし、突然緩んだ気配に驚く私を無視して、エルフォニアさんはふいと顔を背けてしまいました。今の顔は、一体……。


「……。……ぇ、シルヴィってば!!」


「え? わひゃぁ!?」


 レナさんに強く腕を引かれ、体勢を崩してしまいそうになります。よろけながらレナさんの方を見ると、とても心配そうな顔で問い詰められました。


「大丈夫シルヴィ? 顔色悪いわよ? エルフォニアとずっと睨みあってたっぽかったけど、何かされてない?」


「い、いえ。大丈夫です、何もされていませんよ」


「そんなこと言っても分かるんだからね? 自分の手、見てみなさいよ」


 言われるがままに自分の手を見ると、強く握りしめすぎてしまったようで、手汗の他にも薄っすらと血が滲んでしまっていました。痛みすら感じられないくらい、極度の緊張状態だったようです。


「……すみません。エルフォニアさんと目が合って、ちょっと緊張していたみたいです」


「ちょっとで済む訳ないでしょ? 全くもう……。はい、これあげるから舐めると良いわ」


 自分に治癒を掛けながら小さく包まれたものを受け取ります。中身は恐らく飴でしょう。


「心配かけさせてすみません。でも、ありがとうございます。レナさん」


「終わったら話ぐらい聞いてあげるから、それ舐めて元気出すのよ」


「分かりました……。んっ、酸っぱい……!?」


 包み紙から飴を口の中に含んで転がした瞬間、強烈な酸味が舌を襲いました。レモン味のようですが、全く予想していなかったこともあって顔をしかめてしまいます。


「あはっ、あっはははは! 凄い顔してるわよ!? ちょっと動かないでね! 写真撮りたい!」


「や、やめっ、あう~~酸っぱいぃ!」


 そのままレナさんにウィズナビで何枚も写真を撮られてしまい、撮られた自分の顔を見て思わず笑いだしてしまいました。ですが、おかげで程よく緊張が解れた気がして体が軽く感じます。


「あの~、【森組】のお二方。準備が良ければ転移していただけると……」


「「すみません~!」」


 エルフォニアさんはとっくに転移していたらしく、私達は慌てて転移門へと飛び込みました。





「あら、ようやく来たわね」


 転移してきた私達を見て、宙に浮かぶ魔法陣に腰掛けていたエルフォニアさんがそう声を掛けてきました。


「すみません、お待たせしてしまいました」


「気にしてないわ。むしろ、私に見られていても怖気ずに見つめ返してきたあなたと戦うのがちょっと楽しみなくらいだから、これくらいの待ち時間で丁度いいくらいだわ」


 そう言いながら、先ほども少しだけ見せた微笑を見せるエルフォニアさん。とりあえず怒ってはいない様子に安堵していると、隣のレナさんが声を荒げました。


「あんたねぇ、いきなり人を睨みつけるんじゃないわよ! 知らない人に睨まれたら嫌でしょう!?」


「そうかしら? 喜ぶ人もそれなりにいるのだけれど……」


「それは例外よ! 普通の人は嫌なの!」


「でも、そこの彼女は見つめ返してくれたわよ?」


「普通に見つめ返してる訳ないでしょうが! あ、ほらそれよそれ! 朝もそうだったけどすぐ睨むのやめなさいよ!」


「今は睨んだつもりはないのだけれど」


 レナさんの言っていることが分からないとでも言いたげに、エルフォニアさんは首を傾げました。もしかしたら私は睨まれていたのではなく、彼女の言う通り、単純に見られていただけだったのかもしれません。


「れ、レナさん。エルフォニアさんの言う通り、ただ見ていただけかもしれませんし。殺気とかは私の思いすぎかもしれませんから」


「あぁ、殺気は放ったわよ」


「ごめんなさい。悪意はあったかもしれません」


「なんでシルヴィがフォローするのよ!? ていうか殺気を放つとか睨むよりタチが悪いじゃないの!」


「新入りの子が、どの程度こういうのに慣れているのか気になっただけよ」


「普通の人は殺気とは無縁なの分からない!?」


「そうは言っても、魔女自体が普通じゃないもの。あなたの尺で測らないでほしいわ」


「ぐっ、正論過ぎて何も言えない……」


 初めてレナさんが言い負けるところを見てしまいました。ちょっと希少な体験です。


「それはそうと、【慈愛の魔女】。もし怖がらせてたなら謝るわ、ごめんなさいね」


「えっ、いえいえ! 確かに怖かったですが、もう大丈夫ですので。それに、エルフォニアさんのおかげで忘れてはいけないことを思い出せましたから」


「私のおかげ?」


「はい。私達はこの技練祭が初めてですが、運よく勝ち進めてこれたので少し気持ちが浮ついていたのだと思います。そんな時にエルフォニアさんの殺気を受けて、これはただのお祭りではなくて、私達は魔女として認められるかという、公認してくださった方の期待を背負っていることを思い出せたんです」


「……そう。そんなつもりはなかったし、あなたがどう思おうと私の知った話ではないわ。それに、あなた達が初めてであろうとなんだろうと、手加減なんてする気は一切ない」


「分かっています。だからこそ、今の私達がどこまであなたに通用するのか、私も少しだけ楽しみなのです」


 私は杖を取り出し、まっすぐにエルフォニアさんを見つめ、宣言します。


「エルフォニアさん、私達は負けられません。あなたに勝って、その次も勝って、優勝してみせます」


「っふ。うっふふふふふ。面白い冗談ね、ますますあなたに興味が湧いてきたわ」


「シルヴィらしくない強気な発言だけど、やる気なのは良いことだわ! 絶対勝つわよ!!」


「はい!」


 エルフォニアさんはふわりと飛び降り、同じように杖を構えました。


「私に勝つ? そんなことは万に一つもあり得ないわ。残念だけど、あなた達はここで終わりよ。大人しく影に沈みなさい」


 全員の準備が整ったところで、司会の方が戦いの火蓋を切り落としました。


「それでは決勝トーナメント第一回戦……開始!!」

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