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580話 魔女様は真相を知る

 騎士の方曰く、今回食中毒の症状を訴えていた方々は、確かに私の料理を口にした方々だったそうなのですが、その食中毒の原因が別にあったそうでした。

 その原因と言うのは、ある一部の地域で散布されたというクダリタケの胞子だったらしく、それを吸い込んでしまった方々が腹痛を始めとした症状を訴えていたのだそうです。


 さらに、それを散布したのはこちらの男性の部下の方であったらしく、それを散布するに至った理由は私の店が繁盛し過ぎたせいで、彼が所有する店舗の売り上げが良くなくなってしまっていたという、妨害目的の物でした。

 私の店で食中毒が出たとなれば、ただでさえこの街では距離を置かれている魔女が何かしたに違いないという噂が飛び交う形となると踏んだ彼の予想は的中し、今朝のように誰一人として寄り付かない状況が発生していたとのことで、あとは私に全ての責任を押し付けて処分すれば万事解決となる運びだったそうです。


 あの落とし物の瓶も、事前に彼の部下の方が持ち込んでわざと置いていったものであったらしく、それを根拠に私がクダリタケの調味料を使っていたとこじつける予定だったと聞かされ、私は何も言葉を返すことができなくなってしまいました。

 前々から、レオノーラにも妨害を受ける可能性があるから注意するようにと言われていたにも関わらず、こうして見事に罠にはめられてしまったこともそうですが、ここまで魔女が嫌われている物だと痛感してしまったのです。


「万が一に備えて、ネフェリに依頼しとって正解やったわ。うちの領地にも、こないな大したことない縄張りでイキっとる大将がおるとは思わへんかったわ」


「そういう事だ店長。あたしは最初からお前に何かあった時のためにってことで、シューの依頼を受けてたってことだ」


「ほんまに助かったわぁ。報酬はたんまり出すさかい、期待してくれてええで」


「前金でも十分だってのに、まだ乗せてくれんのか! 領主ってのは太っ腹だなぁ」


「せやろ? ほんなら、うちの領地に住んでくれてもええで?」


 そんな冗談を交わす二人を見ながら、私は話の途中から気になっていたことを質問することにしました。


「あの、レナさんとエミリは無事なのでしょうか」


「あの二人なら、今はシューの屋敷にいるよ」


 ネフェリさんの言葉に、シューちゃんが頷きます。


「こないなとこ、あないに小さい子達に見せる訳にはいかへんよ。不安がってはいたけど、うちでちゃんと保護してはるさかい。安心しぃや」


「そう、ですか。ありがとうございます」


「ええって、ええって。それよりも」


「ひぃっ!!」


 剣を抜き、ゆっくりと歩み寄ってくるシューちゃんに、騎士の男性が悲鳴を上げます。

 シューちゃんは彼の肩元に大剣を添え、私に問いかけてきました。


「コレの処分、どないしたい? うちとしては、生かす価値もあらへんさかい首を刎ねても全然ええけど」


 肩の鎧に大剣が触れ、金属の擦れる音に男性がまた悲鳴を上げました。

 私はたまたまシューちゃんという心強い知り合いがいたので、こうして全貌も明らかになり、無罪を証明することができましたが、もしかしたらこれまでも、同じような手段を用いて何人もの商売敵をこうやって潰していたのだと考えると、ただ許すだけではダメなような気もしてしまいます。


「どうする、店長」


「……私には、分かりません」


「……そか。ほんなら、うちが代わりに」


「あ、違います! そう言う意味ではなく!」


 今にも首を刎ねてしまいそうな勢いだったシューちゃんを慌てて止め、纏まらない言葉で思いを告げます。


「私はいつも、誰かに助けられて生きてきました。今回も、シューちゃんとの繋がりがあったおかげで、あの寒くて暗い牢から出ることができましたし、私の冤罪もこれから晴らされることでしょう。ですが、それは本当にたまたまで、運が良かっただけなんだと思います」


「私があのお店を借りているのはあと少しですが、私の後、あのお店を借りた人が同じようなことをされ、何も覆せないまま無実の罪で人生を棒に振らなきゃいけなくなるのだけはどうしても阻止したいです」


「魔族のルールは分かりませんし、もしかしたらこのまま死罪となるのが当然なのかもしれません。ですが私は、彼には生きていていただきたいです。生きて、これから増える同業者を敵として見るのではなくて、仲間として受け入れて、色々と教えたりして、時には切磋琢磨していただきたいです」


 私の言葉に、シューちゃんは剣を引きながら返します。


「こないな奴やで? 切磋琢磨どころか、しれっと崖から突き落とすかもしれへんよ?」


「そこは彼を信じる他無いと思いますが、シューちゃんにもお願いがあるんです」


「うち?」


「はい。どうか彼が、同じ過ちを繰り返さないように見ていてくださいませんか? それが難しかったら、彼のような力のある商人の方には、行政に深入りできないようにしてほしいんです」


 かつて、シリア様はこう言っていました。

 “魔女と言う強大な存在に、次第に行政が助言を求めるようになっていた”と。

 それは恐らく、逆らうことができない相手であるからこそ、その相手が納得する政治を行うようになっていたと言う事なのでしょう。


 そして、魔女がいなくなった現代で何が発言力を強めているかと言われると、そこに台頭しているのは財力のある方だと思います。

 生きていく上でお金は不可欠である以上、ある程度は財力がある方が有利になるように取り決めが行われるのもまた必然なのでは無いでしょうか。


 今回のように、規模の大きい経営者である方が街の治安を維持する騎士を使えないようにすれば、多少は改善が見込めるのではないかと思うのです。


 その旨を伝えると、シューちゃんは顎先をつまむようにしながら思考を巡らせ始めました。


「なるほどなぁ。確かに今までは、わりかし地方でやるようにって任せとったけど、今回のようなこと明るみに出てきたことやし、うちの方で取り決めるええ機会かもなぁ」


「では」


「ええよ、うちの方で何とかしたる。次にシルヴィちゃんが遊びに来るまでの宿題にしとくわ」


 そう答えてくれた彼女に笑みを向けると、同じように笑顔を向けてくれましたが。


「あんた今、殺されんで済んだって思たか?」


「ひっ!?」


「あんたのしたことはシルヴィちゃんが許しても、うちは許さへんからな? これまで通り、好き勝手出来る思うんとちがうで?」


 顎を剣の腹で押し上げるようにしながら、シューちゃんは低い声で脅し始めました。


「手始めに、あんたが持つ権力は全て没収。グループ経営しとる店舗も全て解散や。一から出直してきい」


「は、はいぃぃ!!」


 凄むように怖い笑みを浮かべながらそう口にするシューちゃん。

 その様子にレオノーラと同じものを感じながらも、とりあえずは彼が殺されることなく、今後真っ当な生き方をしてくれるのではないかと安心するのでした。

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