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566話 魔女様は参考にする

「ほわぁ~!! 何やこれ、えらいええ匂いやわぁ!! これがチャーハンっちゅうやつなん!?」


「はい。少し急ぎめで作りましたので、凝ったおかずは用意できませんでしたが」


「フライドチキンにポテトサラダ、卵スープまでついて凝ってないやなんて……。レナちゃんエミリちゃん、あんたら普段どないなご飯作ってもろてんの?」


「あ、あたし達からあれこれ頼んだことはそんなに無いわよ!!」


「お姉ちゃんね? お料理大好きだからいっぱい美味しいの作ってくれるの!」


「あとこれ、フライドチキンじゃなくてから揚げって言うのよ」


「から揚げ?」


 レナさんに訂正され、シューちゃんが首を傾げながらから揚げを見つめ始めます。

 そのまま彼女に説明してもいいのですが、食べていただいた方が早いと思いますので、まずは試食を進めてしまいましょう。


「はい、こちらも異世界の料理でして。違いは食べてみれば分かると思います」


「ほほぉ……。ほな、いただきます!」


「「いただきまーす!」」


 シューちゃんの合図で食事が始まり、彼女は早速、スプーンにこんもりと乗せたチャーハンを口に運びました。

 しかし、出来立てのそれはまだ熱かったらしく、涙目を浮かべながらハフハフと口の中で冷ましています。


「あっふ!! あふっ、ふあ、あおぅぅ!!」


「そりゃそんなにがっついたら熱いわよ! ほら、お水!」


 おかしそうに笑いながら差し出されたお水を、シューちゃんはぐびぐびと喉に流し込みながら、熱されていたチャーハンも一緒に飲み込んでいきます。

 コップ一杯を一気に飲み干した彼女は、ぷはっと息を吐きながら私に感想を述べました。


「いやぁ~! えらい熱すぎて、味なんか全く分からへんかったわ!」


 それはそうだと思います。とは言えず、私は苦笑だけに留めることにしました。

 それでもシューちゃんは諦めず、今度は少量をスプーンに乗せて息を吹きかけてから頬張ります。


「……んん~!? うまっ!! なんやこれ!? ただ食材を刻んで混ぜて炒めただけちゃうん!?」


「その認識で合っています」


「せやなぁ!? やのに、こないに美味くなるんは不思議やわぁ……なんか魔法使(つこ)うた?」


「私は時短目的以外では、料理に魔法は使いませんので」


「ほんなら、単純にシルヴィちゃんの腕ってことやんな? いやぁ、こないな美味さならバンバン売れてもおかしないで。ほんま、あとは売り出し方だけやわ」


 そう言いながらもシューちゃんは、「うまっ、うまっ」とスプーンを止めることなく食べ続けています。

 領主である彼女にそう認めていただけるのはありがたいですね。と小さく微笑み、私もチャーハンに手を付けます。

 まんべんなく油が行き届いたことで、お米粒全てがパラパラになっているチャーハンは、やはりいつ食べても美味しく感じられました。強いて言えば、作り立てのものでは無いチャーシューを使ったせいで、やや味が落ちていることが悔やまれるくらいでしょうか。


「あたし、シルヴィのチャーハンが食べられるなら毎日お金払ってもいいくらいだわ」


「それは言いすぎでは……」


「レナちゃん、お姉ちゃんのご飯だったらいくらになるの?」


「え? そうね……銀貨二枚、いや一枚と大銅貨五枚までなら出せる!」


「あはは! 金貨ぁー! 言うんかと構えとったけど、毎日食べるんならそれくらいがちょうどええな!」


 レナさんとシューちゃんの言葉に笑いつつ、メニューの値段は概ね適正であると安堵していると、ふと気が付いたようにシューちゃんが尋ねてきました。


「せや。これ出したらええんとちゃう?」


「それはあたし達も最初考えてたのよ。でも、異世界の料理って紹介する訳にもいかないし、そもそもこっちで作れていいものかも分からないし」


「別にそないに悩むことあらへんとちゃう? シルヴィちゃんは魔女やで? せやから、出自も知れない魔女やからこそっちゅう料理もあってええと思うけどなぁ」


 なるほど。そう言われてみると、確かにアリかもしれません。

 思い返してみれば、私達魔女はどこの出身であるかを明言しないという決まりがありますし、それは魔女以外にも適応されているのだとシリア様から聞いたこともありました。

 そうであれば、普段から時々作っているレナさんの世界の料理であったり、海鮮や野菜を多用した馴染みのない料理で攻めてみるのも、お店の個性になるのではないでしょうか。


「ありがとうございます、シューちゃん。ちょっとその路線で考えてみようと思います」


「お? ほんなら、うちが手回しして宣伝したるわ。魔女のレストランで、おもろいもんがあったさかい食べてみたけど、それがえらい美味すぎて腰抜かしたわってな!」


「あはは! 領主が腰抜かすほどって相当よ?」


「嘘の規模は大きければ大きいほど盛り上がるんよ? あとは勝手に、尾ひれが付いて泳ぎ回るのを見とけばええし」


 何とも他人任せな宣伝方法ではありますが、今は少しでも売り上げを伸ばさなくてはいけない以上、協力していただけるなら頼らせていただくことにしましょう。


「では、よろしくお願いします。シューちゃん」


「任せとき! うちにかかれば、明日にはぎょうさん並んどるさかい!」


「それもそれで困るわよ。サクラ使ってるって思われそうだし」


「サクラ? 桜は季節とちゃうんやないの?」


「あー、えっと……。店や企業側で、繁盛してるように人を雇って並ばせるっていう方法をサクラって呼ぶことがあるのよ」


「ほぉ~、神住島(かすみじま)ではそないな呼び方するんやね。でも安心してええよ? うちがするんは、とっておきの食通にタレコミするだけや!」


「「とっておきの食通?」」


 私達が声を揃えてしまったのに対し、シューちゃんはケラケラと笑いながら話を締めました。


「まぁ見とき。明日、えらいもんをココに向けたるわ」

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