17話 魔女様は出店を堪能する
お祭りと言えばやはり屋台!
魔導連合でもお祭りイベントである技練祭には出店があるようで、
シルヴィ達は未知の食べ物に舌鼓を打っています。
ですが、やはりレナは何かを知っているようで……?
城外では出店が立ち並んでいて、あちこちから食欲を刺激する香りが漂ってきていました。普段見ないような太さのウインナーやポテトフライ、ピザ、ローストチキン、イカ焼きなど、豊富な食事が提供されているようです。
エミリに手を引かれながらあちこち味見しては買い、後々起きたレナさんやシリア様達も食べることを予想して買ったりしている内に、手提げ袋の料理ははち切れそうなくらいになってしまっていました。
凄く嫌そうな顔をされながらもメイナードに運ぶのを手伝ってもらい、少し離れたところに移設されていた様々な花が彩る庭園で食べることにします。
「ん……いい匂い……」
『ようやく起きたか。さっさと我から降りて飯を食え』
「え……? ってうわわわわ!? いだっ!!」
目を覚ましたレナさんがメイナードから振り落とされ、芝生の上に転がり落ちたレナさんが短い悲鳴を上げました。それでも、背中から翼を伝って転がすように降ろすあたり、雑ではありますが彼なりの気配りなのでしょう。
ですが、レナさんにとっては不服だったようです。
「あ、あんたねぇ!? 降ろすにしてもやり方があるでしょ!? いきなり転がすんじゃないわよ!」
『ふん。気を失っていた貴様を乗せて移動してやった我へ掛ける言葉がそれか。面白い小娘だな』
「え? あ……」
メイナードに言われ、レナさんは自分がフローリア様の抱擁で気絶していたことを思い出したようです。
気まずそうに視線を逸らしながら頬を搔いていましたが、しばらくすると顔を赤らめながら消え入りそうな声で呟きました。
「それは、その…………ありがと」
『何か言ったか、小娘?』
「だ、だからそのっ……って、あーっ!! なんなのよあんた! 絶対分かってるでしょその顔!!」
『クックック、知らんな。我は人とは違うからな、貴様のような小娘の声は聞き取りづらい』
「ほんっといい性格してるわ! 絶対言い直すもんですか!」
『貴様は冗談という物を学ぶがいい。そんな様子だから安い挑発に乗るのだ。分かったら主に礼を言って飯でも食っていろ』
「いつまで引っ張るのよその話! あったま来るわねホント! いつか絶対焼き鳥にしてやるわ!! あ、シルヴィごめんね。色々とありがとう!」
「いえいえ、気にしないでください。さぁ、冷めてしまわない内にいただきましょう。私とエミリで選んだので、もしかしたら口に合わないかもしれませんが……」
「まさか! シルヴィ達が選んでくれたのならなんでも食べるわよ。じゃあどれにしようかな~……」
「レナちゃん、これ美味しかったよ!」
エミリがそう言いながら差し出したのは、焼きそばと呼ばれる料理でした。
これは私も初めて食べたのですが、パスタとはまたちょっと異なる麵が濃い味付けのソースで炒められた料理で、思わず家でも作ろうかと思ってしまう逸品でした。
どうやらレナさんはこれを知っていたようで、差し出された焼きそばを大喜びで受け取りました。
「うっそ!? こっちでも焼きそば食べられるの!? あ、でも箸じゃなくてフォークなのね。うわ~、このソースの匂い! たまんないわぁ……いっただきまーす!」
フォークでくるりと絡めとって口に運んだレナさんは、うっとりとした顔で「これよこれ。幸せ……」と呟きながら黙々と食べ始めました。もしかしたら、レナさんのいた異世界にも似たような食事があったのかもしれません。
レナさんのためにも、あとで店主の方に詳しい作り方と、この麺の作り方を教わっておきましょう。
「あ、いたいた~。シルヴィちゃ~ん!」
遠くから名前を呼ばれて振り向くと、ボロボロになったフローリア様と、何故か抱きかかえられているシリア様がいらっしゃいました。
「フローリア様、その怪我は大丈夫なのですか……?」
「全然大丈夫じゃないわよ! 全く、神力尽きるまで全力で襲ってくることないじゃない。シリアのバーカ」
『お主に馬鹿呼ばわりされとうないわ……』
「と、とりあえずこちらへ。できる限りで治療しますので」
「やったぁ~! じゃあお言葉に甘えて、ごろ~ん♪」
てっきり横に座られるものと思っていましたが、フローリア様はシリア様を抱いたまま私の膝の上に頭を乗せてきました。楽しそうなフローリア様に苦笑しながら、切り傷やあざになっている部分に治癒魔法を掛けていきます。
ですが、フローリア様は私達とは異なり神様なので、あまり効き目が強くないようです。
「あぁ~。シルヴィちゃんのヒール初めて受けたけど、これ最っ高に気持ちいいわね~……。眠くなって来ちゃいそう」
『こんな奴に治癒なぞ使わんでよいぞシルヴィ。放っておけ。魔力の無駄じゃ』
「ま~たそういう事言うの? えいえいっ☆」
『んにゃ! や、やめんか! 頬を揉むな馬鹿者!』
「動けなくなるまで神力使い切るのが悪いんだからね~、えいえいっ☆ あ、シルヴィちゃん。私に対するヒールは人間にするソレとは勝手が違うでしょ?」
「はい。体の構造が違うのかは分かりませんが、どうもいつものようにすぐには治せないみたいで」
「当ったり前よ~。私達には神聖守護がデフォルトで掛かってるから、如何に光属性の治癒魔法と言えど所詮はアンダーワールド……ううん、何でもないわ。とにかく、効き目は半減以下になっちゃうのよねぇ」
「そうなのですか?」
「そそ。これが無くなっちゃうとそこらの人間と同じくらい打たれ弱くなっちゃうけど、まぁまずあり得ないわよ。それこそシルヴィちゃんがこの前やりかけた、神聖殺しの拘束とかが起きない限りね!」
さらっと初めて聞く単語も含め説明されましたが、とりあえずあの拘束は本当に神様であるフローリア様の力も封じてしまうもののようです。今後は拘束魔法の扱いには一層気を付けるようにしましょう……。
「今効き目が弱いのは、魔力を神力に変換した上で回復させてるからなのよ~。だからちょっと疲れちゃうかもしれないけど、頑張って♪」
「分かりました」
「はぁ~……ホントにいい気持ち。私もこれから毎日、シルヴィちゃんから健康のためにヒール貰っちゃおうかしら!」
『これ以上健康になってどうするつもりじゃたわけが。今日だけ大人しく受けておれ』
「や~ん、シリアのけちんぼ。あ、レナちゃん私も何か食べたぁい。食べさせて~。あ~ん」
「自分で食べなさいよ……。はい、あ~ん」
「あむっ。ん~~! なにこれ、味濃い! でも美味しいわ! もっと頂戴!」
「ったく、幼いエミリの方が自立してるわよフローリア。ほら、あ~ん」
「あ~ん。んふふっ、シルヴィちゃんのヒールで気持ち良くなりながらレナちゃんに食べさせてもらえるなら、シリアと本気で撃ち合うのも悪くないわね~♪」
『阿保抜かすでない。……じゃが妾も腹が減った、すまぬがエミリに頼めるか?』
エミリにシリア様にご飯を食べさせてあげて欲しいことを伝えると、エミリがこれ以上ないくらい顔を輝かせて、食べやすそうなポテトフライやウインナーを口に運んであげ始めました。
『むぐ……。む? なんじゃこれは。シルヴィのおった所で食べたウインナーにも負けずとも劣らず……なかなか美味いではないか』
「私もそれを思いました。店主さんは“羊の腸に詰めている”と仰っていましたよ」
『なるほどの。故に太く旨味のある味わいとなるのじゃな』
「お姉ちゃん、シリアちゃん喜んでる?」
「はい。大好きな味だそうですよ」
「わぁ! シリアちゃんもこのウインナー美味しいって思うんだ! わたしも大好きなの! えへへ~」
その後も治療が終わるまで、フローリア様とシリア様はそれぞれ口に食べ物を運んでもらい、そんな様子がおかしくて笑ったりとのんびりとしたお昼休憩が過ぎていきました。




