15話 天空の覇者は圧倒的
天空の覇者の名は、伊達じゃないッ!!
そんな圧倒的な実力差の前に、流石のシルヴィ達も呆然としてしまいます……。
開始と同時に、マイヤさんによる無詠唱魔法が飛び、その中をぽんちゃんが走りながらメイナードへと突撃していきます。しかしメイナードは微動だにせず、翼すら広げようとしません。まさか、正面からそのまま受けるつもりなのでしょうか?
私の予想は的中し、メイナードは二つの攻撃を真正面から受けました。ぽんちゃんの鋭い爪を織り交ぜた殴打で生じた衝撃波が後ろの私達にも伝わり、その上に魔法による爆風で体が飛びそうになります。
爆風が収まり、薄らと目を開くと――。
「う、嘘でしょ……? 今直撃した、よね……?」
困惑の声を上げるマイヤさんと同じ感情を私も抱きました。
真正面から受けたはずのメイナードは、その場から一歩も動かないどころか、ぽんちゃんに殴られている状態で静止しているではありませんか。
『……どうした。連携が得意なのだろう? まさか今ので品切れとは言わんだろうな?』
「っ!! まさか! そんなはずないでしょ!!」
マイヤさんが再び魔法による支援を行い、ぽんちゃんがそのまま何度も何度も殴打や爪で引き裂こうと技を繰り出しますが、やはりメイナードの体は微動だにしません。
猛攻を受け続けて数分。マイヤさんが肩で息をしながら、現状を受け入れたくないかのように顔を横に振り、震える声で呟きます。
「な、なんで……? 全部当たってるはずでしょ? ぽんちゃんの攻撃だって、全部受けてるはず……」
『……ふん、所詮はこの程度か。興醒めだ』
メイナードはやれやれと言わんばかりに口を開くと、未だ攻撃を続けているぽんちゃんを翼で軽く払いました。そう、私からは本当に軽くのように見えたのですが、それだけでぽんちゃんの体は宙を舞い、マイヤさんの後方へ投げ出されていました。
ぽんちゃんの墜落の衝撃を地面越しに感じていると、正面でメイナードが埃を払うかのように全身を震わせ、大きく翼を伸ばします。後ろから見ていても、本当に傷を負っているような部分が見当たりません。
それは敵対しているマイヤさんにもしっかりと伝わっていたようで、すっかり戦意を失ってしまった顔を浮かべながら座り込んでしまっています。
「そんな……。これが、伝説級だと言うの……? こんなの、勝てるわけがない……」
『伝説だか何だかは知らんが、これで分かっただろう。貴様は我に傷一つつけることすら叶わんとな』
「こ、こんな化物を従えるって、あなた何者なの……?」
完全に怯えた目でこちらを窺うマイヤさんに、かなり申し訳なく思ってしまいます。
ごめんなさい。私も未だに、何故契約してくれたか分からないんです……。
『それで? 主よ、戦意を奪えば勝ちでいいのか?』
「あ、えっと……。勝利条件は戦闘不能かエリア外へ出ることなのですが」
『そうか。ならこれでいいか』
メイナードはそう言うと、マイヤさん達に向けて翼をはためかせました。それは淡い夜闇の燐光を伴った突風となり、マイヤさんとぽんちゃんを軽々しく掬い上げます。
「わ、わわ、わあああああああ!! ……あいだっ!!」
そのまま風に乗ったマイヤさん達は、ぽんちゃんを下敷きにする形で場外へ呆気なく飛ばされてしまいました。使い魔を下にしてあげるという配慮をするあたり、メイナードの優しさが垣間見えます。
マイヤさん達が場外へ出たことにより、私達の勝利が確定し、帰還用の転移門が現れました。
これまでなら勝ったという実感が多少なりともあったのですが、今回はあまりにも圧倒的すぎて何とも言えない気持ちでいっぱいです。
どうやらレナさんも呆気に取られていたみたいで、ぽかんと口を開けたままメイナードを見上げています。
『どうした。だらしのない顔が数段増して締まっていないぞ小娘』
「うっさいわね。……あんたの強さを改めて痛感してたとこよ」
『だから常々言っているだろう。我は強くて貴様は弱いのだと』
「今回ばかりはちょっと認めざるを得ないわ……。とりあえず帰りましょ、シルヴィ」
「そ、そうですね。ご苦労様でしたメイナード、ありがとうございます」
『ふん。次はもう少し骨のある奴とやらせて欲しいものだ。この程度では運動にもならん』
相手に失礼ですよ、と肩乗りサイズになったメイナードを諫めつつ、マイヤさんの元へと向かいます。
ぽんちゃんは完全に失神してしまっているようですが、マイヤさんは無事なようです。
「大丈夫ですか、マイヤさん?」
「ひぁ!? あ、う、うん。だい、じょうぶ……」
「ごめんなさい。久しぶりの戦闘だってメイナードが張り切っちゃったみたいで……立てますか?」
マイヤさんの小さな手を取って立ち上がらせ、念のため治癒魔法を掛けて体の異常を無いことを確認します。
消え入りそうな声でお礼を述べられ、微笑み返してから先に転移門で帰ろうとしたところへ、マイヤさんに呼び止められました。
「あ、あの! 【森組】の二人!」
「はい?」
「その、負けた私が言うのもあれなんだけど……。良かったら、友達になってくれない、かな?」
突然の申し出にレナさんと顔を見合わせていると、マイヤさんがもじもじとしながら言葉を続けました。
「えっとね、その、私……使い魔以外に知り合いって言える人がいないの。それでその、【桜花の魔女】さんがぽんちゃんを可愛いって言ってくれてすっごい嬉しくて、強い使い魔を従えてる【慈愛の魔女】さんとももっとお話ししたくて……。ダメ、かな?」
彼女の申し出に、私達はどちらともなく笑い出しました。慌て始めるマイヤさんに微笑みかけ、改めて手を差し出します。
「私も使い魔を従えている方と知り合いになれたのは初めてなので、こちらこそお願いしたいです。お友達になりましょう、マイヤさん」
「あたしも歓迎よ! あ。あたしのことはレナって呼んで! シルヴィのことも魔女呼びじゃなくシルヴィって呼んでくれると、もっと友達らしいわ!」
「レナちゃん、シルヴィちゃん……! ありがとう、ありがとう!」
「あ、ねぇねぇ! トーナメント終わったらウィズナビのアドレス交換しましょ! あとぽんちゃん触らせて!」
「うん! 交換しよう! あ、でもぽんちゃん触るのは起きたらね!」
やったぁ! とはしゃぐレナさんと、とっても嬉しそうなマイヤさんを見てると、子どもがはしゃいでいるような感じがして、とてもほっこりとした気持ちになります。レナさんの前では決してそんなことは言えませんが。
「あ、ところでマイヤっていくつなの? やっぱり魔女だから何百歳になってたり?」
「そんなことないよ~。私は今年で二十二歳だよ」
「「えっ」」
「え?」
……魔女の外見は年齢とはほとんど比例しないものだと、よく覚えておくことにします。




