543話 魔女様達は到着する
列車に乗り込んでから約四時間ほどで、私達はシングレイ城下町に到着することができました。
「あら~! 今日はお祭りなのかしら!?」
フローリア様のその言葉に納得できてしまうほど、駅前は人が溢れています。
よく見ると、集まっている人達の手にはやや大きめのカバンやキャリーケースなどが携帯されていて、これからどこかへ出かけようとしている様子にも見受けられそうです。
「魔族の人達、これからお出かけなのかな?」
『いや、こ奴らは出かけるのではない。疎開が目的じゃ』
「そかい?」
「シリア様、そかいとは何ですか?」
首を傾げるエミリとティファニーに、シリア様は遠くにそびえ立っている魔王城を見つめながら答えます。
『疎開というのは、これから戦場となる街から人々を逃がすということじゃ。此度の妾達の侵攻を見据えて、城下町に住む魔族らを避難させておるのじゃろう』
シリア様の仰る通り、彼らの表情は芳しくはなく、不安の色を浮かべている方や、やや不機嫌そうに列車の到着を待っている方などがほとんどのように見えます。
魔女による魔王城への侵攻。それが意味するところは、少なくとも付近は火の海に包まれると思われてしまっているのでしょう。
「ええ意味で捉えようとするんやったら、今回の作戦で、この街に住んでる人には被害が出えへん。逆を言うたら、人は無事でも街はタダでは済まへんってとこやな。人がいーひん分、敵も暴れられるやろうし」
シューちゃんの補足説明を受け、エミリとティファニーは少し悲しそうな顔を私に向けてきました。
彼女達の懸念点は痛いほど分かります。きっと、街に被害を出さないで何とかする方法はないかと考えているのでしょう。
「大丈夫ですよ。そのためにも、エミリ達が暴れる場所を最小限に決めているのですから」
『うむ。街全部が破壊されるともなれば、如何に妾とフローリアの力を合わせたとしても難しいものがあるが、ある程度までなら復元することができる。故にエミリはできるかぎり、街ではなく自分に攻撃が向けられるよう動けばよい』
「せやで。うちもサポートするさかい、街のことは気にせんと暴れたってや!」
「……うん。わたし、頑張ってみる」
意気込むエミリの頭を軽く撫でてあげ、緊張をほぐしてあげます。
彼女の頭からふと視線を上げた先に見えた時計の針は、まもなく十一時を迎えようとしていました。
作戦開始の時間が近いですし、そろそろ準備をするべきなのかもしれません。
「ではシリア様。そろそろ準備の方に移った方がいいと思うのですが、どこか相応しそうな場所はありますでしょうか」
『そうじゃな……。ちと程よい裏路地でも見つけて、そこで整えるとするかの』
「ほんなら、うちええとこ知っとるで。案内したる」
私達はシューちゃんに続いて、すっかり人気も無くなっている細い路地に移動しました。
『ここなら見られることも無かろう。シルヴィ、亜空間収納を開くのじゃ』
シリア様の支持に従って入り口を開放すると、シリア様がその中へと消えていきます。
それから間もなくして、魔力錬成した私の体へと移り変わったシリア様が出てきました。
「ふむ。これなら今日一日戦い通したところで、魔力が切れることは無かろう。恩に着るぞシルヴィ」
「いえ、本当ならもう少し余裕を持たせたかったのですが、他にいろいろと準備をしていたせいで手が回りきらず……」
「これで足りぬと言う奴がどこにおるか。おおよそ、アラドヴァル一発分じゃ。陽動だけなら十分じゃろ。ほれ、お主らも着替えてくるが良いぞ」
私はティファニーを連れて中へ入り、シリア様に作っていただいていた変身用のチョーカーを首に着けました。それに合わせて、コルク栓が抜けるような音と共に煙が沸き上がり、それが晴れる頃には私の姿はすっかりサキュバス族の見た目になっていました。
魔族特有の角。ひょろりと伸びた、先端がハートになっている尻尾。目の色だけは変えることができていませんが、外見だけなら十分にサキュバス族そのものです。
「お母様、可愛らしいです!」
「ありがとうございますティファニー。さぁ、早く着替えてしまいましょう」
「はい!」
手早くミオさん達の給仕服を身に纏い、それをティファニーが魔法で模して、自分の服装に加えます。
二人で鏡の前で並び、どこから見ても魔王城に勤める給仕係であることを確認してから、私達は外へと出ました。
「お待たせしました」
「うむ。再三、改良を加えたそれじゃからな。お主の魔法の発動を妨げることは一切ないじゃろうよ」
「おほぉ~! ええなぁシルヴィちゃん! えらい似合おうてるやないの! ティファニーちゃんも可愛ええよぉ!」
「本当ですか!? ありがとうございます、シュー様!」
「そのシュー様言うんはどうにもならへんのな……」
ティファニーの中では、誰かに対して様付けをするのは決まりであるらしく、頑なにシューちゃんではなくシュー様と呼ばれ続けた本人は、何とも言えなさそうな顔を浮かべていました。
その様子を笑っていたシリア様に、街灯の上で外を見ていたメイナードが声を掛けます。
『シリア様。まもなく時間です』
「あい分かった。では、レナ達にも合図を出して行動を始めるぞ。皆、準備はよいな?」
「はい」
「うん……!」
「いつでも大丈夫です!」
「ほな、いっちょ派手に暴れたるで!」
「お姉さんも頑張るわよ~!」
全員が返事をしたのを見計らい、シリア様がウィズナビで手早くメッセージを送ります。
少しして、レナさんからも準備ができたとの連絡が帰って来たのを見たシリア様は、作戦開始を告げてウィズナビをしまいました。
「では、始めるとするかの。中は頼んだぞ、シルヴィ」
「分かっています。皆さんが合流できるまで、何としてでも耐えてみせます」
「うむ。……いざ、行動開始!」




