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540話 魔女様は見つめ直す・前編

 食後はお風呂を勧められたのですが、そこまで大きくはないから人数を分けて欲しいと言われたため、まずはセイジさんだけ行っていただくことにしました。

 その後はサーヤさん達に入っていただき、レナさんとフローリア様と一緒にミオさん達、そして最後に私とシリア様とエミリという流れになっていて、順番を待ちながら明日の最終確認を進めていると、あっという間に私達の番が回ってきました。


「お待たせシルヴィー」


「すっごくいいお風呂だったわよ~!」


「おかえりなさい、皆さん」


 お風呂上り特有の、上気した顔で笑顔を向けて来るレナさんは、貸し出し用に用意していただいた桜柄の袴を着用していました。髪を下ろしている彼女は毎日の生活でも見慣れていたつもりでしたが、袴とレナさんの親和性が非常に高く、元からこういう恰好をしていたのではないかと思わされてしまうほどです。

 隣でニコニコといつものように楽しそうな笑みを浮かべていらっしゃるフローリア様には、ヒヤシンス柄の着物と薄紫色の袴が用意されていたようで、こちらはこちらで非常に様になっています。


 サーヤさん達もそれぞれのイメージカラーに合わせた袴を貸していただいているようで、サーヤさんはパンジー、アンジュさんは黒薔薇、メノウさんは何故かタンポポの綿毛を模したものを着用しています。


「いやぁ、これはちょっと着慣れませんねぇ」


「ですが、通気性は良いかと」


 普段の給仕服では無くなっているミオさん達には、可愛らしいチューリップ柄のものが用意されていたようで、こういった可愛い系統の服は着慣れていなかったらしいお二人は、お風呂上りとは別の意味で少し頬を上気させていました。


「それでは、私達もいただいてしまいましょうか」


『うむ。明日の最終確認用にメモを取っておいた。各自で目を通しておくが良い』


「はーい」


「行きますよエミリ」


「うんー……」


 既に眠くなってきてしまっていたエミリを起こし、私達もお風呂へと向かいます。

 私達には、どのような柄の袴が用意されているのでしょうかと、ほんの少しだけ胸を高鳴らせながら――。





「……何となく、こうなるのではないかと予想はしていました」


「どないしたのシルヴィちゃん。えらい悲しそな顔してるけど」


「いえ、何でもありません」


 どうしてこう、魔族の方々は裸の付き合いを好むのでしょうか。と、気恥ずかしさから口元まで湯船に沈みつつ、例の如く浴場の引き戸をスパーン! と開け放って入って来たシューちゃんを横目で観察します。

 案の定、レオノーラと同様にタオルすら身に纏わない彼女の体は、どちらかと言うとエルフォニアさんのようなスラッとしたスタイルの良さを誇っています。

 てっきり、彼女の種族自体が褐色肌なのかと思っていましたが、ただ単に日焼けしているだけであるらしく、普段から露出はしていないらしい肌着の部分だけは真っ白な肌が顔を覗かせていました。


 真っ白と言えば、彼女が持つトカゲのような尻尾も印象的です。

 思えば、シューちゃんが何の種族なのかを聞いていなかったことに気が付きました。

 失礼でなければ、ちょっと聞いてみましょうか。


「あの、シューちゃんは魔族の中でも、どういった種族なのですか?」


「んー? あぁ、シルヴィちゃんはもしかして、うちのような種族を見たことあらへんのかいな?」


「はい。知り合った魔族の方々とは、かなり違うように見えまして」


「そかそか。うちはな、海王族(ロメール)っちゅう種族なんよ」


「海王族……?」


「そ。海王族っちゅうんはな、大昔は読んで字の如く、大海原の支配者やったんやで。せやから、うちら海王族が使うてるんは水属性の魔力やさかい。うちらに生えとるこの尻尾は、ひょろひょろっと長い海竜様の末裔やからっちゅう伝承があるんやで」


「海竜様というと、伝承に出てくるあのドラゴンのことでしょうか」


「おぉ、知っとるん? 人間にも知れ渡ってるんは、やっぱ嬉しなぁ。せや! シルヴィちゃん、良かったらうちの皮持ち帰らひん?」


「か、皮!?」


 突然飛び出した言葉に驚く私に、シューちゃんは得意げに尻尾を見せつけながら言います。


「うちら海王族は、年に数回脱皮するんよ~。もうそろそろ脱皮の時期やさかい、うちや思て持って帰ってもええで?」


 頭の中で、シューちゃんそっくりのペラペラな抜け皮を差し出される構図を描き、何とも言えない気持ちになってしまいました。


「それはちょっと遠慮したいかもしれません……」


「えぇ~? 魔力上昇に幸運招来、金運上昇と何でもござれのご利益満載の皮やで? 知らんけど!」


 ま、うちは魔法はかろうきしやけどなぁと付け足しながら笑うシューちゃん。

 かろうきし……もしかして、からっきしと言う事でしょうか。確かに、思い返せば彼女が魔法を使っている様子はありませんでしたし、レナさんからも魔法は使われなかったと聞いています。


「魔族でも、魔法が苦手な方もいらっしゃるのですね」


「せやで? 魔族やからて、みんながみんな魔法を使えるって訳でもあらへんで。うちみたいな腕っぷしだけの魔族もおるし、魔女になった方がええんとちがう? ってくらい魔法しか使わへん人もおるさかい」


 逆を返せば、シューちゃんはそんな実力者がひしめく中で、あの剣筋一本でここまで上り詰めたという事でしょう。それはそれで、血の滲むような努力が積み上げられてきているのだと思います。


「……シューちゃんは凄いですね」


「えぇ? そないな急に褒められたら照れてまうやん~。なんなん? うちの事好きになってもうた?」


「そういう訳ではありませんが、剣だけで魔法に勝つのは簡単ではないと思いまして」


「なんや、そないなこと? もぅ、思わせぶりな発言はやめてや。こないなこと言われたら、勘違いしてまうやんなぁエミリちゃん?」


「え!? そ、そうなのかな……? ちょっと分からない」


『くふふ! エミリには色恋はまだ早かろうよ』


「あはは! それもそやな、堪忍な」


 笑いながらエミリを撫でるシューちゃんを微笑ましく見ていると、「さっきのことやけど」とシューちゃんが私に言います。


「うちなんかよりも、あんたの方がずっと立派や思うで? 聞いた話やけど、その歳で魔女なんかやって、家事も料理も全部やってるんやろ? あんたの方が苦労しとるとちがう?」


「それは何と言いますか、成り行きと言いますか……」


「成り行きやろうとなんやろうと、それ苦じゃないって思えることって十分凄いことや思うで? なんで赤の他人に飯作らなあかんのやとか、ミオ達みたいにお賃金も出えへんのに、毎日毎日掃除したり洗濯したりせなあかんのやら思わへん?」

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