538話 異世界人は誤解される
やはり鉄道という交通手段は、移動という面において凄まじい効率の良さを発揮してくれました。
当初の予定では、今日でもう六ヶ所から八ヶ所ほど襲い、また明日で六ヶ所襲ってからシングレイ城下町へ突入するというプランでしたが、明日の分まで回りきることができてしまったため、一日分余裕ができてしまっています。
だからと言って遊んだりする余裕は無いのですが、せっかくだからとシュタールさん……改めシューちゃんがご自分のお屋敷に泊っていくようにと手配してくださり、私達は一晩お世話になることになっていました。
「ほな、ここがあんた達用の客室やさかい。好きに使うてええで」
「うっわぁ!? 和室だ!!」
その部屋は私が今まで見たことも聞いたことも無い、不思議な建築様式をしていました。
床はかなり変わったマットが敷かれているようで、一定の大きさのそれがいくつも並べられています。
手で触ってみると、どこか干し草のような感触がありました。ほんのりと香ってくる匂いもそれに近いことから、もしかしたら何かの植物で出来たマットなのかもしれません。
「凄い! あたし、こっちで和室を見ることは無いと思ってた! 見てよシルヴィ! ほら!!」
「え、えぇ……。かなり変わったお部屋ですね」
「そうじゃなくて! ……あ、ストップエミリ! 靴を脱いで!!」
「えっ!? なんで!?」
「畳は傷みやすいし汚れが落ちにくいから、靴で上がっちゃダメなの!」
それは、マットとして機能していないのではないでしょうか……?
困惑する私達が渋々靴を脱いでいるところへ、楽しそうに笑うシューちゃんの声が聞こえてきました。
「なんやなんや。うちからドッキリさせてまおう思うとったのに、レナちゃんはお作法を知っとったのか」
「あたしの地元でも、こういう部屋が主流だったのよ。もちろん、普通の床タイプの家もあったけど」
「ほほぉ~。うちの領地では、この内装を取り入れてるところはまだごく僅かなんやけど、レナちゃんの住んどったとこではとっくに主流やったんやね」
「まぁね~。っていうか、たぶん本場じゃないかしら」
「本場!?」
ぎょっとした声を上げたシューちゃんはレナさんに急接近し、彼女の小柄な方をがっしりと掴みながら興奮したように息巻きました。
「ほんなら、レナちゃんはカスミジマ出身の人なん!?」
「え?」
カスミジマ。聞いたことの無い地名です。
シリア様や他の皆さんに知っているかと目で尋ねてみるも、揃って知らないといった反応を示していました。
「え、えっと、あたしは……」
「なんや、そないな事やったら先に言うてや! カスミジマの人なら、そら本場間違いあらへんやろて! あ、もしかしてうちの剣見えとったのも、そないなこと? いやぁ~ずっこいわぁ、いけずやわぁ」
レナさんから助けてと表情で訴えられ続けていますが、状況がまるで分からない私は、彼女をどうすることもできません。
後半、シューちゃんが何を言っていたのかよく分かりませんでしたが、何となく分かった情報だけで整理してみることにしましょうか。
まずは、きっかけとなったこの“タタミ”と呼ばれるマットのことから始めましょう。
レナさんが知っていたことから、恐らくは異世界のものだと察することができます。ですが、シューちゃんはこのマットの本場は“カスミジマ”と呼んでいたことから、この世界でも同じようなマットを作っている地域があるのだと思います。
そして、シューちゃんが言っていた“うちの剣見えとった”という部分は、もしかしたらその場所で教わった剣術だったのかもしれません。だからこそ、その地域出身であるレナさんが相手だったから、剣筋を読まれるのも当然だと思っているのではないでしょうか。
……不思議なことに、絶妙に認識が間違っているのに噛み合ってしまっているようです。
「うちな? カスミジマの文化が大好きやねん! 何て言うとったっけなぁ。あ、そうそう。ワビサビ? そないな感じ! そやさかい、向こうさんを真似てうちでもやってみとるんよ~!」
「そ、そう……。上手く再現できてると思うわ」
「せやろ!? うっはぁ~! 現地の人に褒めてもらえるんは嬉しいなぁ! ほな、もっと頑張ってるとこを褒めてもらえるよう、まずは夕食の準備からしてくんで! 待っとってや!」
シューちゃんは一方的に言い残すと、手をぶんぶんと振りながら駆けていってしまいました。
取り残された私達は呆然としてしまいましたが、やがてゆっくりとレナさんへと視線が集中します。
「えっ!? なにこれ、あたしが説明する流れ!?」
『お主以外、この状況を説明できんじゃろう』
「いやいやいや! だって、あたしだってこんなことになるって思ってなかったわよ! 説明しろって言われても、どうやって――」
「そちらは、我々からも説明を補足させていただきましょう」
いつの間にかお屋敷のお仕事を手伝っていたミオさん達が戻ってきて、慌てふためくレナさんに助け舟を出しました。
フローリア様からの「働き者ね~感心感心♪」という言葉に対し、ミナさんが「外勤は高く請求できますので!」と言っていたのは聞かなかったことにします。
「とは言え、立ち話では皆様に失礼ですので、中へお入りください。靴は、そちらの靴棚へ収納が可能です」
「ではでは、ミナはお座布団をご用意しますね~」
一足先に室内へ上がったミナさんが、迷う素振りも無く引き戸を開き、中から紺色の薄いクッションを取り出して並べていきます。
……よく分かりませんが、ミオさん達は何かを知っていらっしゃるようですし、教えていただくことにしましょう。




