14話 天空の覇者は挑発が好き
順調に勝ち上がる【森組】ことシルヴィチーム。
そんな彼女達の今度の対戦者は、シルヴィ同様に魔獣を従えている魔女のようです。
トイレに逃げ込んでいたレナさんを落ち着かせて二人で戻り、いつの間にか終わってしまっていた他の試合の結果が表示され、あっという間に次の試合です。
次の試合の相手は魔女のようで、記憶が正しければ使い魔とペアで戦っていた、橙色のショートヘアが特徴的な少女だったと思います。
転移した先では今回も相手の方の方が先だったようで、既に使い魔を召喚して準備を整えているようでした。ですが、あの使い魔は最初に見た姿とはまた違うように思えます。複数体と契約しているのでしょうか?
「し、シルヴィ見てあれ!! もっふもふよ! もっふもふ!!」
「え、えぇ。もふもふしてそうな愛らしい見た目ですね」
「あれ何なの!? パンダっぽいけど全身薄紫だし、悪魔ちっくな羽生えてるのに顔がデフォルメとかやばすぎない!? あーもふりたい! 終わったら聞いてみようかしら!?」
どうしましょう。レナさんの言葉の半分が分かりませんでした。テンションが上がると異世界の言葉がそのまま出てきてしまうらしく、たまに理解が追い付かないことがあるのですが、今日はまた一段と理解が難しいです……。
「あ、分かる!? ぽんちゃんの可愛らしさ分かっちゃう!?」
レナさんの身悶えに気が付いたらしい魔女さんが、明るい声色で反応しました。
「いいでしょ~、このぽちゃっとしたフォルム! つぶらな瞳! もふもふの毛並み! 柔らかい肉球! 魔族っぽさを感じさせる羽!」
「わっかるぅ~! いいないいな! ねね、終わったらちょっとだけ触らせてくれない!? ちょっとだけでいいから! ね!?」
「え~、どうしよっかなぁ~?」
「お願い~! ちょっとだけでいいからぁ!」
「んふふ~、だってさぽんちゃん。モテモテだねぇ!」
魔女さんに頬擦りされながら「ぽんちゃん」と呼ばれた使い魔は、鼻息を鳴らすだけで特に興味を示すような素振りはありませんでした。
ですが、他の魔女の使い魔と言うのは初めて見たので、私も少しばかり胸が高鳴っているのは否めません。どうせならメイナードも一緒に来てもらって、魔女同士でお話とかもしてみたいです……。
「あれ、そっちの……えーっと誰だっけ。そうだ、【慈愛の魔女】さん! あなたも何か使い魔と契約してるんだ!?」
「えっ? はい。一応……」
メイナードを想いながら指輪を見ていたところを、目ざとく見つけた魔女さんに声を掛けられました。
「見せて見せて! 私、他の魔女が従えてる使い魔にすっごい興味があるんだ~!」
「で、ですが、私の使い魔はちょっと人とは違うと言いますか、何と言いますか」
「いいっていいって! 誰がどんな使い魔を従えてようと、その人の自由だもん! どんな使い魔だったとしても、この【共闘の魔女】マイヤちゃんは引いたりしないから!」
あ、マイヤさんと言うのですね。覚えておきましょう。
しかし、メイナードを呼び出すことで「【慈愛の魔女】はとんでもない使い魔を従えている」と思われたくはないですし、畏怖の対象とされたくはないという気持ちがあるので何とも言い難いです。
ちらりとレナさんに助けを請うような視線を送ってみると、「いいんじゃない?」とさらりと返されました。他人事ですもんね……。
「分かりました。ですが、どうか引かないで頂けると嬉しいです」
「大丈夫大丈夫! さ、見せて見せて!」
若干の不安もありますが、とりあえずメイナードに聞いてみることにします。
「メイナード、聞こえていますか?」
『どうした主』
指輪を通してメイナードに声を掛けると、すぐに返事がありました。
「今回の試合、もしかしたらあなたの力が必要になりそうです。私と戦ってくれませんか?」
『断る、と言っても聞かないのだろう? ……召喚陣を引け、今から向かう』
「ありがとうございます、優しいですねメイナードは」
『ふん……』
メイナードに許可を貰えたので、早速召喚陣を展開することにします。
彼の魔力の流れと私の魔力を同調させ、陣を通して道を作り出し、門を開くための言葉を紡ぎます――。
「出でよ、我が障害を振り払う大いなる翼……メイナード!」
召喚陣が一際大きく輝き、メイナードの象徴でもある夜闇のような煌めきが陣から昇ったかと思うと、続いてメイナードが勢いよく飛び出てきました。彼はそのまま空で宙返り、大きな翼をはためかせながら私の側へと降り立ちます。
『我の力が必要と聞いていたが……。なんだあれは』
「えっと、今回の模擬戦の対戦者である【共闘の魔女】マイヤさんと、その使い魔です」
『我が聞きたいのはそれではない。……なぜ好奇の視線を向けられているのだ』
やや不快そうなメイナードの言う通り、マイヤさんからはキラキラと輝かせた視線が送られていました。
「わぁ~……! こ、これってもしかしたらもしかするけど、あの凶兆の大鷹!?」
「はい。彼が私と契約を結んでくださったメイナードです」
私が紹介を終えると、マイヤさんはその場で嬉しさを表現するかのようにぴょんぴょんと飛び跳ねました。
「すごい、すごいよ! 伝承では聞いていたけど実在したんだ!? うわぁ~、カッコイイ! 見て見てぽんちゃん、あの嘴! あんなので貫かれたらひとたまりも無さそう! それにあのかぎ爪! あの爪で何頭もの獣を屠ってきたんだろう!? そしてあの翼! あの両翼で滅ぼされた国も数知れずって噂の翼だよ!! あぁ~、こんな伝説の魔獣をお目にかかれるなんて、生きててよかったぁ!!」
「……メイナード。あなた、一体何をしてきたのですか?」
『知らん。人間共が勝手に脚色したのだろう』
事の真偽は追々詳しく聞くとして、とりあえずマイヤさんのテンションを何とか落ち着かせなくてはいけません。
「あ、あの、マイヤさん。一旦落ち着いてください。お話はトーナメントが終わったらゆっくりお聞きしたいので、また後程……」
「はっ! いやぁごめんね! こんなテンションが上がったのは久しぶりでついつい……。さぁ、それじゃあぽんちゃん、私達のコンビネーションを生きる伝説に見てもらおう!」
マイヤさんが杖を取り出して戦闘態勢に入ると、ぽんちゃんも立ち上がり、前足から鋭い爪を覗かせました。あの爪も相当鋭利そうですし、当たったら怪我では済まないかもしれません。
果たしてメイナードと息を合わせられるでしょうかと考えていると、私の視界が彼の大きな翼で塞がれました。
「メイナード?」
『我だけでいい。主とレナは下がって見ていろ』
「ですが、向こうは一人と一匹で……」
『そんなものハンデにすらならん。それに、奇妙な使い魔と共に戦う魔女、という物に興味が湧いた』
「あんた、そこまで格好つけておいて負けたら最高にダサいわよ?」
『ふん。くだらん挑発に乗るような小娘よりはマシだとは思うが』
「あ、あんたねぇ!!」
普段のようなやり取りを始めそうな二人(一人と一匹?)を諌め、レナさんと数歩後ろへ下がります。それを見たマイヤさんが不思議そうな声を上げました。
「あれ、【慈愛の魔女】さんは一緒には戦わないの~?」
『貴様ら程度、我に傷一つも付けられないということだ。使い魔たる我すら超えられぬ雑魚に、主が出る幕は無い』
「へぇ~。言ってくれるじゃん……! 流石は伝説の魔獣様ってとこだね」
メイナードのいつもの煽り文句を真っ向から受けてしまったマイヤさんから、目に見えそうなほど敵意が剥き出しになっています。流石に身内でもない人に対して、その言い方はどうなのでしょうか……。
殺伐としてきた空間に、アーデルハイトさんによる開始宣言が響き渡ります。
「では各ブロック……戦闘開始!!」




