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533話 魔女様達は警戒する

 朝食が出来上がった頃に、シリア様がメノウさんを連れて帰って来たのを見計らい、お手製の栄養ドリンクを渡そうと試みたのですが、案の定と言いますか何と言いますか。


「お前からの施しなんて必要ない」


 取り付く島もない、突き放すような言葉を向けられてしまいました。

 ですが、そこはシリア様としても見過ごせなかったようで、『魔力も無い貴様に何ができる。小童のような意地を張らずにさっさと飲んで回復しろ』と厳しくお叱りになった末に、ようやく飲んでいただけました。

 ……りんご酢をベースに、ハチミツと生姜、あとは回復促進で私の神力を溶かしたものだったので、酸っぱさに驚いて凄まじい形相で睨まれてしまいましたが、そこは甘んじて受け止めることにします。


 ともあれ、彼女の鍛練方法にはまだまだ荒い部分が多かったようで、明日の早朝もシリア様が見てくださることになっていたようです。

 ミオさん達が作ってくださった朝食を手に、そのことをセイジさん達へ伝えたところ、それはもう自分のことのように喜んでいらっしゃいました。


 やはり彼らは、長いこと寝食を共にしていることから、私とレナさんのような関係よりも深く繋がっているのでしょう。そう考えると、彼らの関係性が少し羨ましくなります。


『何じゃシルヴィ、珍しく変な顔をしておるな』


 そんなことを考えながら、馬車の窓から見える景色をぼんやりと眺めていた私へ、シリア様が突然声を掛けてきました。


「また顔に出てしまっていましたか? すみません……」


『よいよい、いつものことじゃ。して、何を考えておった? 悪いことでは無さそうじゃが』


 シリア様に考えていた内容をかいつまんで説明すると、くふふと笑われてしまいました。


『奴らとお主とでは、共に過ごしていた時間の重みが違うからの。つい最近自由になったばかりのお主から見て、羨ましくなるのも無理は無いか』


「私もいつか彼らのように、他人の出来事を自分のことのように喜べる日が来るのでしょうか」


『当然じゃ。お主もいずれ、分かる日が来る。そう焦らんでもよい』


「なになに? な~んの話してるの二人共っ!」


「わっ!?」


 柔らかく微笑むシリア様に微笑み返していたところへ、御者台でレナさんと遊んでいたはずのフローリア様が、横から抱き着いて来ました。


「わっ、ちょっとフローリア!? いきなりいなくなるんじゃないわよ!!」


「だ~いじょうぶ、大丈夫♪ それよりも、何の話してたのかしら~?」


 私の肩に顎を乗せて、今日も楽しそうに笑みを向ける彼女へ説明しようとしましたが、上空を飛びながら警戒してくれていたメイナードからの連絡が指輪越しに入ります。


『気を付けろ主。早速、領主とやらのお出ましのようだぞ』


「領主さんが見えているのですか?」


『あぁ。ここからそう離れていないところに、一人だけで待ち構えている。まるで、主がここを通ることを読んでいたようだな』


 メイナードの言葉に、私とシリア様の表情が強張ります。

 私達が今進んでいるルートは、なるべく最短距離の陸路かつ、魔族領の主要都市を避けた物になっています。そのため、各領地内で管理者である領主との交戦をできるだけ避けられるようにしていたはずでした。


『となると、やはり戦闘狂の名は伊達では無いようじゃの』


「どうするのシリア?」


『どうもこうもない。話が通じぬなら、押し通るまでよ』


 シリア様はひょいと腰掛けから降りると、半実体へと姿を変え、ふわりと飛んで後方を走るセイジさん達の下へと向かっていきました。


「でもさ、戦うってなったらどうするの? 如何に領主の人が強いって言っても、この人数全員で挑んだら勝負にならないんじゃない?」


「そうでしょうか……。話では、レオノーラと渡り合える人物と伺っていますし、私達全員でレオノーラを倒せと言われるのと同義なような気もします」


「お姉ちゃん……。わたし、魔王様に勝てないと思う」


「ティファニーもです」


 不安げに言う二人を安心させようと手を伸ばしましたが、私よりも先に、フローリア様が二人を優しく抱きしめていました。


「大丈夫よ~。エミリちゃんとティファニーちゃんには、危ないことはさせないから」


「そうですよエミリ、ティファニー。戦うのは、私やレナさん達に任せてください」


「でも」「ですが」


 声を揃えてしまう可愛らしい二人に、御者台のレナさんからも優しい声が掛けられます。


「安心しなさいって。あたし達、よっぽどのことが無い限り負けないから!」


「そうよ~? それに、大好きなお姉ちゃん達に何かあった時のために、すぐに逃げるための道を作っておくっていうのも大切なお仕事なの! だから、二人にはそれをお願いしたいな~って思うんだけど……出来るかしら?」


 まるで、本当の母親の様に優しくあやすフローリア様に、エミリ達は少しだけ顔を見合わせましたが、やがて同時に首を縦に振りながら答えました。


「うん! お姉ちゃんがすぐに逃げれるように、いつでも狼になれる準備しておくね!」


「お母様や皆様が傷ついてしまった時は、ティファニーが回復して差し上げます!」


「うんうん! 二人共頼もしいわ~!」


 嬉しそうなフローリア様がぎゅっと二人を抱きしめ、やや苦しそうにしながらも楽しそうな二人を見ながら、私は微笑ましい気持ちになっていました。

 そこへ、後方の馬車から戻って来たシリア様が、再び猫の姿になって私達へ告げます。


『まずは腕試しとして、セイジ達を戦わせることにした。奴らも己の実力を知る、いい機会になるじゃろ』


「じゃあ、勝てなかったらあたし達の番って訳ね」


『うむ。敗れた際にはレナとシルヴィに任せることになるが故に、お主らも十分に準備を整えておけ』


「あら? 私とシリアはどうするの? メイナードくんは?」


 フローリア様の問いかけに、シリア様は呆れた表情を向けます。


『メイナードを出そうものなら、ハナから勝負にもならんじゃろうて。妾達が出るのは、ほんにどうしようもなくなった時じゃ。そうポンポンと神が出張っていい訳がなかろうに』


「あぁ~! それもそうね! ということで、頑張ってね二人共! お姉さん、応援してるからね♪」


「はーいはい、お手を煩わせないようにしますよーっと」


 めんどくさそうに答えるレナさんに苦笑していると、ここからまだ遠くはありますが、前方に強い魔力反応を感じ取りました。

 その魔力は凪いだ水面のように静かですが、それでいて燃え盛るような熱さを持つ不思議な感じです。


「非常に落ち着いていらっしゃいますね。その上で、戦うことを心待ちにしていらっしゃるようです」


『うむ。気を抜くでないぞ』


 シリア様の言葉に頷き返し、馬車が止まったのを確認してから地面へと降ります。

 街への入り口となる市壁の前で、立ち塞がるように仁王立ちしていらっしゃったその女性は、私達を見つけるや否や、歓喜の声を上げました。


「やっと来よったか! 待ってたよ!」

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