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526話 魔女様は説得する

「何で!?」


「レナさん、声が大きいです!」


「あ、ごめん……」


 申し訳なさそうに小さくなるレナさんの代わりに、私が尋ねます。


「今回の一件が、私情であることは承知の上です。ですが、魔王の協力無くしては私やシリア様は魔力の核を保つことができませんでした。私はともかく、シリア様を失うということは魔女全体にとっても途轍もない損失だったと思います」


「あぁ。【始原の魔女】であり、魔導連合を設立した神祖であるシリア先生を失うことは、我々魔導連合にとってあってはならない損失だ」


「なら」


「だがな、【慈愛の魔女】。お前が思っているほど、今の時代では魔女は自由では無いんだ」


 自身の感情を押し殺すように、アーデルハイトさんは私へ語り掛けてきます。


「かつてシリア様が存命だった頃は、魔女という存在はあまりにも強大だった。王妃が魔女と言うことも相まって、魔女が絶大な信頼と立場を獲得していたのは知っているな?」


「はい。この目で見てきました」


 彼は小さく頷くと、しばらく聞いてくれと前置きしてから続けました。


「だが、その大きすぎる信頼は、当時の世界に対して尋常ではない影響力をもたらしてしまっていた。魔女同士で格付けが行われ、頂点に近い魔女であればあるほど、政治や自治にも発言力が強まっていてな。我々が望む望まないに関わらず、世間から助言を求められては、それを疑わずに政治に取り込むようになってしまっていたんだ」


「それはやがて、魔女ありきの政治となり、世界は魔女を中心に回るようになってしまっていた。シリア先生も、魔法で世界を導きたいとは目指していたが、こうなることは望んでいなかったはずだった。先生が目指していたのは、あくまでも困難を切り開くための道具として、魔法という希望を授けたかったんだと私は今でも考えている」


「そうした魔女の時代がしばらく続けば、それを良く思わない者も当然出てくる。それがシリア先生が新グランディア政権として台頭する前に甘い蜜を啜っていた、腐敗した貴族連中だった。奴らは魔女ありきの政治は歪んでいると声を上げ、各地で魔女狩りを始めた。それが魔女と人間の決別のきっかけだ」


「以降はお前達も知っている通り、魔女は表舞台に姿を見せないことにしたという訳だ。だが、ここに来てお前が世界に影響を及ぼし始めていることや、シリア先生が再び現世に降り立っておられることが、この先どういう未来に繋がっていくのかは想像もできない。だからこそ、可能な限り世界の状態を維持できるように、魔導連合としては協力したくないのが総長である私の考えだ。分かってくれるな?」


 アーデルハイトさんの言うことは、私が見て来た後の歴史の重みもありました。

 シリア様の遺志を継ぎ、魔法によって世界をより良い未来へ導こうと試行錯誤した結果、その力を頼られて政治に加担させられてしまった事。それ故に、導くべき存在であった人間から敵視され、同胞である魔女を失ってしまい、決別せざるを得なくなってしまった事。

 今を生きている私達にとっては、魔女は人間にも魔族にも干渉しないことが当たり前となっていますが、当時から生きていたアーデルハイトさんを始めとした方々にとっては、なんと心を痛める出来事であったか、想像に難くありませんでした。


 シリア様からの依頼であったため、何とか協力をお願いしたいと考えてはいましたが、とても無理強いをできる内容では無いと諦めかけていた時でした。


「でも総長、それは総長としての意見なんでしょ?」


「……ローザさん?」


 パーティションからひょっこりと顔を覗かせたローザさんが、アーデルハイトさんに向けてそんなことを口にしたのです。


「盗み聞きとは行儀が悪いな、【森組】」


「今日は一人だけだから【赤薔薇の魔女】って呼んで欲しいなー。って、そんなことは置いといて」


 ローザさんは手で何かを持ち上げて移動させるようなしぐさをして、言葉を続けました。


「確かに、魔導連合としては昔のようなことを繰り返さないためにも、過干渉をしないことを鉄則とはしてる。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 その言葉に、私は思い当たる節がありました。

 先ほどアーデルハイトさんは、“魔導連合としては協力したくないのが総長である私の考え”と言っていました。それはもしかすると、“アーデルハイトという一人の魔女”の言葉では無かったのかもしれません。


 僅かに見えた希望を確かめるべく、彼へと視線を移すと、アーデルハイトさんは疲れたように溜息を吐きだしながら、頭を掻いていました。


「……魔導連合として責任は取らない、と言う事だがな」


「そういうことだよシルヴィちゃん! あとは何を言うべきか、分かるかな?」


 突然そんな問いかけを投げられ、一瞬思考が止まってしまいそうになりました。

 ですが、私の中では既にある程度答えが出ていたため、少し間をおいてから口に出すことができました。


「アーデルハイトさん。魔導連合の総長であるあなたではなく、同じ師を持つあなたにお願いします。どうか、シリア様と私達に協力してはいただけませんか?」


 私の言葉を受けたアーデルハイトさんは、飲みかけのフローズンコーヒーを一口啜り、コトリとそれを置くと。


「……協力してやりたいのは山々だが、生憎と私は多忙なものでな。私自身は協力することはできないが、知り合いに話を持っていくことはできる。それでいいか?」


 やられた、と言わんばかりの疲れた笑みを向けながら、そう言ってくださるのでした。

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