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13話 異世界人は気が短い

転移前から体(特に胸)が小さいことを気にしていたレナ。

そんな彼女の逆鱗に触れまくる相手が出てきてしまい、遂には暴れ始めてしまいます……!

 転移を終えた私達を迎えたのは、観客席からの大歓声でした。


「おかえりー! 【森組】ー!!」


「最高に笑えたぞー!」


「一回戦突破おめでとー!!」


 てっきり「勝ち方が卑怯だ!」とか「やり方が汚い!」というようなブーイングを受けるかと予想していたので、どう返したらいいか戸惑っていると、レナさんが一歩前に出て声を上げました。


「ありがとー! これからどんどん勝ち上がっていくから、【森組】をよろしくねー!!」


 レナさんの呼びかけに野太い歓声が上がり、満面の笑顔で両手を振る姿につられて私も控えめに手を振って見せると、歓声の中に黄色い声も交じってさらに大きくなりました。

 やや気恥ずかしくはありますが、悪い気はしないどころか、どこか心地よささえ感じてしまいます。


 一通り観客席へ手を振り返し終わると、選手待機スペースで佇んでいるエルフォニアさんと目が合いました。何か声を掛けるべきでしょうかと考えていると、エルフォニアさんは少しだけ目を細め、微笑むかのような表情を見せてどこかへ行ってしまいました。


「シルヴィ? どうしたの?」


「あ、いえ。今少しだけでしたが、エルフォニアさんと目があったような気がしまして」


「ふーん? ま、あたし達を魔女って認めたとこが大物だし、どんなものか気にはなっていたんじゃない? 言い方変えれば超大型新人な訳だし」


 なるほど……。言われてみれば確かに、魔女になる経歴は伏せられていたものの、私達を認めたのはシリア様ということになっていますし、警戒されることは十分考えられそうなものです。


「なんでもいいけど、他の人の試合も見ておかないといけないんじゃなかったの? 相手はエルフォニアだけじゃないんだから注意はしておくんでしょ?」


「そうですね。他の出場者の方の試合の様子を見て、可能な限り対策は考えておきましょう」


「あたしはそう言う難しいことは苦手だから、作戦はシルヴィにお任せするわ。とりあえずいつまでもここにいるのは邪魔でしょうし、待機スペースに戻りましょ」


 私には先ほどのような狡猾な手段は思いつかないのですが……と内心思いつつ、レナさんに続いて所定の位置へと戻ることにしました。





 それから間もなくして他の試合も終了し、残り二組の試合も順調に消化され、第二回戦の組み合わせが表示されます。どうやら次に私達と戦うことになるのは、初戦で不思議な戦い方をしていた近接型の魔導士の方のようです。


 転移を促された私達が門を通して移動すると、転移先では既に彼が準備運動を行っていました。

 無駄のない引き締まった体に、高すぎず低すぎない程良い身長。

 そこまでならば一般的な男性でしたが、ところどころツンとした金髪と橙色のツリ目も相まって、少し近寄りがたい印象を受ける男性です。


 私はエルフォニアさんの試合の傍らで映し出されていた彼の戦闘スタイルを思い出します。

 彼は終始至近距離で剣を振るっていたので、恐らくは詠唱するタイプの魔女は苦戦を強いられることになりそうですが、幸い私は詠唱を必要とはしないので接近されても対応はできるでしょう。

 レナさんも彼のような近接戦闘型ですが、武器を使わないこともあってやや不利な試合になりそうな気がします。どうにかして武器の差を私が補えればいいのですが……。


 対策を考えている私の耳に、準備運動を終えたらしい彼の声が聞こえてきました。


「あ? お前らが【森組】か?」


「そうよ」


「ほーん……。へっ、大物ペアっつー話だから期待してたんだが、蓋を開けりゃあただのちんちくりんのチビと、気弱そうなねーちゃんじゃねぇか」


 い、いきなり喧嘩腰の発言が飛び出ました!

 確かに私は強そうには見えないので何も言えませんが、レナさんにそれを言ってしまうのは……!


「だ、誰がちんちくりんですって……?」


「あん? おめー以外にいねーだろ。ごっこ遊びで務まるほど魔女っつーのは甘かねぇぞチビ」


 怒りで震えていたレナさんから、何かの線が切れたような音が聞こえた気がしました。


「あっっっっっったま来た!! シルヴィ、今回一切手出ししないで良いわ! あいつはあたしが潰す!! 二度とそんな口利けないくらいボッコボコにしてやる!!」


「ちょ、ちょっとレナさん! 挑発に乗ってはダメですって……」


「おーおー、怖い怖ぁい。お兄ちゃんビビっちゃいそう~」


「だぁ~~~~っ!! 上等よ! あたしにビビって二度と外を歩けないくらい、完膚なきまで殴ってやるわ!!」


 も、もうダメです。レナさんの怒りが収まる気がしません……。

 この様子だと私が何か補助でもしようものなら、後で私にまで飛び火しそうな予感がしますし、今回はレナさんにお任せするしか選択肢が無さそうです。


「わ、分かりました。ですが冷静に戦ってくださいね……?」


「そうだぞチビ。こんな挑発に乗るほどオツムよえーなら引っ込んでな」


「あんたがケンカ売ってきたくせに何を他人事のように言ってんのよ!! ますますムカつくわ!!」


「お? んだよ、オレはそのままの事しか言ってねぇだろ? チビにチビっつって何が悪い」


「好きで小さいんじゃないのよーーー!!!」


 今にも殴りかかりそうなレナさんを必死に抑えつつ、戦闘開始の宣言が早く出ないかと心から待ちわびます。そんな私達を心底楽しんでいる彼のことが、私もちょっと恨めしく感じてきました。


 猛獣となりかけているレナさんを抑えるのが限界に達しそうになった時、ようやくアーデルハイトさんによる開始の宣言が行われました。


「それでは……開始!!」


 合図と共に私の手を振り払ったレナさんは、一瞬で姿を消して彼の元へと飛び掛かっていきました。

 最早風すら置き去りにするような勢いで繰り出された拳は、剣を抜いたばかりで反応が遅れた彼の右頬を的確に捉え、地面の上を数回バウンドさせます。


 ですが、流石は近接戦闘に長けた魔導士といったところで、空中で体勢を整えると反撃のために魔力を剣に流し込み、剣に淡い赤色の光が灯りました。


「っでぇ~! ハナから容赦ねぇな!」


「二度と立ち上がれないようにするつもりだもの、当然ッ!!」


 今までに見たことのないくらい恐ろしい速度で繰り出されるレナさんの連撃を、苦しそうな顔はしていますが何とか剣身で受け止め、反撃の機会を狙う男性。

 ですが、私はその機会は来なさそうだと察してしまいました。


「何だ? くそっ、花びらが邪魔で見辛ぇ!」


 既に暴れ回るレナさんの周囲には無数の桜の花弁が舞っています。

 あれは鍛錬の最中に教えてもらったり、直接撃ち合いをして体感していた物ですが、レナさんのあの花びらが舞えば舞うほど敵の視界を奪う他、レナさんの攻撃速度が徐々に上がっていくのです。


 それは、あるタイミングを超えると周囲に暴風が巻き上がり、桜の花弁と共にレナさんの姿が掻き消えて――。


「っぷは! ど、どこへ行きやがった!?」


「上よ!!」


 高高度に跳んだレナさんが、桜の花弁を体の周囲を円錐状に囲ませ、鋭角な飛び蹴りの姿勢を取っています。あれは初めて出会った時に受けて以来ですが、私の多重結界ですら貫きそうになった威力を誇る物。

 【制約】の力を持ったとしても勢いを殺しきれなかったそれを、何の準備もない彼が受け止められるはずもなく。


降り注げ桜吹雪(ブロッサム・レイン)!!」


「ぐっ、うおおおおおおおおお!?」


 咄嗟に剣身で受け止めたものの、あっさりと折れてしまいました。


 慌てて結界を展開しようとしたらしい彼でしたが、それすらも間に合わずレナさんを取り巻く桜吹雪を一身に浴びてしまいました。ローブが吹き飛び、纏っていた上半身の装備も散り散りとなって桜と共に舞い上がっていきます。

 その直後に本体であるレナさんによる蹴りが彼のお腹に炸裂し、激しい勢いを伴って場外へと吹き飛ばされていきました。


「ごはっ!!」


 場外の見えない壁に騒々しい音と共に打ち付けられ、肺の中の空気と共に苦悶の声をあげた彼は、そのままうつ伏せに倒れ込んでしまいました。

 あまりの威力に死んでしまっていないかと不安になり駆け寄ると、ピクピクと痙攣を起こして白目を剥いてしまってはいるものの、命に別状は無さそうに見えます。


 勝者が決定したことを示す転移門の出現を確認したレナさんは、ずんずんと彼の元へと歩み寄り、微動だにしない彼の頭をガシガシと踏みつけながら声を荒げました。


「二度とあたしに対してチビなんて言うんじゃないわよ! 次言おうものならもっと激しいのをくれてやるわ!!」


「れ、レナさん。もう意識もないでしょうし、そこまでにしておいてあげましょう……」


 未だ怒りが収まらない様子のレナさんを宥めると、ふんっとそっぽを向いてそのまま転移門へと向かって行ってしまいました。どうやら、今回はよっぽど怒っていたようです。


 レナさんに続いて転移門に入り、元の場所へと帰ってきた私達を迎えたのは、先ほど以上の大歓声でした。


「最高だったぞレナー!!」


「猛獣のような君も好きだぁー!!」


「「レーナ! レーナ! レーナ! レーナ!」」


 会場が一丸となって沸き上がるレナさんコールは、最早怒号のような勢いです。さすがのレナさんもこれは気恥ずかしく感じたのか、近くにいたスタッフの魔女さんに駆け寄り拡声器を借りると。


「あたしをちびっ子扱いしたら、あんた達も蹴り飛ばすからね!!」


 と言い放ち、私に拡声器を押し付けてどこかへ走り去っていってしまいました。

 笑いや口笛に変わったそれを聞きながら、私はとりあえずスタッフの魔女さんに謝っておくことにしました。

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