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520話 魔女様は不安を埋めたい

 家に帰ってもミオさん達は目を覚ましておらず、レナさん達も帰ってきていませんでした。

 流石にそろそろ夕飯の時間ですし、遅くなるにしても連絡くらい送ってくださってもいいのではないでしょうか。それとも、本当に連絡も取れない状況に陥ってしまっているのでしょうか。

 万が一の可能性が頭をよぎってしまい、最悪の想像に発展しそうなところで何とか思考を追い出そうと顔を左右に振ります。

 きっとレナさん達なら大丈夫です。迎撃のついでに何かをしているせいで遅くなっているのでしょう。

 そう思って取り出しかけたウィズナビをしまおうとしましたが、やはり不安を拭うことができず、もう一度取り出してレナさんに連絡してみようと立ち上げると同時に、玄関の扉が開かれた音が聞こえてきました。


「ただいまー」


「あ、レナちゃん帰って来た!」


 その声に私は診療室を飛び出し、やや疲れた顔色を浮かべているにも関わらず、レナさんに強く抱き着いてしまいます。


「うわぁ!? な、何!? どうしたのシルヴィ!?」


「レナさん……! レナさん、レナさん!」


「え、何、えっ? 何で泣きそうなの?」


 困惑するレナさんを無視して、何も言わずにギュッと抱きしめます。

 レナさんには申し訳ないとは思いますが、これは連絡をくれなかったレナさんも悪いのです。

 かなり理不尽な私の心境を知ってか知らずかは分かりませんが、レナさんはそっと私の背中に手を回すと、子どもをあやすようにトントンと優しく叩いて来ました。


「……不安にさせてごめんね。見ての通り、一撃も貰って無いわ」


「はい」


「あたしはそこらの雑魚には負けないから安心して」


「分かっています」


「シルヴィだって、あたしを信じてくれてたんでしょ?」


「はい」


「なら、それに応えるのがあたしでしょ。違う?」


「でも、連絡くらいくれても良かったでは無いですか」


「それは、まぁ……。忘れてた――ぐぇっ」


 レナさんを抱きしめる力を強めると、レナさんは女の子らしからぬ声を上げました。

 それがちょっとおかしくて、イタズラに力の緩急を付けながら何度も締め上げます。


「し、シルヴィ。苦しっ、ごめんって。そろそろ、放して……」


「嫌です」


「次からは気を付けるからっ! 遅くなる時は、絶対連絡するぅっ!?」


 レナさんが無事であったことを自分に言い聞かせるように、最後に強く抱き寄せます。

 そのまま全身で彼女の体温と鼓動を感じるようにしながら、小さく呟きました。


「心配、させないでください……」


「うん……。ごめん」


 くぐもった声で謝るレナさん。

 これ以上は流石にしつこいでしょうし、困らせたい訳でもないのでそっと力を抜いて離れようとすると、今度はレナさんが私を抱き寄せてきました。


「あのね、シルヴィ」


「はい」


「心配かけさせたのは悪かったと思ってるけど、こんなに心配してもらえてたってことが嬉しかったりするの」


「……私はいつでも、レナさんを大切に思っていますよ。レナさんは大切な友達で、家族ですから」


 今度は私の番ですね、と彼女の頭を優しく撫でます。

 私に抱き着いたまましばらくなされるがままだったレナさんでしたが、唐突に私を抱く力が強くなりました!


「ふぐっ!? れ、レナさん!?」


 ちょっと痛いくらいのその抱擁を受けながら視線をやや下に戻すと、そこにはしてやったり顔のレナさんがいました。

 ……これはしてやられたかもしれません。


「そうよね。あたし達は家族で友達だもの。これくらいのやり取りも当たり前よね」


「れ、レナさん! ちょっと、痛っ、ホントに苦しいですって!」


「いやー、びっくりしたわよホント。まさかシルヴィがこんなイタズラ仕掛けてくるなんて思ってなかったからね」


「それは、そのっ! ちょっとした出来心ぉっ!?」


 せ、背骨がパキッて言いました! そろそろ笑い事では済まされません!!

 身長差を物ともしないその力に、もがきながら脱出を試みていると、少し遅れて帰って来たらしいメイナードとシリア様がいらっしゃいました。


『……やれやれ。先に帰らせたと思えば何を遊んでおるのじゃ』


「シリア様っ! 助けてくださ……ああっ!!」


 またしても体のどこかの骨が鳴りました! 背中でしたか!? 腰ですか!?


「レナちゃん! お姉ちゃんが折れちゃうよ!」


「そろそろ離してくださいレナ様!」


「知ってるシルヴィ? あたしの世界には、骨ごり系の接骨院があるのよ」


「骨……え?」


「骨ごり系。せっかくだから、それをシルヴィにも楽しんでもらいたいって思ったの」


「い、いえ、私は今は必要ないです」


「まぁまぁそう言わずに。これが結構気持ちよくてクセになるのよ」


「ひゃあ!? お、降ろしてください!!」


 そのままひょいと肩に担がれてしまい、逃げることすら敵わなくなった私はレナさんの部屋へと連れ去られ。


「あっ……ああぁーーーー!?」


「ほら、こことか凝ってるで――しょっ!」


「くっ、ああああああああ!!」


 肩、腰、その他全身を強く指圧されて、鳴っていい物か分からない骨の悲鳴を上げ続けることになるのでした。


 ですが、終わった後どこか体が軽く感じたのは、きっと気のせいだったと思うことにします……。

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