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519話 魔女様は落ち着かない

 レナさん達が迎撃に向かってから、早二時間が経過しています。

 シリア様やメイナードと言った、我が家でも特に戦闘能力が高い面々も一緒ですので、万が一にも負けてしまうことはないとは信じていますが、それでも帰りが遅いため不安になってしまいます。


 不安と言えば、とベッドの上で未だ目を覚まさないミオさん達へ視線を移します。

 治療は一通り済み、失血も魔力で補えているので顔色も良くなってはいるのですが、身体的な負担の他に精神的な負担もかなり高かったらしく、治療中から今に至るまで目を覚ましてくださる気配がありません。

 彼女達のこともそうですが、何より彼女達の主であるレオノーラも気がかりです。

 治療が終わってからすぐに連絡を試みてみたのですが、レオノーラが持っているはずの通信用の魔石が失われてしまっている模様で、私から連絡する方法が無かったのです。


 一体、この一か月で魔族領に何が起こっているのでしょう。

 レナさん達の帰りを待ちたいところではありますが、居ても立っても居られない私は、少しでも情報を仕入れるためにペルラさん達の酒場へ行ってみることに決めました。


「エミリ、ティファニー。これから少し出かけてきますので、誰が来てもドアを開けないでくださいね」


「どこに行くの?」


「ペルラさん達の酒場です」


「お母様! ティファニー達も行きたいです!」


「連れて行ってあげたいところですが、今日は遊びに行く用事ではないので……。すみませんが、レナさん達が帰ってくるか、ミオさん達が目覚めたらウィズナビで連絡してもらえますか?」


「うん……」


 しゅんとうな垂れてしまうエミリをギュッと抱きしめ、続けてティファニーにも同じようにしてあげます。


「大丈夫です。何が来ても、我が家にいれば安全ですから」


「お母様、お気を付けて」


「すぐ帰って来てね、お姉ちゃん」


「はい。出来るだけ急ぎますね」


 二人に別れを告げ、家の外で転移を実行します。

 歩いて十数分の距離で転移を使うなどと怒られてしまいそうですが、今は緊急事態ですので見逃していただけるでしょう。

 そう自分に言い聞かせながら眩い光に目を閉じ、若干の浮遊感を経て酒場に到着した私は、すぐに店内へと駆け込みます。


「ペルラさん!」


「あ、シルヴィちゃん! いらっしゃーい!」


 明るく声を返してくださるのは嬉しいのですが、それよりも先に確認することがあります。

 素早く店内を見渡してみるも、やはり店内には魔族のお客さんの姿はなく、人間領の冒険者と村の獣人の方々しかいらっしゃらないようです。


「ペルラさん、魔族の方々がお店に来なくなったのはいつ頃からですか?」


「え? うーん……結構最近だったっけ? 一週間とか、二週間とか?」


「うんうん。ゲイル様もしばらく来てないよねー」


 ペルラさんの問いに、口々に頷く兎人族の皆さん。

 やはり、魔族内で何かが起きてしまっているためなのでしょう。

 続けて冒険者の方々が酒盛りしている席へと近づき、金貨を三枚差し出しながら尋ねます。


「お楽しみのところすみません。魔族に関する噂などがあれば教えていただきたいのですが」


「うおっ!? 魔女様太っ腹だなぁ! いいぜ、何でも答えてやるって言いたいところだが、何かあったか?」


「あー、あれとか? 魔族の首都にできたって言う、サーカス団とか」


「あぁ! 半年前くらいから活動してるっつー奴らだろ? あれ、俺も見てみてぇなぁ。デカパイのねーちゃん達がサービスしてくれるらしいし」


 でかぱいという物はよく分かりませんが、恐らく私の欲しい情報では無さそうです。


「ええと、何かこう……戦争に関する話題だったり、内乱だったり、そういった噂はありませんか?」


「戦争~? そんな話がありゃ、俺ら冒険者にすぐ回ってきそうなもんだが。お前なんか知ってるか?」


「いやぁ、和平が結ばれてからこれと言ったデカい戦争は起きてないはずだと思うけど」


「……あ! 僕聞いたことあるっす!」


 そう手を挙げたのは、その卓の冒険者の方々の中ではかなり若手と思われる男性でした。

 彼は口元についていたお酒の泡を拭うと、私に指を立てながら声を潜めて教えてくれます。


「何でも、最近魔族の首都でクーデターが起きたらしいっす。邪神がどうのとかいう人たちが、現行の魔王に抱いていた不満を爆発させたとかで」


「邪神!?」


 知った単語が飛び出したため、思わず声を上げてしまいました。

 即座に私に視線が集まってしまい、私は慌てて口を押さえながらその場にしゃがみ込みます。


「ど、どうした魔女様?」


「な、何でも無いです……。続けてください」


「変な魔女様だなぁ」


「んで? お前その話まだあんのか?」


「まだって言っても、僕も行商人からちらっと聞いた程度なんであまり詳しくは……」


「ほーん。っつーか、今の魔王相手にクーデターとか、どこの命知らずがやってんだか」


「何千年も生きてる魔王なんだろ? そんなんに敵う奴いねぇだろ」


「だよなー。そんな強い魔王様が直々に和平交渉だの人間領視察だのしてたってんだから、何もしないで平和に生きてりゃいいものをよぉ~」


「そうっすよねぇ。それこそ、魔王不在とかが長引いてればクーデター側は大チャンスかもしれないっすけど、やる理由が分からないっす」


「んなもん決まってんだろおめぇ!!」


 既にかなりお酒が回っている男性は、ドンッと勢いよくお酒の入っている樽ジョッキをテーブルに叩きつけて立ち上がります。


「世の中はなぁ! 金と権力、あと女でできてんだよ! それを手に入れるために地位を得るっつーのが、男のロマンって奴だぁ!!」


 か、かなり偏見に満ちた持論な気がしてしまいます……。


 思わず、私は彼を少し軽蔑してしまいそうになりましたが、その豪語に対して周囲から拍手が沸き上がったり、口笛を鳴らされているのを見る限りでは、どうやら男の人にとっては共通の認識であるようでした。

 男性はこうした夢を語るのが好きな生き物であるとシリア様から聞いたこともありますし、この話題には触れないでおきましょう……。


 私は彼らにお礼を言ってその場から離れ、ペルラさん達と軽く数言会話してから家に戻ることにしました。

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