517話 魔王様の給仕係は助けを求める
無事に過去から帰ってこられたシルヴィ達でしたが、
次から次へとトラブルに巻き込まれてしまいます……!
今話で今章も終わりとなりますので、明日は二話お届けします!
王都を襲っていたスタンピードも収まり、王都駐屯の騎士の方々から謝罪とお礼の品をいただいたりと色々ありましたが、諸々が落ち着いてきた翌週の月の日。
いつものように、狩りに失敗して新しい怪我を作ってしまった獣人族の方や、リースさんを始めとした植妖族が暮らしていたリンドの町から来た魔族の方々、そして私を知る人間領の冒険者の方々の治療を行っていると、上の倉庫にお代となる食品を持って行ってくださっていたレナさんが、ふと思い出したように私へ尋ねてきました。
「そう言えば最近、レオノーラ見なくなったわよね」
「言われてみれば、確かに見ませんね」
ハールマナでの一件の後、彼女のおかげで私はシリア様の過去を追体験することができ、色々あった末にこうして現実世界への復帰を果たすことができたのですが、あれ以来全く音沙汰がありませんでした。
普段であれば、レオノーラからいただいた通信用の魔石を通じて、彼女の暇つぶしに付き合うことも度々あったのですが、それすらも無いほど忙しいのでしょうか。
『奴も腐っても魔王じゃからな。妾達の件で、長期不在にしたツケが来ておるのじゃろうて』
「あー、何か別れ際忙しそうにしてた気がするわ」
「もしかしたら今頃、ミナさんやミオさん達に付きっきりで執務と向き合っているのかもしれませんね」
「あはは! これは終わった後真っ先にシルヴィに泣きついてきそうね!」
その光景がありありと想像できてしまい、私とシリア様も笑いだします。
もう少ししたらまた夏が来ますし、レオノーラの予定次第ではありますが、またあのビーチに連れて行っていただくのもいいかもしれません。
そんなことを考えながら次の患者を呼ぼうと立ち上がると。
「きゃあああああ!!」
「お、お姉ちゃん!! すっごい血が出てる人来た!!」
エミリとティファニーが、血相を変えて診療室へ駆け込んできました。
二人の見た光景がよほど衝撃的だったのか分かりませんが、私にギュッと抱き着きながら顔を埋めてしまっています。
「二人とも、落ち着いてください! とりあえず、その大怪我している方を診なくては……!」
何とか二人を引きはがしつつ待機室である玄関へと向かった私は、そこで倒れている人物を見て悲鳴を上げてしまいました。
「きゃああああああ!? み、ミオさん!? ミナさん!? どうしたのですか!?」
まさに今、話題に上がっていたレオノーラの専属給仕係であるミナさんとミオさんが、瀕死の重体で倒れ込んでいたのです!
「ま……じょ、様…………」
「逃げて、ください…………」
「よく分かりませんが、早く中へ! レナさん、お願いします!」
「分かったわ!」
床に彼女達の血だまりができてしまうほどの出血です。一刻も早く何とかしなくては……!!
急いでベッドを二つ隣接させて彼女達を寝かせ、一人ずつではとても間に合わないため、出し惜しみなく範囲治癒魔法で治療を試みます。
出血はすぐに治まったものの、ここに来るまででかなり血を失ってしまっていたらしく、お二人の顔色は非常に悪いままです。
私の治療が完全に終わるまで、これはかなり時間を必要としてしまうことは間違いなさそうです。今日は新規の患者さんを受け入れることはできないでしょう。
「レナさんすみません、表看板をクローズにしておいてくだ――」
私が言葉を言い終えるよりも早く、森の大結界にとてつもなく強い攻撃が加えられたことを察知しました。これは恐らく、魔法による攻撃です!
「シリア様! 誰かが大結界に攻撃を加えています!!」
『何じゃと!?』
この森を巡っている地脈を流用した強固な結界なので、そう簡単に破られることはあり得ませんが、敵も本気で割りに来ているらしく、先ほどから攻撃が止まる気配がありません。
まさか、ミオさん達を狙ってきているのでしょうか……?
彼女達に事情を聞きたいところですが、今の状態で聞くのは無理があります。
「すみませんレナさん! 私はしばらく手が離せないので、様子を見てきてもらえませんか!? 恐らく戦闘になると思いますので、棚のポーションを持って行ってください!」
「分かったわ! シリアとメイナードも一緒でもいい!?」
「こちらは一人でも大丈夫です。シリア様、お願いできますか?」
『あい分かった。ならば急ぐぞ!』
「おっけー! 行くわよメイナード! あたし達を乗せなさい!」
『ふん……小娘が調子に乗るなよ?』
「ちょっ、わ、わわわ、わあああああああああ!?」
レナさんに指図されたことが不快だったのか、元の大きさに戻ったメイナードは、その鉤爪でレナさんの両腕をがしっと掴んで飛び上がっていきました。
戦闘中にケンカにならないといいのですが……と不安を覚えながらも、私は改めてミオさん達の容態を確認しつつ治療を進めます。
怪我の種類としては、重度の火傷と裂傷、あとは鋭い何かで複数個所貫かれた跡があります。
薄っすらと残っている魔力の残滓から、恐らくは魔法による戦闘で受けた傷であると推測できそうです。
しかし、仮にもレオノーラの側近とも言えるお二人ですし、かなりの手練れであると思っていましたが、そんな彼女達すら圧倒してしまうほどの人物が現れたのでしょうか。
それに、彼女達は私を見て開口一番に「逃げて」と言っていました。
それが意味するところはまだ分かりませんが、この森の大結界を襲っている人物は、彼女達だけではなく私も狙っているという事なのでしょうか。
お二人の怪我のショックからまだ立ち直れていないエミリ達が、私の不安を読み取ったかのように抱き着く力をちょっと増しました。
魔術師の皆さんが撤退し、平和になったと思っていたのは、もしかしたら私だけだったのかもしれません……。
いつの間にか曇り空になっていた窓の外を見上げながら、私はレオノーラの無事を祈るのでした。
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