516話 ご先祖様は手配する
場所は変わり、魔導連合内総長室にて。
『という訳じゃ。部屋の手配は任せたぞトゥナよ』
「……はい」
万事解決とすっきりした面持ちのシリア様とは対照的に、見ているのが可哀そうなほど頭を抱えているアーデルハイトさんの姿がありました。
それもそのはずです。急に魔導連合にやって来たと思ったら、“犯人を捕まえたからスタンピードはもう起きない。その代わりに魔導連合で面倒を見ろ”と厄介ごとをまるっと押し付けられてしまったのですから。
かなり強引ではあったものの、やはりアーデルハイトさんはシリア様に意見することができないらしく、終始シリア様の提案と要望を飲み込み続けていたその様子は、最早絶対権力と言っても過言では無いでしょう。
「……【慈愛の魔女】」
「私は何も悪くないと思うのですが……」
逆恨みのように睨みつけてくるアーデルハイトさんから視線を逸らしつつ、私はここに来るまでの経緯を振り返ることにしました。
テントでの事情聴取が終わった後、先に皆さんには家に帰っておいてもらう事になり、私とシリア様だけがその場に残ることになりました。
何でも、ファミエラさんが見せてくださったピンバッジが本物かどうかを確かめる必要があるとのことで、転移を使って聞きに行かなければならないようでした。
シリア様に体を明け渡し、私の魔力を使って転移した先では、大樹の内部をくりぬいて作ったような可愛らしい家がありました。そこはどうやら、“始原の魔女”の一人である【玉風の魔女】ハルマイアさんの家であったらしく、今ではそのお弟子さん達が家の維持を兼ねて住んでいるとのことです。
木の上に住んでいるスピカさん達とは趣は変わりますが、これはこれで素敵な家ですねと感心していると。
「邪魔するぞ」
『シリア様!?』
ノックも無しにシリア様が家の中へ入ってしまったものですから、私達は面食らってしまいました。
ですが、家主であるお弟子さん達も分かっていらっしゃったようで、私達を快く受け入れてくださいます。
「ようこそいらっしゃいました、我らが始祖シリア様。お連れの方は一体どちら様で?」
「それをお主らに聞きに来たのじゃ。ほれファミエラよ、あれを見せよ」
ファミエラさんはコクコクと頷きながら、薄緑色の魔女服に身を包んでいるお弟子さん達へフクロウのピンバッジを見せると、彼らは揃って驚きの声を上げました。
「これは……!」
「誰か、弟子入りの連絡受けてたりする?」
「いやー、ここ数年受けた覚えないけど」
「えぇ? じゃあまた師匠がふらっと認めちゃったの?」
「はぁ~、毎度困るよねホント」
ブツブツと文句を言いながらも、各々が何かを探し始めます。
それを見ていたシリア様は、額に手を当てながら深いため息を吐きました。
「またか……」
『シリア様、またと言うのは』
「あぁ、お主には話したことが無かったかの」
やや疲れた様子で説明してくださったシリア様の話を要約すると、次のような内容でした。
こちらのハルマイアさんのお弟子さん達の上には、魔導連合にも籍を置いている風属性担当の大魔女がいらっしゃるようです。
ですが彼女は規則を何よりも嫌う気分屋であるらしく、ふらっといなくなっては磨けば光る魔法使いをスカウトして魔法を教え、魔導連合に連れていくでもなくそのまま再びどこかへ行ってしまうのだとか。
『……そもそも、その方は風属性の適性がある方をスカウトされているのですよね? それなのに、何故光属性の適正であるはずのファミエラさんを?』
「それが奴の面倒なところでなぁ」
その大魔女の方は属性に関係なく、魔女としての素質だけを見抜く目を持っていらっしゃるようで、磨き方は教えるけどあとは自分でやれと放り投げてしまうことでも有名なのだそうです。
その結果、一応は大魔女に認められた形だけの魔女が各地に点在してしまう結果となっているらしく、その後始末に彼女のお弟子さんであるこちらの皆さんが日夜振り回されていらっしゃるようでした。
「妾も話を聞いた時は、即刻資格をはく奪せよと命じたのじゃ。じゃが、現代においては奴に匹敵する風の使い手がおらんが故に、ここで奴を切り捨てる訳にもいかんのじゃと」
『それはまぁ……何とも難しい問題ですね』
「レナが大成でもすれば、妾の推薦で風の担当にしてやらんでもないのじゃがのぅ」
そうこうしている内に手続きの書類や魔導連合の規約などが掛かれた本が用意され、私達はファミエラさんを連れて魔導連合へと向かう事になり――。
そして今に至るという訳です。と、誰に聞かれている訳でもなく自分の中で状況を整理し直した私は、改めてそれらのしわ寄せに苦しめられているアーデルハイトさんに、内心で同情してしまいました。
『ではトゥナ、あとは任せたぞ』
「はい……」
「し、失礼します」
背中に感じる恨みの籠った視線をできるだけ無視して退室しようとした私の袖を、ファミエラさんがきゅっと掴んできました。
「ファミエラさん?」
彼女は手を放してサラサラとノートに文字を書くと、自分の顔を隠しながらそれを見せつけてきます。
そこに書いてあった文字を読んだ私は少し驚かされてしまいましたが、彼女に優しく微笑み返すことができました。
「いえいえ。これから大変だとは思いますが、頑張ってくださいね」
『分からぬことがあればトゥナに聞くがよい。こう見えて、面倒見はよいからの。くふふ!』
改めてお二人に別れを告げ、部屋から出たと同時に、シリア様が私にニヤニヤと意地の悪い笑みを向けながら言います。
『良かったのぅ、慈愛の魔女様? いや、聖女様と呼ぶべきか?』
「やめてください、シリア様」
『くふふ! ほれ、エミリらが腹を空かせておるじゃろうし、早く帰るぞ』
私は頷き返し、転移の準備をしながら先ほどの文字を思い返します。
「……魔女よりも聖女みたい、ですか」
“ありがとうシルヴィ。慈愛の魔女というより、慈愛に満ちた聖女みたいだった”
あの言葉通り、魔女としては相応しくないという点ではまだまだ研鑽が足りないのでしょう。
ですが、誇張し過ぎであるとはいえ、聖女のような慈愛と褒められるのは悪い気はしません。
「ファミエラさん、魔導連合に馴染めるといいですね」
『そこはヘルガが上手くやるじゃろうて。案ずることはなかろう』
「ふふ、確かにそうですね」
転移が起動し始めた魔法陣の中で、今も今後について話し合っているであろう彼女へと振り返りながら、私は内心でエールを送り、我が家へと帰宅するのでした。




