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12話 魔女様は初陣を飾る

「ねぇヤーゲン。ちょっといいかしら!」


 レナさんに呼ばれたヤーゲンさんは、いそいそと手鏡をしまって前髪をさらっとかき上げながら応じました。


「あぁ、すまない! 思わず僕の世界に入り込んでしまっていたよ。それで、なんだい?」


「あたし、あんたがもっと美しく輝ける方法を思いついたんだけど……。興味ある?」


「なんだって!? 僕がこれ以上に美しくなれてしまうのかい!? 詳しく聞かせてくれないか、【桜花の魔女】!!」


 凄い食いつきようです。本当に自分磨きが大好きな方のようです。


「あのね? あたし達って今日が初めてで、しかも記念すべき初陣じゃない?」


「そうだね」


「で、そんなビギナーなあたし達に普通に勝っても、周りからは「新人に勝つのはあたりまえだろ」とか思われそうじゃない? これってあまり美しくない勝利よね?」


「……はっ!! 確かに君の言う通りだ! 魔女として新人である君達に先輩が勝つのは道理過ぎて、輝かしさが増えない!」


 そう、なのでしょうか。勝ちは勝ちだと思いますが……。

 そう思った直後レナさんに脇腹を肘で突かれ、「顔に出てるから! いつもの困った笑みしといて!」と小声で注文されました。いつもしている訳ではないのですが……。


「そこでね? あたし達に華を持たせてあげて、その上で勝つって言う方が器の広さも含めて評価してもらえると思うのよ」


「ふむふむ、一理あるね。いいだろう! 君達としては、どんなハンデと言う華が欲しいんだい?」


「できれば、最初の先制攻撃は様子見してほしいの。ほら、実戦経験も浅いから上手くコントロールできないかもしれないし。ね、シルヴィ?」


「そ、そうですね。先輩魔導士のヤーゲンさんに私達の実力を測っていただくという意味合いでも、ヤーゲンさんの胸を貸していただけると嬉しいです」


 ちょっと苦し紛れだったような気がしますが、レナさんの意図を汲みとって追い打ちを掛けてみます。

 ヤーゲンさんは少し考えるような素振りを見せましたが、やがて大きく頷くと爽やかな笑顔を向けてきました。


「うん、いいだろう! 君達の華々しい初陣を飾ることも先輩である僕の務めだ! そしてその上で僕が勝つというのも実に華やかだ!」


「じゃあ引き受けてくれるのね!?」


「あぁ! 君達の最初の攻撃については、僕からは一切行動はしないし防御もしないよ。君達の全力を見せて欲しい!」


「ありがとうヤーゲン! あんたみたいな器の大きくて美しい人に当たれて光栄だわ!」


「ははは! そんなそんな、僕が美しいのは決まっているじゃないか!」


 気持ち良く再び自分の世界に入り始めてしまったヤーゲンさんに対し、物凄く悪い顔を浮かべているレナさん。なんだかヤーゲンさんに申し訳なくなってきました。

 内心もやもやとしていると、レナさんから屈むよう手招きされました。


「で、ここから作戦会議だけど。シルヴィに拘束魔法を開幕から撃ってほしいの」


「え、えぇ!? あれ一回も成功していないんですよ……?」


「大丈夫だって! 相手がフローリアだったから決まらなかったって可能性もあるでしょ? それに今回相手が動かないんだから、尚更当てやすいって!」


「そ、そうかもしれませんが、失敗したらせっかく頂いたチャンスを無駄にしてしまうことに」


「その時はその時よ! 強く当たって、あとは流れで!」


 無茶苦茶な! とは思いましたが、私が戦闘向きではない、レナさんは風属性と半分当たってる噂が流れている以上、あまり手の内は見せないまま次へと進みたいところですし、確かに決められれば理想的な勝利です。


「分かりました。やるだけやってみますが、失敗したことも考えておいてください」


「分かってるわよ! シルヴィならきっとできるはずだから、頑張ってみて!」


 にっと笑うレナさんに釣られて苦笑を返すと、ちょうど戦闘が始まる時間が近づいていたらしく、アーデルハイトさんの開始宣言が聞こえてきました。


「それでは第二回戦、開始!!」


 私は練習でやった通りに、杖を取り出して拘束魔法の準備を始めます。フローリア様を捕まえることは叶わなかった通常の拘束魔法ですが、果たしてうまくいくのでしょうか。


「ふーむ、無詠唱の拘束魔法からか。詠唱を省く分、拘束力は落ちるが……これは抵抗はしてもいいのかな?」


「もちろんよ。発動したら全力で抵抗してもらって構わないわ」


「そうかそうか。よほど自信がある様だね! いいとも、さぁ来るがいい【慈愛の魔女】!!」


 両手を大きく広げて受け入れようとするヤーゲンさんに良心が少し痛みますが、全力でやらせていただきます!

 杖をヤーゲンさんへ向けて、拘束魔法を展開。いつも失敗していた紫色の魔法陣が、ヤーゲンさんを中心に展開されて徐々に縮小を始めます。あとは抵抗力を上回る力で抑えつければ――。


 と、いつも通り拘束を試みようとしたところ、強烈な違和感を感じました。


「あ、あれ? ヤーゲンさんから抵抗を感じない……?」


「え? ヤーゲン、もう抵抗してもいいのよ?」


 レナさんの呼びかけに、ヤーゲンさんが苦しそうな声色で答えます。


「い、いや! これでも、全力で抵抗はしているんだよ!? なのに拘束が緩むどころか、ぐううぅ!?」


 必死にもがくような様子のヤーゲンさんですが、私の方へ全くと言っていいほど抵抗による反発が感じられません。これは、このまま拘束してしまっても良いのでしょうか。

 不安になり、レナさんを見ると一瞬考えこんだようでしたが、ぱぁっと笑い返されました。


「ま、いいんじゃない? さくっと拘束して片付けちゃいましょ!」


「わ、分かりました」


 拘束の威力をさらに高めると、魔法陣が縮小する速度がさらに増し、ヤーゲンさんの抵抗も虚しく拘束が完了してしまいました。もはや自力で立つことも叶わないヤーゲンさんは、うつ伏せに地面に転がってしまいます。


「あだぁ!? くっ、一体なんなんだ君は!? こんな強烈な拘束魔法は初めてだぞ!?」


「えーっと……」


「あれあれー? いいのかしら先輩? このままだと負けちゃうわよ?」


「こ、こんな惨めな敗北などっ、ぐぬぬぬぬぅ! くぅああああ!!」


 なんとか逃れようともがいていますが、拘束が完了してしまった以上自力での脱出は不可能です。

 上手くできたと言っていいか分かりませんが、とりあえず成功はしたことに胸を撫でおろしていると、悪い顔のレナさんがひょいっとヤーゲンさんを抱え上げました。


「ちょ! ちょちょちょちょ、ちょっと待ちたまえ【桜花の魔女】!? こんな、こんなの聞いて無いぞ!?」


「えー? でも最初の攻撃は受けてくれるって言ったのは先輩よね? にしてもヤーゲン軽いわね……。ちゃんと食べてる?」


「三食きっちり食べているとも! それよりやめたまえ! 下ろしてくれ! こんな、こんな格好を見られたくない!!」


 騒ぎ立てながらじたばたともがくヤーゲンさんを、軽々とエリア外へと運んでいくレナさん。

 まさかそのまま場外へ持って行くつもりでしょうか。


「うわあああああ!! この美しい僕が! こんな小さな乙女にお姫様抱っこされてしまうなど!! 放してくれ! いっそ殺してくれ!!」


「無益な殺生はしませーん。あと誰が小さいですって?」


「あっだだだだだだ!? 折れる! 骨からミキミキと嫌な音がしているぞ【桜花の魔女】!!」


「そんな失礼な先輩はポイしちゃいますねー。対戦ありがとうございましたー」


「あああああああ!! んべっ!」


 予想通りエリア外へ放り投げられてしまったヤーゲンさん。レナさんが手を払っていると、周囲の光の柱が消えて転移門が出現しました。どうやらこれで勝利でいいようです。


「ほらシルヴィ帰るわよ! 勝者の凱旋よ? どこにカメラあるか分かんないけど手を振っておきましょ!」


 虚空に向かって両手を振るレナさんと一緒に小さく手を振っておき、また手を引かれて転移門へ足を踏み入れます。

 私達の初陣、こんな形で本当に良かったんでしょうか……。

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