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512話 魔女様は寝不足

 エルマさんがどうやってウィズナビを手に入れたのかは分かりませんが、余程メイナードと一緒にいられることが嬉しかったのか、『メイナードとご飯だよー!』『メイナードが珍しくお風呂入ってる! 覗いちゃうね!』と言った内容を始め、メイナードの一挙一動にはしゃぐエルマさんからの一方的なメッセージと写真を夜通し送り続けられ、私は軽く寝不足になってしまっていました。


 ですが、今日は私のなりすましが疑われる犯人を捜しに行かなければならないため、少しでも眠気が取れるようにとコーヒーを淹れていたところへ、珍しく早起きなフローリア様が食堂へやってきました。

 今日は“ノーガール・ノーライフ”という謎の主張が書かれている、薄水色のダボダボなTシャツだけというややだらしない恰好ではあるものの、しっかりと下着も着ていらっしゃっているようです。


「ふわ~ぁ……。ん~、コーヒーのいい香り~……」


「おはようございます、フローリア様。フローリア様も飲みますか?」


「じゃあ貰おうかしら~」


「分かりました。ミルクとお砂糖は多めで良かったですよね?」


「うん……」


 そのままふらふらと洗面所へと向かう後ろ姿に微笑みながら、フローリア様の分のマグカップを用意します。

 出来立てのコーヒーを注ぐと同時に、辺り一面にふわりと香ばしいコーヒーの匂いが立ち上がり、それだけで少し目が覚めるような気分になれます。


 せっかくコーヒーを入れたことですし、今日はコーヒーに合うシンプルな朝食にしましょうか。

 主食はパンにして、ミモザサラダにトマトを添えて出しましょう。主菜は目玉焼きとシリア様が好んでいらっしゃるボイルソーセージでもいいですが、エミリとレナさんは厚切りベーコン派ですから、そこは二つ用意した方が良さそうです。

 スープは簡単に野菜スープにするとして、デザートは……そうですね、変に凝らずにヨーグルトがいいかもしれません。ティファニー用にはちみつをたっぷり用意して、変な混ぜ合わせを試そうとするフローリア様のためにもいくつかジャムをお出ししておかなければ。


 コーヒーをいただきながらそんなことを考えつつ、早速準備に取り掛かります。

 倉庫からスープ用の野菜をいくつか取り出し、食べやすい大きさに切ってお鍋へ放り込んで茹で始めます。それと並行して、やや火が通りにくいベーコンを焼き始めると、廊下の方から誰かが起きて来た足音が聞こえてきました。

 ふと壁に掛けてある時計を見上げると、時刻は間もなく朝の六時半になろうとしていました。と言うことは、普段の私と同じくらいの時間に目を覚ます人物と言うことになりますので、きっとティファニーでしょう。


 その予想は的中し、足音が食堂に入ると同時に明るい声で、朝の挨拶が私へ向けられました。


「おはようございます、お母様!」


「おはようございます、ティファニー。今日も元気ですね」


「はい! 今日は快晴ですので、お日様をたっぷり浴びることができました!」


「ふふ、それは良かったです。では顔を洗ったら、料理を手伝ってください」


「もちろんです!」


 私に笑顔を咲かせて見せた彼女は、心なしか落ち着くような花の香りを放ちながら、洗面所へと向かっていきました。

 そう言えば、フローリア様が洗面所から戻ってきていませんね。もしかしたら、またお手洗いの中で二度寝してしまっているのかもしれません。

 それをティファニーに教えようと口を開いた瞬間、ティファニーの困ったような声が聞こえてきました。


「もう、ダメですよフローリア様! こんなところで寝てしまっては風邪を引いちゃいますよ!?」


「ふぇぇ~……えへへ……」


「起きて! 起きてくださーい!」


 ティファニーも、朝のフローリア様にはすっかり手慣れて来たようで、何も言わなくても彼女を背負って食堂まで戻って来てくれました。

 そのまま椅子に座らせると、大変だったと言わんばかりに私へ報告してきます。


「お母様聞いてください! フローリア様ったら、またお手洗いで寝ちゃってたのです! しかも、トイレットペーパーを枕にして!」


「毎度のことですが、どうすればあそこで眠れるのかが気になりますね」


「全くです!」


 そのまま二人で笑いあい、ティファニーにサラダを作ってもらう事にします。

 植妖族だからか、はたまた私の魔力と知識を一部引き継いでいるからかは不明ですが、その手際の良さは最近少しずつ料理の腕を上げ始めているレナさんが悔しがるほどです。

 そのまま談笑も交えながら料理を進め、あとは並べるだけとなったところでシリア様とレナさんが同時に食堂へやってきました。


「おはよー……」


『くあぁ~……。今日も早いのぅ』


「おはようございますレナさん、シリア様」


「おはようございます!」


「ティファニーはホント、朝から元気よね」


『うむ。陽の光を必要とする植物由来なのじゃろう……それに比べシルヴィよ、今日はあまり顔色が優れんな』


「そうでしょうか?」


『お主と妾の間に、隠し事なぞできる訳が無かろうて。寝不足か?』


 あっさりと見抜かれてしまい、私は照れ隠しに愛想笑いを浮かべながら頬を掻きます。


「実は、夜通しエルマさんからメッセージが届いていまして。確認しないのも失礼かと思って、都度返信していたら全然眠れませんでした」


「えっ、何でマナーモードにしてないの? 夜に連絡してくる人なんか無視しちゃえばいいのに」


『マナーモードとやらは分からんが、概ねレナに同意じゃ。どうせ、やれメイナードがどうのと言ったしょうもない内容なのじゃろう? その手の輩には無視が一番効くぞ』


「そうそう。構ってちゃんは無視するが一番の薬なんだから。じゃ、顔洗ってくるわねー」


 どうやら、一般的には無視する方が正しかったようです。

 確かに毎回相手をする必要はなかったのかもしれません。と反省しつつ、料理をテーブルに並べます。

 一通り並べたところで、ついいつもの癖でメイナードの分まで用意してしまっていたことに気が付きました。


 エミリのお皿に移しながら、今頃メイナードも朝ごはんの時間でしょうかと小さく笑います。

 そんな私を不思議そうに見ていたティファニーでしたが、時計を見て声を上げました。


「あ、お母様! そろそろエミリを起こしてきます!」


「お願いしますね」


 パタパタと駆けていくティファニーを見送りつつ、私はすっかり冷めてしまっているフローリア様のコーヒーを自分のマグカップに移し、かなり甘めなそれを一口飲みながら、どこかのタイミングで仮眠させていただけないかと考えるのでした。

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