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510話 天空の覇者は交渉材料になる

 私達から事情を聴いたエルマさんでしたが。


「やだね」


「そこを何とか……」


「やだもーん」


 ツーンと顔を背け、全く協力する気のない様子を見せて来るのでした。


『お主は元地上最強の魔獣じゃろう? お主ならば、スタンピードを起こせる魔獣がいかほどかくらい、容易く分かるのではないか?』


「もちろん分かるよ。元とは言え、ボクだってこの地上で一番の魔獣なんだからね」


『ならば』


「やーだね!」


 シリア様の言葉を遮るように、エルマさんが再びぷいっと顔を背けてしまいます。

 その態度に、シリア様からカチンと音が聞こえてきそうなほどお怒りのオーラを感じてしまいました。


『何故じゃ! 妾がこうして物を頼んでおるというのに、何が気に入らぬ!?』


「ボクは魔法の女神様には興味ないからねー! 魔法の恩恵も受けてないし、崇める必要だってないもーん!」


『貴様……!!』


「そんなことより、ボクが気に入らないのはこっちだよ!!」


 エルマさんは私を強く指さしてきました。


「何でメイナードを奪っていった人間のメスに協力しなきゃいけないのさ!? 人に物を頼むなら、返すべきものを返してからにした方がいいんじゃないの!?」


「そうは言われましても、以前も言いましたが」


「メイナードが契約してくれただけって言いたいんでしょ! そんなの知らないよ! シルヴィがボクのメイナードを奪った事実だけが残ってるんだよ!!」


 め、滅茶苦茶な暴論です……。

 メイナード自身の交友関係は最近まで知りませんでしたが、使い魔契約としては間違いなく私が初ですので、エルマさんの所有物ではなかったと思うのですが。

 今にも食って掛かってきそうな勢いの彼女にそれを言おうものなら、確実にこのお店が壊れてしまうほど大暴れされてしまいそうな気もしますし、どうしたらいいのでしょうか。


 改めて交渉というものの難しさに頭を悩ませていると、シリア様が溜息を吐く音が聞こえてきました。


『……ならば、お主が情報を提供するのであれば、その代わりにメイナードを一日貸してやろう』


「えっ!?」


「シリア様、それを勝手に交渉材料にしてしまうのは」


『あとで妾から頼んでおけば、あ奴も聞き入れるじゃろうて』


「それはそうかもしれませんが……」


 シリア様はご存じないのかもしれませんが、メイナードが何か面倒なことをした日は、決まって私の料理の様子を肩に留まって凝視してくるのです。

 それは『今日は我を労う飯なんだろうな?』と口にしなくても伝わってくるほどの圧があり、急遽献立を組みなおしたりする必要が出てくるため、巡り巡って私にしわ寄せが来てしまいます。


 とは言え、他に譲歩していただけそうな条件もありませんし、今の内から彼が好みそうなメニューを考えておくことにしましょう。


「シリア、今の言葉は本当? 本当に信じていいの?」


『うむ。お主の働き次第では、もう一日追加してやっても良い』


「言ったね!? 絶対だよ!? 約束破ったら、シルヴィの森に攻めに行くからね!?」


 それだけはやめていただきたいです……。


『約束してやる。その代わり、此度のスタンピードを引き起こした奴を特定してくるのじゃぞ』


「そんなのすぐ分かるって! じゃ、行ってくるね!」


「えっ、あの、エルマさん!?」


 彼女はエプロンを雑に脱ぎ捨てると、勢いよく店から飛び出して行ってしまいました!

 このお店はどうするつもりなのでしょうか、と彼女が出て言った店の入り口を見ていると、扉が騒々しい音を立てながら開け放たれ、エルマさんの半身だけが覗かせます。


「お店の看板、閉店にしておいて! 鍵はテーブルの上だから!」


 そして再びいなくなってしまうエルマさんに、私達は顔を見合わせて同時に苦笑してしまいました。





『ではメイナードよ、成功の暁にはエルマの相手を頼んだぞ』


 家に帰り、シリア様からの説明を受けたメイナードから、痛いほど背中に視線を感じます。

 振り返ってはいけません。振り返ったが最後、メイナードは私が謝るまで無表情で睨み続けるに違いありません。


 すみませんメイナード。今夜は美味しい物を作りますので……。

 そう心の中で謝りながら夕飯の支度を進めていると、案の定メイナードが私の肩に留まり、料理の様子を凝視し始めました。

 さらに言えば、今日は彼の鉤爪が少し肩に食い込んでいるせいで、ちょっと痛みを感じてしまいます。


「メイナード、少し痛いです」


『……』


「あの、メイナード……? もう少し足の力を抜いてくれると嬉しいのですが」


『…………』


 む、無言の圧が辛いです! もう左が怖くて見ることができません!

 せめて、彼の機嫌をこれ以上損ねないように気を付けなくては……と怯えながら夕飯を完成させた私の肩には、まるで『覚えていろ』という意味が刻まれているかのように、彼の足跡が赤く残っていたのでした。

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