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509話 ご先祖様は期待する

 無事(?)に私に掛けられていた容疑も晴らすことができはしましたが、今回の件はシリア様としてはまだ納得がいっていらっしゃらなかったようでした。


『と言うことで、じゃ。早速、妾達に罪を擦り付けようとした不届き物を懲らしめに行こうと思う』


「なんとなく、そうなるのではないかと思っていました」


 前回の騒動の時もそうでしたが、シリア様はご自分に対して危害を加えようとして来た相手にはとことん厳しくいくスタンスであるらしく、今回も一切許すおつもりが無いご様子です。


「ですが、どうやって犯人を捜すおつもりですか? 今のところ、森が絡んでいるとしか情報がありませんが」


『何を寝ぼけたことを言っておるのじゃ。そこにおるじゃろ』


「……え?」


 そこ、と示されたのは、私達と共に駐屯所から出て来たサーヤさんでした。


「えぇ!? 私、何も知りませんよ!?」


『とぼけるでないぞ。そもそも、お主が妾達を森の魔女だと口を割らなければ、こうも面倒なことにはならんかったのじゃ。さぁ吐くが良い、誰から問われた?』


「誰と言われても、シルヴィさん達が帰ってからやって来た騎士の人としか分かりませんよ……」


『そ奴の名は? 外見の特徴でも構わん』


「ええと……。すみません、夜も遅かったのであまり姿がはっきりとしなくて。名前も聞くより先に帰ってしまったので分からないです」


『何故訪問者の名を控えぬ!? 言伝があれば、誰からのものかくらい聞くのが筋じゃろう!』


「ごめんなさい~!」


「シリア様! サーヤさんも連日の治療で疲れていたのでしょうし、そんなに責めても仕方がありませんよ!」


『たかだか十数人程度じゃろう! お主に比べれば微々たるものぞ!!』


「私はそれが仕事ですから三倍近くは捌けていましたが、彼女はそうでは……」


 そう言いかけた私の視界に、どんよりとしたオーラを纏い始めたサーヤさんが見えてしまいました。

 彼女は自虐気味に笑いながら、鬱々とぼやきます。


「すみません……。本職の聖職者なのに、魔女以下の治療しかできなくて……。人の名前も満足に聞けないし、私ってホントに使えない子ですよね……。あはは……」


「さ、サーヤさん」


「いいんですいいんです。私達の治癒魔法なんかよりも、シルヴィさんのポーションの方が何十倍も優れているんですから……。お客さんがより良い方へ流れるのも当然なんです……」


 ど、どうしましょう。またしても、教会の収入源であったらしい治療を私のポーションが奪ってしまったことを掘り返されてしまいました。

 そこまで凹んでしまうほど、教会――ひいてはそこに仕える聖職者である彼女達への打撃は大きかったのでしょうか。


『はーっ! 毎度うじうじとしおって面倒な娘じゃな! そんなに客を取られたのが悔しければ、少しは腕を磨く努力をしたらどうじゃ!』


「ですがシリア様。サーヤさんは魔法使いでも魔女見習いでもありませんから」


『魔女じゃろうと冒険者じゃろうと、魔力の本質は何一つ変わらん! 単にこ奴は、お主のように日がな魔力を使いきっては急速に回復させるという鍛練を怠っておるだけじゃ!』


 今でこそ私にとって当たり前の物となっていますが、毎日魔力の底が見えるまですべて使いきり、寝る直前に精神を集中させて魔力の回復を促してから眠る、というのは非常にしんどい鍛練です。

 それを魔女になる訳でもない彼女に求めるのは酷なのでは……と思っていると、サーヤさんはどこか期待に満ちた表情をこちらに向けてきていました。


「と言うことは、私でもシルヴィさんのように凄い治癒魔法が沢山使えるようになるんですか!?」


『シルヴィのようにとは行かんが、お主自身も悪くはない素質を持っておるが故に、鍛え上げれば今より数倍はマシになるは――』


「教えてください!!」


『ぬおっ!? い、いきなり迫ってくるでない! 気色悪い!!』


 シリア様。それは流石に酷いと思います。

 ですが、シリア様の言葉で希望を見出せていたらしいサーヤさんは、全く気にする様子も無くシリア様の真ん前で正座し始めます。


「私、もっと優秀な治癒の使い手になりたいんです! そうすれば無茶ばっかりするセイジくん達を守ってあげられるし、もっとお金も稼げるし、旅の資金にも困らなくなると思うんです!」


『あー……。そう言えばお主らは、仮にも勇者を名乗っておきながら日銭稼ぎにも苦難する貧乏人じゃったな』


「うっ」


 容赦のないシリア様の言葉が、サーヤさんに突き刺さります。


『この前も訳の分からん商人に騙されて身売りされそうになっておったし』


「あうっ!」


『しょうもない結界で妾の魔法を防ごうなぞ慢心しておったし』


「ふぐっ!」


『お主ら、勇者を辞めて手に職をつけた方が良いのではないか? 魔王も今となっては、和平を選んでおる訳じゃしのぅ』


「ううっ!!」


 ……流石に、これ以上は見ているのが辛くなってきました。

 そろそろ助けてあげることにしましょう。


「シリア様。彼女達も彼女達なりに考えて行動しているはずですので、そう悪く言わないであげてください」


『じゃが』


「それに、私のポーションで彼女達の仕事を奪ってしまっているのは多少なりとも事実です。そのせいでお金に困っているのであれば、彼女を始めとした聖職者の方々の腕を上げて、街の皆さんから信頼を寄せていただけるようにするのが私の義務にも思えます」


 シリア様は私をじっと見つめてきます。

 その表情には、『こんな連中にも手を貸そうというのか?』とくっきりと表れていて、かなり呆れられてしまっているのが伝わってきます。


 ですが、シリア様も困っている人を見捨てられないお方なのは、私もよく知っているのです。


『はぁー……。お主もつくづく、自分から面倒ごとに首を突っ込みたがる変わり者じゃな』


「いつもすみません、シリア様」


『よいよい。妾とて鬼ではないからの』


 シリア様はサーヤさんに向き直ると、彼女の膝をポンポンと二度叩きました。

 それと同時に、彼女の眼前に以前ハールマナ魔法学園の授業で使用した空っぽの魔石数個と、ちょっとしたメモ書きが出現しました。


「わっ!」


『これを持ち帰り、そのメモに書いてある内容を毎日欠かさずこなすが良い。一か月も続ければ、自ずと成長を実感できるじゃろうよ』


「綺麗な石……。ありがとうございます、シリア様!」


『これを怠るようであれば、妾は金輪際お主の世話なぞ見ぬ。せいぜい鍛練に励むのじゃな』


「はい! シルヴィさんも、ありがとうございました!」


「いえいえ。頑張ってくださいね、サーヤさん」


『ほれ、分かったら早う立って帰れ。妾達も暇では無いのじゃ』


 サーヤさんはすくっと立ち上がると、私達に深々とお礼をして小走りに帰路に着いていきました。

 元はと言えば、シリア様の勝手で呼び出されたはずでしたが、それを気にせず頭も下げてくださる彼女を応援したくなります。


 内心でサーヤさんへエールを送っていると、シリア様がどこかへ向けて歩き出してしまっていました。


『ほれ、何をしておる。妾達もそろそろ向かうぞ』


「あ、すみません!」


 急いでシリア様の横へ並び、歩きながら尋ねてみます。


「ところで、どちらへ向かわれるおつもりですか?」


『“木を隠すならば森の中、人を隠すならば街の中”と言ってな。昔からよくある言葉じゃが、要は物事を隠すには最適な場所があるのじゃよ』


「と、言いますと?」


『巧妙に隠れておるのならば、その道の専門家に聞くのが一番早く確実じゃ。森の事ならば、妾達以上に詳しい奴がおるじゃろう?』


 シリア様が仰りたいことは分からなくはありませんが、それが誰を指しているのかが全く分かりません。

 森に詳しい人となるとかなり限られそうな気もしますが……。と考えながらシリア様の後を付いていくと、王都に設置されていた猫の転移像前に到着しました。

 言われるがままに転移像で行先をフェティルアに設定し、シリア様の先導の末に辿り着いたのは。


「うわっ! 出たなシルヴィ! 今日は何の用? ボク忙しいんだけどー」


 あからさまに不機嫌そうな声色で、見るからに忙しくは無さそうに頬杖を突いているエルマさんの雑貨屋さんでした。

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