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506話 魔女様は花見を楽しむ

 それから一週間後。

 魔導連合の使者の方に迎えに来ていただいた私達は、お花見――もとい、春季魔獣討伐の遠征に来ていました。


「おっ花見~おっ花見~らんららら~♪」


 上機嫌そうにスキップしているフローリア様に続きながら、私達も桜が舞い散る森の中を探索していると、私の隣を歩いていたレナさんが少し残念そうに言いました。


「これだけ満開の桜が見られるなら、無理言ってエミリ達も連れてくればよかったわね~」


『技練祭が特別なだけじゃったな。こればかりは仕方あるまいて』


 今回の遠征はイースベリカの時同様、エミリ達は連れていけないとのことでしたので、ペルラさん達にお願いして、お店の手伝い兼遊び相手として酒場にお邪魔させていただいています。

 念のためメイナードにも残ってもらっているので危険はないのですが、お花見と聞いた時の彼女達の期待に満ちた顔を思い出すと、連れてきてあげることができなかったことに対してかなり心苦しいものがあります。


「せめて、この光景だけでも楽しめるように写真に収めておきましょう」


「そうね~! ほらレナちゃん、エルフォニアちゃん! 寄って寄って!」


「わわっ! 急に引っ張らないでよ!」


「はいシルヴィちゃん、チーズっ☆」


 それは私が言うべきでは無いのでしょうか……。

 とは思うものの、せっかく私とシリア様以外を固めてくださっていますし、一枚収めておきましょうか。

 桜に負けない満開の笑顔を咲かせるフローリア様に、ウィズナビを少し意識してキメているレナさん。そしてやや迷惑そうにしながらもこちらを見てくださっているエルフォニアさんを画面内に捉えて撮影します。

 すると今度は、フローリア様が私と場所を代わるように仰ったため、ウィズナビを渡して並び直します。


「は~い、いくわよ~! さーん、にー」


 ゼロのカウントダウンを待ちながら、とりあえずピースサインをしていると、背後から何かの物音が聞こえてきました。

 ふと気になって後ろを振り向いた瞬間、そこにいたのは――。


『キュルルルルルアァァァッ!!』


「ひゃあ!?」


「うわっ!?」


『なんじゃ!?』


 トカゲとコウモリを足して二で割ったような見た目の魔獣でした!

 急いで杖を取り出して対処しようと思った矢先、誰よりも早く気づいていたエルフォニアさんが繰り出した小さめの影の剣が魔獣の眉間を的確に貫き、飛び上がって来た位置へと落下していきます。


「あ、ありがとうございます、エルフォニアさん」


「浮かれ過ぎよ。もう少し警戒しなさい」


「すみません……」


 そうでした。これはお花見でもありますが、冬眠から目覚めたばかりの狂暴な魔獣を討伐する遠征でもあるのです。

 しっかりしなければと意識を改めようとしていたところへ、何故かケラケラと笑っていたフローリア様が私達へウィズナビを見せながら言いました。


「そんなこと言って、エルフォニアちゃんだって油断してたじゃない! ほらぁ」


「どれどれ……あはは! あんた、意外と表情豊かじゃない!」


「ふふっ。エルフォニアさんでも、意表を突かれることがあるのですね」


『くふふ! これは言い逃れできんのぅ!』


「……少しだけよ」


 フローリア様が撮った写真には、慌てる私達の横で珍しくぎょっとした顔を浮かべながら振り返っていたエルフォニアさんが、しっかりと収められているのでした。





 無事に魔獣の掃討を終えた私達は、各々で好きな場所を取ってお花見を楽しんでいいとの許可が下りたため、適当なポイントを探して休憩することにしました。


 シリア様お手製の猫のレジャーシートを敷き、今日のために沢山作って来たお弁当を取り出すと、フローリア様のお腹がもう待ちきれないと鳴き声を上げました。


「ほらシルヴィちゃ~ん! 早くご飯にしましょ? ね? ね?」


「ふふ、では今お分けしますね」


 ずっしりとしたお弁当の蓋を外すと、中身を覗き込んでいた皆さんから歓声が上がります。


「うそっ、おにぎりまであるの!? シルヴィ分かってるー!!」


「わぁ~! と~っても美味しそうじゃない!」


『ほぅ! これはまた、彩り豊かじゃのぅ!』


「これは凄いわね……」


「一段目は、主食となるおにぎりをたくさん作ってみました」


 大根の葉を細かく刻んで味付けしたもの、薄いお肉を巻いて焼いたもの、梅の煮汁を染み込ませて桜色にしたもの、炒り卵をちりばめたものなどなど。ハムを桜の形に切ってちょこんと乗せてたりもするので、見た目としても非常に楽しめるはずです。

 続けて、二段目を開けながら簡単に説明をします。


「こちらは、メインとなるおかず類です。花形にした卵焼きと、ハムのお花。二色パプリカといんげんをお肉で巻いたものと、甘めのタレで味付けした一口チキン、そして鳥の手羽元を使ったチューリップから揚げです」


「わぉ!? なにこれシルヴィちゃん! 小さなプリンが入ってるわよ!?」


「それはレナさんの世界の料理で、茶碗蒸しと言うそうです。触感はプリンに似ていますが、中身は野菜や小さなお肉などが入ってますので、ちゃんとしたおかずですよ。それに、器はカブを使っているのでそのまま食べることもできます」


「うぇ!? 器ごと食べられる茶碗蒸しとかすご!! シルヴィさ、もう魔女辞めてシリアと食堂開いた方がいいんじゃない?」


『くふふ! それも悪くはないやもしれんな!』


 レナさんの冗談に笑い返しつつ、シリア様と食堂で働く自分の姿を思い描きます。

 私は恐らくずっと厨房だとは思いますが、シリア様が召喚した猫のゴーレム達と楽しく料理をしていることでしょう。そしてシリア様は、お店の看板猫としてお客さんから愛されるはずです。

 ですが、私が魔女を辞めたとしても、エミリはきっと一緒にいたがることでしょう。そうなれば、可愛らしい服装に身を包んだ彼女は配膳係として頑張ってくれるに違いありません。


 どれだけ先の未来か分かりませんが、その頃はレナさん達はどうなるのでしょうか。

 そう考えてみたものの、なんだかんだ私達と一緒にいるような気がしてしまいました。

 フローリア様は配膳係で、レナさんは料理の腕が上達していたら私と一緒に厨房へ。メイナードは……流石に手伝ってくれなさそうですが、お店で暴れようとした人がいたら真っ先に追い出しそうな気がします。


 そして、きっとエルフォニアさんは週に何度か訪れては、ゆっくりとお茶を楽しんでいるのでしょう。


「ふふ。魔女としてやることが無くなったら、考えてもいいかもしれませんね」


 あり得るかもしれない未来を笑いあいながら三段目を開けると同時に、私の頬に冷たい何かが押し付けられました。


「ひゃあ!?」


「だっはははは! 相変わらず反応最高だなシルヴィちゃん!」


「へ、ヘルガさん!? それに、アーデルハイトさんも!」


「よっ、レナちゃんとフローリアさんも元気そうで何よりだぜ! もちろん、シリア様もな!」


 振り返るとそこには、お酒の大瓶を両手に持ち、既に少し顔を赤らめているヘルガさんとアーデルハイトさんの姿がありました。

 ヘルガさんは当然のようにレジャーシートの一角を陣取り、私のお弁当を覗き込みながら感嘆の声を上げています。


「すげぇなシルヴィちゃん! これ、全部手作りか?」


「え、えぇ。よければご一緒にいかがですか?」


「さっすがシルヴィちゃんだぜ! いっただっきまーす!」


「あぁー!? あたしが目を付けてたのにー!!」


「ふぉおおお! うんへえええ!!」


「口に物を入れながら喋るな、行儀の悪い」


「もぐもぐ……。いやでもよ、マジでうめぇんだって! ほら食ってみろよトゥナ!」


「私は別に――むお!?」


「な? な? うめぇだろ? うめぇよな!?」


 無理やりおにぎりを食べさせられたアーデルハイトさんでしたが、子どものような笑顔を向けるヘルガさんに咀嚼しながらも頷き、飲み込み終えると柔らかく微笑みました。


「あぁ……。初めて食べる料理だが、こんなに美味い物は食べたことが無い」


「だろぉ!? いいなぁレナちゃん達! こんなにうめぇ飯を毎日食べられるんだろ!? くぅー、羨ましいぜ!」


『くふふ! ならば、お主がシルヴィを貰ってやれば毎日食えるやも知れんぞ?』


「おっ、それはアリっすねシリア様! つーわけでシルヴィちゃん、どうだ!? 俺で妥協しねぇか――あでっ!!」


「調子に乗るな!!」


 思わず身が竦んでしまうほどの鈍い音を奏でながら、彼の後頭部をアーデルハイトさんの拳が襲いました。

 ヘルガさんは前のめりに倒れましたが、そこにはフローリア様の膝があり、ある程度衝撃が緩和されていたようです。


「こらこら。暴力は良くないわよ~? せっかくのお花見なのに盛り下がっちゃうでしょ~?」


「そうだぜトゥナ! あ~、フローリアさんの優しさが染み渡る~」


「貴様……!」


 フローリア様に優しく頭を撫でていただいているヘルガさんに、アーデルハイトさんが拳を震わせながらわなわなと震えています。

 そんなアーデルハイトさんを、シリア様とレナさんがおかしそうに笑い、私の隣にいたエルフォニアさんが迷惑そうに溜息を吐きながらもお弁当からおにぎりを取っていきました。


「これだから、人数の多い食事は嫌いなのよ」


「ですが、たまには賑やかな食事も悪くないとは思いませんか?」


 彼女は私を一瞥すると。


「たまには、ね」


 そう返し、自分は関わらないと言わんばかりの表情でおにぎりを口に運ぶのでした。

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