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504話 異世界人は攻めきれない

 レナさんは普段から最高速度で攻めてくるということはあまり無く、まずは体を温める目的で肩慣らしの攻撃を繰り出してくるのですが、その時間は私にとっても集中力を高める大切な準備時間です。

 右上段からの回し蹴り。そして結界に防がれることを想定し、それを壁と見立てて宙返りをした後で、今度は速度を一段上げて足元を狙った足払い。

 飛び下がったところへ、追撃として振り下ろされる踵落としは結界で受け止めますが、その結界を踏み台にして私の背後へ回り込み、背中を狙ったパンチも同じく結界で阻みます。


 徐々に速度を上げていくレナさんに合わせるべく、私も彼女の桜の花弁に気を配りながら反撃のチャンスを狙い続けます。

 ですが、レナさんもレナさんで私にそんな機会は作らせないとしているようで、距離を取っては即座に詰め、私の集中を乱すように派手に動いて対応を遅らせようとしてきます。


「あはは! いいわよシルヴィ! まだまだ上げていくからね!!」


「望むところです!」


 その言葉通り、レナさんの攻撃速度がさらに増し、舞い散る花弁も相まって視認性が徐々に悪くなり始めていきます。

 しかし、こうなってくると今度は目で追うよりは魔力を追った方が早く、彼女が纏う風に合わせて結界を展開することで対応ができるのです。


 その弱点はレナさん自身も理解しているようで、今回は加速だけでは無くわざと速度を落とした攻撃を絡ませることで、私の油断を誘っているようでした。

 本当に、嫌らしい戦い方です。そう思うと同時に、何故か楽しくなってきている自分に驚いてしまいました。


「シルヴィ、楽しそうね!」


「はい。こうして捌き続けるのは大変なのですが、それを楽しんでいる私がいるようでして」


「へぇ! じゃああたしと全く同じことを考えてたって訳ね!」


「レナさんもですか?」


「そっ! いつも傍にいるけど、こうしてお互いに全力を出しあえる人って滅多に会えないのよ! ちなみに、こういう関係性を何て言うか教えてあげようか?」


「ぜひ」


 彼女は私から大きく距離を取ると、暴風と共に黒い渦を身に纏い始めました。

 これは間違いなく、あの嫌な感じの力を使ってくるつもりです。そう判断し、私も神力を発動させながら迎撃に備えていると、予想通り踊り子のような黒い衣装へ変更したレナさんが、ビシッと私を指さしながら教えてくれました。


「友達で、ライバルって言うのよ!!」


 その直後に彼女の姿が掻き消え、直感で胴体を守るように結界を展開したと同時に、これまでとは比にならないほど重く早いアッパーカットが私の結界を襲いました。

 結界越しでも感じる、このどす黒く重たい負の感情……。これがシリア様が仰っていた、“憎悪を燃やして魔力に転換する力”ですか。

 そんなことを考えながら観察しようとしていると、彼女が拳を撃ち込んだ部分から少しずつではありますが、私の結界が黒く侵食され始めているのに気が付きました。それに伴い、私の中で沸々と恐怖に近い感情が込み上げようとしてきます。


 これは危険かもしれません。

 そう判断し、慌てて彼女を弾き返して距離を取ると、先ほどまで私を襲おうとしていたあの感情は霧散していきました。


「まさか、レナさんのその力……。相手の精神にも干渉できるのですか?」


「ご明察。だから、長時間あたしの攻撃を受け続けるのは危ないとだけ教えてあげるわ」


 こんな方法で、私に対する対策を練って来ていたとは思いませんでした。

 ですが、考えてみれば合理的かもしれません。


 堅牢すぎる守りを崩すのならば、正攻法ではない手段を取るしかありません。そのためには、相手の弱点を突くことが重要となります。

 これはかつてシリア様が仰っていた、戦いにおける戦術のひとつですが、物理的な攻撃や、魔法による攻撃の殆どを防ぐ私に対しては非常に効果的ですし、私の課題でもある“精神攻撃への対策”を見事に突いてきています。


 それほどまでに、レナさんの中で私という存在が脅威となっているのでしょう。

 そう考えると、不思議と嬉しいという感情を覚えると共に、それを上回りたくなってきました。


「ご忠告ありがとうございます。ですが、レナさんの全力……私が全て受け止めましょう!」


「言ってくれるじゃない! それじゃ、手加減無しで行くからね!!」


 再び消えるレナさんでしたが、今度は私の側頭部を狙った回し蹴りでした。

 その攻撃を“防ぐ”ではなく“弾く”に切り替え、なるべくレナさんの攻撃が結界に触れる時間を作らせないように心がけていきます。

 しばらくそんな応酬を続けていると、突然レナさんの魔力がややブレたように感じました。


 まさか、レナさんの力の制限時間が? とか思ってしまった次の瞬間。


「ガラ空きよ!!」


「きゃあ!?」


 前方にいたはずのレナさんの声が背後から聞こえ、強烈な衝撃が私の背中を襲いました!

 ソラリア様の加護のおかげで直接では無かったものの、蹴り飛ばされたのだと気づくまでに数秒要してしまいました。何とか体勢を整えて攻撃を仕掛けてきた方を注視すると、そこにはレナさんがもう一人立っているではありませんか。


「「ふふん。この状態だから魔法が使えないとか、油断してもらっちゃ困るわ」」


 全く同じタイミングで口を開くレナさん達。

 あれは間違いなく、レナさんの桜で作り出された分身です。


「そっちがそう出てくるのであれば、そろそろ私も攻勢に出た方が良さそうですね」


 手早く杖を自身の周囲に数度突き、守護結界を作り出そうとしますが、そうはさせないとレナさん達が同時に攻撃を仕掛けてきます。

 これは間に合いません。と断念し、その場に印のみを残して素早く回避に移ります。

 ほぼ真反対から繰り出される攻撃に、私は結界での防御と回避を同時に要求されますが、それでも何とか印を付けながら逃げ回ることで、六印の守護結界を展開することができました。


 ドーム状の結界を崩さんと幾度となく攻撃を繰り返し、少しずつ力の侵食を進めていくレナさん。

 それに応じて、私の中で恐怖が駆り立てられていきますが、何度も怖くないと自身に言い聞かせ、召喚のための陣を展開していると、レナさんからの精神面への攻撃が若干緩やかになっていくのが分かりました。

 私の弱点克服には全て、意思の強さが求められるのかもしれません。

 であれば、この実戦においては、私はシリア様に認めていただいた強い魔女であることを想起し続けましょう!


「我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


「「ニャー!!」」


「……えっ!? 何それ!?」


 私の呼び声に応じ、可愛らしくデフォルメされた騎士姿の猫達が飛び出してきました。

 困惑するレナさんに杖先を向け、猫達に鋭く指示を飛ばします。


「彼女を取り押さえてください!」


「ニャニャ!」


「ニャー!!」


 猫達は勇ましく結界から飛び出していき、真っ先に右側を攻めてきていたレナさんを狙い始めました。すると、左側にいたレナさんが慌ててフォローに入り始めます。


「ちょちょっ!? なんで本物がこっちってバレてんの!?」


 私には見分けがつきませんでしたが、猫達にはお見通しであったらしく、本物のレナさんが若干距離を開けようと分身を使って迎撃しているのが分かります。

 もしかしたら、魔力で生み出されている猫達からすれば、同じ魔力体である分身は分かってしまうのかもしれません。

 これはある種、レナさんへの特効手段になりそうです。そう記憶しながら、私自身も彼女に向けて追撃をするために拘束魔法の準備を進めます。


「やばっ……うっ!!」


「捕えました!!」


 猫達の猛攻に対処せざるを得なくなっていた一瞬の隙を突き、神力を込めた拘束魔法を放つと、レナさんの本体がそこから逃れようと強烈な抵抗を始めました。

 しかし、猫達からの攻撃の手が緩んでいない状態で、それを避けつつ拘束からも逃れるのは無理があったらしく、しばらくもがき続けた後で拘束が完了してしまったレナさんは、地面に顔から転んでしまいました。


『くふふ! 勝負ありじゃな!』


「あーもう! 行けるかと思ったのにぃー!!」


「惜しかったわねーレナちゃん! やっぱり、シルヴィちゃんに召喚の隙を与えちゃダメね~」


『うむ。唯一使える攻撃手段ではあるが、発動さえできれば神すら圧倒できる魔法じゃからな。押し切れんかったお主の負けじゃよ』


「それじゃ、明日からはメイナードくんの防御を崩すトレーニングにしようねレナちゃん!」


「アイツの防御は、シルヴィみたいな純粋なのじゃないからやりにくいのよ……」


 楽しそうにコメントする神様お二人に悔しそうにしながらも、レナさんは満足そうに私に笑いかけます。


「でも、すっごく楽しかったわ! またアイツがいない時、相手してくれない?」


「えぇ、喜んで」


 拘束を解き、レナさんに手を差し伸べて起こそうとした瞬間、召喚していた猫達が彼女を取り押さえんと上からのしかかり始めました!


「ぐえっ!? な、何!? もう決着はついたでしょ!?」


「あっ……。すみません、この子達は一度出した指示は私がキャンセルするまで止めないんでした」


「えぇー!? ちょっと、早く下ろしてよ! 重いし苦しい……!!」


 猫達を帰還させるも、しばらく下敷きにされていたレナさんは、戦闘の疲れもありぐったりとしてしまっていました。

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