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10話 魔女様は見学する

シルヴィ達が勝ち進んだ場合、いずれぶつかるであろう強大な魔女エルフォニア。

初戦で出場する彼女の試合の様子を見たシルヴィ達は、自分達が相手をしなくてはいけない圧倒的な存在に気圧されてしまい……。

 ペア組がだいぶ落ち着いてくると、それを見計らうかのようにアーデルハイトさんから説明が行われました。

 模擬戦はまず、各ブロック内でトーナメント形式で行われるとのこと。そして各ブロックの優勝者が代表となり、上位決勝に進出するとのこと。そこで全勝した人が技練祭初日の勝者だそうです。


 ブロック内で行われる試合は合計三回。さらに勝ち進むとなると、上位決勝で二回加わり五回の模擬戦を行うことになります。体力が持つか心配になるくらいには先が長く感じられますが、やり切るしかありません。


 そして敗北条件ですが、魔力切れによる魔法の行使不可や、ダメージ蓄積などで戦闘の継続が不可能になること。そして戦闘エリア外へ出てしまうことが基本的な条件で、その他細かな状況が生じた場合は判断を仰ぐようにとのことでした。


「――さて、説明は以上だ。これより対戦相手の抽選と戦闘エリアの形成を行う。全員芝の外に出て少し待つように」


 アーデルハイトさんの指示に従い外に出ると、彼が腕を横に薙いだと同時に芝の上で赤、青、緑、オレンジと色とりどりな光の柱が立ち上がりました。その光からは、どことなく魔導連合までの移動に使った転移魔法のような魔力の波長を感じ取れます。


「今年初参加の連中もいるから、改めて説明しよう。

 これは各ブロックで行う模擬戦のフィールドへ移転する門だ。この光の柱の中に足を踏み入れると、それぞれ違う行先へと転移される。転移先での様子はこの中央水晶板に映し出されるから、どんな戦闘を行っているのか参考にするも良し、今後のマッチングの対策を練るも良しだ」


 なるほど。となると、それぞれの色がブロックの色に応じているということでしょうか。恐らく私達ウンディーネブロックは、あの青い光がそうなのでしょう。

 一人納得していると、アーデルハイトさんがウィズナビを操作し、大型水晶板に各ブロックでのトーナメント表を映し出します。それぞれ参加者の顔が表示されていて、私達の顔を探すと左端から三番目にありました。つまり二戦目になりそうです。


「ねぇシルヴィ。あそこ」


 トーナメント表を見ていたレナさんが、水晶板の一か所を指さしながら袖を引いて来ました。レナさんが指さす先には、先ほどのエルフォニアさんがサラマンダーブロックの初戦の出場者として表示されていました。その顔はやはり無表情で、とてもつまらなさそうに見えてしまいます。


「少なくとも、決勝に行くまでは当たることは無いみたいね」


「そうみたいですね。幸い私達は二戦目ですし、エルフォニアさんの戦い方を見学させていただきましょう」


「シルヴィはホント真面目ねー。あたしとシルヴィのペアなら誰が相手でも負けないって! ……でも、前回の優勝者の実力は相当みたいだし、警戒するに越したことはないかもね」


 レナさんに頷き、転移門となる光の柱へ姿を消していく選手たちを見送ると、消えたと同時に四分割された水晶板の中に、それぞれの転移先が映し出されました。そこは出場選手が小さく見えるほど広い空間のようで、無地のタイルで出来ている戦闘エリアと、場外を示すかのように小さく昇っている光の柱の他には何もありません。


 初戦の選手が全員入場したことを確認したらしいアーデルハイトさんが、拡声器を手に戦闘の開始を告げます。


「全員準備は良いな? ――よし。それでは第一回戦、開始!!」


 宣言と共に沸き上がる観客席からの大歓声に少し驚きましたが、それと同時に中の様子も動き出したので意識をそちらへ集中します。


 試合開始からの動きは本当に様々なようで、即座に詠唱を始めて攻撃態勢を取る人や、宝石をばら撒いたかと思ったら使い魔を呼び出し始める人、レナさんのように己の身ひとつで突撃する人などなど……。

 魔法を扱う人は色々なタイプがいるのですね、と一人感心しながら視線をずらしてエルフォニアさんの試合の様子を見ると――。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 ――サラマンダーブロック、戦闘エリア。

 戦闘開始の宣言後、互いに探りを入れるように動かない静かな立ち上がりとなっていたが、その静寂を破ったのは屈強な体躯を持ち、黒い髪をオールバックにしている男性だった。


「どうした、何もしかけてこねぇのか? 【暗影の魔女】様よ」


 男性から安い挑発を受けた【暗影の魔女】エルフォニアは、くだらないとでも言うかのようにそれを鼻で笑い飛ばし、言葉を返す。


「あら、舞踏会では男性がレディをエスコートするものではないのかしら? 【背水の魔導士】さん?」


「はははっ! 戦場すら舞踏会とは言ってくれる!」


 快活に笑い返す男性――【背水の魔導士】バモスは、すっと表情を改めて戦士のそれへと変貌させ、両の拳を突き合わせると魔具の装甲を拳に纏わせる。そして臨戦態勢を取ると、距離を詰めるべくターゲットを鋭く見据えた。


「俺のエスコートは手荒なもんでね。せいぜい楽しんでくれ……よ!!」


 そう言うや否や強く大地を蹴り、その屈強な体を弾丸のようにエルフォニアの元へと飛び込ませる。互いの間にはそれなりに距離があったが、それをいとも簡単に縮めようとした。


 だが、それは叶わなかった。


「な……んだ、これは……!?」


 空中で突進した体勢のまま静止するバモスが、困惑の声を上げる。それと同時に体を動かそうともがいてみるが、まるで何かに捕まれているかのように微動だにしなかった。

 エルフォニアはその様子を見届けると、くるりと身を翻して戦闘エリアの外へと歩み始める。


「お、おい! どこへ行く!?」


「ごめんなさいね。私、エスコートされる男性は自分で決めたいの。あなたみたいに情熱的な人は嫌いではないけれども、単調なイノシシには興味が無いわ」


「なっ……」


 呆気に取られるバモスを無視して歩みを進め、外周の数歩手前へ辿り着いたエルフォニアは、滑稽な姿で静止しているバモスへ小さく振り向くと微笑した。それは、これからバモスを襲う何かを予期させるには十分すぎるほどで、バモスは唯一自由に動かせる顔を青ざめさせながら言葉の続きを待つほかなかった。


「さようなら、イノシシさん」


 発言と同時にエルフォニアが指を鳴らすと、突如としてバモスの背後から無数の黒い剣のようなシルエットが出現した。それはまるで、影で出来ているかのような漆黒だが、影にはない鋭利さを感じさせるものだった。エルフォニアは人差し指を下へ振ると、影の剣は切っ先を彼の体に捉え、そのまま降り注いだ。


「がっ!? ぐ、がああああああああああ!!」


 バモスの断末魔を聞きながら、再度エルフォニアは外周へと足を向ける。すると戦闘が終わったことを示すかのように昇っていた光が消え、転移門が現れた。エルフォニアは一度も振り返ることなく、そのまま足を踏み入れて姿を消した。


 ――サラマンダーブロック、第一回戦。勝者エルフォニア。


 ☆★☆★☆★☆★☆

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