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494話 魔女様は共有する

 食後のお茶を用意していただき、私達は改めてシリア様の過去を通して知った出来事の共有を始めていました。


「え!? じゃああのプラーナって人は、元はリンディって名前のシリアの弟子だったの!?」


「恐らくそうなりますわね」


「彼女が持ち出したシリア様の神力の研究資料のおかげで、魔術師の方々が魔術刻印という形で魔法無効化術式を使っているのだと思います」


「ちょ、ちょっと待って。情報過多すぎて頭こんがらがりそう」


 レナさんが頭を抱えてしまうのも無理はありません。

 当時を見て来た私達ですら考えなければならない部分が多いのに対し、皆さんは全く事前知識が無い状態でこの話を聞いているのですから。

 ですが、当時から交友のあったラティスさんはすんなり理解できていたようで、腕組みをしながら確認するように口を開きました。


「では、魔術師の長であるプラーナを相手取ることができるのは、神力かそれに準ずる力を使える者だけという事ですね」


「そうみたいねぇ~。普通の魔術師なら、魔術刻印の限度を上回る火力で押し切れるけど、オリジナルを持っているプラーナちゃん相手だとそうもいかないし」


(わたくし)やラティス、あとエルフォニアが従えていた悪魔の力でも容易に防がれておりましたもの。基本的に魔法では対処ができないと考えるべきですわ」


「魔法が効かない相手って、それこそシリア様が過去に倒したというドラゴンくらいしか聞いたことなかったですね~……。世の中は本当に広いですね、シルヴィ先生?」


「魔法が効かないとされているドラゴンを、一撃で倒してしまうのもどうかとは思いますが……」


『くふふ! アラドヴァルやラーグルフなどを除けば、現存する魔法の中でも最大火力の魔法じゃからな!』


 聞いた話によれば、シリア様やラティスさんが使っていたアラドヴァルやラーグルフと言った武器は、神話に登場する伝説の武器を模した超高難易度の魔法であるようです。

 当時ユースさんが使用していた“ミストルティン”という武器だけは実在していたようで、例に洩れず地下迷宮(ダンジョン)で偶然手に入れたそうですが、その他はレオノーラから教わった禁術をベースに、シリア様の創造魔法で改良した使い手を選ぶ魔法なのだとか。

 一応、こちらは誰もが使えるものであるようですが、ラティスさんに並ぶ程度でなければ暴走させて自滅するのが関の山と聞き、私は一生無縁であるという認識に落ち着いています。


「それじゃあ、実質シルヴィかシリアじゃないと倒せないってことよね?」


『何を寝ぼけておる。お主も戦えるであろう?』


「え、あたし?」


 きょとんとするレナさんにシリア様が頷き、男性の姿を取っておられる大神様がシリア様に代わって続けました。


「レナが扱う力は、この世界の理の外にある力です。魔法、魔術、神力……そのいずれにも属さない力ですので、対抗手段として数えて良いでしょう」


「えぇ!? あたしのアレって、シリアが禁止した魔法って聞いたわよ!?」


「原型はそれですが、お前という異分子が扱うことで性質が変化しているのです。さらに言えば、お前がフローリアから受け取っている加護の力も合わさっていることから、お前が扱う魔法はこの世界のそれと似て非なるものです」


「やぁ~い、レナちゃんの異分子~!」


「誰が連れて来たのよ誰が!!」


「きゃあん!!」


 まるで先ほどまでのシリア様とレオノーラの取っ組み合いを再現するかのように、フローリア様に馬乗りになっているレナさんを見ながら、私は苦笑いを向けてしまいます。

 しかし、レナさんからは若干性質の異なる魔力を感じていましたが、まさか異世界の人間と言うことが災いして、こうしてプラーナさんの使う魔術刻印に対抗できるようになっていたとは思っていませんでした。

 思わぬ形で戦力が増えたことに安心していると、大神様がエルフォニアさんへと話を振ります。


「あとエルフォニア。お前の力も対抗手段と数えて良いでしょう」


「私もですか?」


「えぇ。お前が従えているアザゼルは、かつての聖魔大戦で猛威を振るった大悪魔ですが、その力から学びを得ているお前の闇魔法もそれに引き寄せられています。今のお前ではその全てを引き出せていないようですが、悪魔の魔力を十全に使えるようになれば、お前もあの刻印を破ることができるでしょう」


『悪魔じゃと!?』


 ぎょっとした声を出したシリア様。

 そう言えばシリア様は、エルフォニアさん達が救援に来てくださった時には、既にプラーナさんの一撃を受けてしまった後でした。


「はい。私も少ししか見えてなかったので詳細は分かりませんが、エルフォニアさんがレオノーラのような羽を持った男性を従えているのを見ました」


『大神様! 悪魔がいるというのは本当なのですか!?』


「本当です。エルフォニア、彼を呼び出しなさい」


「今ここでですか?」


「今ここで、です」


 エルフォニアさんは少し考えるそぶりを見せましたが、やがて諦めるかのように息を吐きながら立ち上がり――親指の腹を小さな影の剣で切り裂きました!


「きゃあ!?」


「え、エルフォニアさん! どうしたの!?」


「ち、血が出てしまってますエルフォニア様!!」


「ごめんなさいね。でも、これが必要なのよ」


 ざわめく私達にエルフォニアさんは小さく謝り、小声で何かを詠唱しながら、亜空間収納の中から取り出した魔石に似た何かを砕きました。

 それと同時に彼女を中心とした赤黒い渦が沸き起こり、その渦が収まった頃には。


「おいおいおいおい……。何だってんだよこの状況はよぉ。ご無沙汰じゃねぇか、大神ぃ?」


「久しいですねアザゼル。随分と丸くなったように見えますが」


「ケッ。テメェを今すぐにでもぶち殺したいくらいには苛立ってるぜ?」


「でも行動に移さないあたり、よほどエルフォニアが大切なのですね」


「うるっっっっっっせえんだよ、ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁか!!!」


 まるで子どものような悪態を吐きながら、アザゼルさんは中指だけを立てた右の拳を大神様に見せつけました。


『よもや、本物とは……!!』


 悪魔の出現に身構えるシリア様は分かるのですが、何故かレオノーラは片膝を突いて平服し出します。

 もしかして、悪魔という存在は魔族と深い関りがあるのでしょうか。


「お初にお目にかかります、悪魔の王アザゼル様」


「あ? あーあー、そう言うのいらねぇんだわ。今の世界じゃ、魔王であるお前さんの方が偉いだろうがよ」


「しかし、御身のお力の前では我が力なぞ微々たるもの。貴方様と対等になどいられません」


「つっても、オレ様ももう昔ほどの力はねぇんだわ。そこの大神とかいうクソ野郎にコテンパンにやられちまったからな」


 アザゼルさんはさらっと大神様に悪態を吐きながらレオノーラの傍に屈みこむと、その顔を見るようにレオノーラの両頬を右手で挟み上げます。

 じっとその顔を見つめていた彼は、やがてにへっと笑うと。


「い~い女じゃねぇか。どうだ、いっぺんオレ様に抱かれてみねぇか?」


「子どももいるんだから、そういう発言はやめてもらえるかしら」


「ぁいっで!?」


 最低な口説き文句を口にした直後に、エルフォニアさんによる回し蹴りが彼の側頭部を襲いました!

 壁に激突した彼は、両足の間から顔を覗かせる形で床にずり落ちながらも不服そうな声を上げます。


「んだよエルちゃん! いいじゃねぇか、ちーっとくらい冗談言っても!」


「聞こえなかったかしら。まだ十歳前後の子どもがいるの」


「あでっ! わ、分かった分かった! もう言わねぇよ!」


 あ、あの人は本当に、レオノーラが敬服するほどの悪魔なのでしょうか……。

 まるでゴミを見るような目でエルフォニアさんがゴスゴスと蹴り続けている姿に、大神様が小さく笑います。


「あのアザゼルが、ただの人の子に足蹴にされる日が来るとは……。時間という物は面白いですね」


「っせぇぞカス! 見てんじゃねぇぞオラ!!」


「その汚い口調も今はやめてもらえないかしら」


「あーっ!!! エルちゃんそれはマジでいてぇよ! ピンヒールって凶器なん――ぎゃあああああ!!」


 魔族の王がひれ伏す悪魔の王に、何の躊躇いもなく蹴りを入れる魔女。

 その謎のパワーバランスを見ながら、私は何とも言えない気持ちになるのでした。

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